PickUp 9. はしゃ
レムが居なくなって、一方……な感じ。
「――いざっ、尋常にその首差し出しなないっ!!」
◇◆◇
「おや、シャトゥ。お帰りなさい」
「あ、うん。ただいまなのです、母様」
「今日はどうしたのです?」
「うむ。それはですね、私の地上での修行もそろそろ飽き……」
「飽きたのですか?」
「い、いえ。そうではなくて。……時は来た! 因縁に終止符を打ち、遂に愛しきレムめを討ち取るその日が来たのですっ」
「旦那様ですか?」
「うむ。それで、レムは何処なのですか、母様?」
「旦那様なら今、ご不在ですよ、シャトゥ」
「……母様、レム居ないの?」
「ええ。つい先ほど、『俺ってまだまだ未熟なんだな。俺、自分を鍛え直すために旅に出るよ』と仰られてお出かけになられましたよ」
「むむっ、レムめ。さては私の事を気取って逃亡しましたねっ」
「そうですね。旦那様に限って言えば、その可能性がないわけでもないですね」
「うむ! と、言う事はレムの敵前逃亡で私の勝利?」
「いいえ、シャトゥ。むしろ旦那様に存在を気取られてしまったあなたの方の完全敗北です」
「わ、我の完全敗北――!?」
「ええ」
「ぐ、ぐむむむむっ、流石はレムと言ったところですか」
「ええ、本当に。旦那様は逃げることと避けることと危険を気取ることに限ってのみ、私をも上回りますからね。――最も追い込む手段などいくらでもありますが」
「うむ! つまりはレムは“へたれぇ~”さんなのですねっ!」
「その通りです、シャトゥ」
「うむうむ。レムも変わりないようなのでちょっぴり安心なのです」
「シャトゥも、地上では息災でしたか?」
「うむ。私はいつでも無敵、常に素敵なシャトゥちゃんなのです!」
「そうですか。それは良い事ですね」
「うむ! それに信者の方々も順調に増えてきていてますっ」
「ええ、知っていますよ」
「うむ? 流石は母様なの。……ただ」
「ただ?」
「う、うむ。私が立派に成長したこの姿を、今は亡き下僕一号様に見せてあげられないのが、心残りなの」
「下僕一ご……ああ、ファイ様の事ですか」
「はい、母様」
「そうですか。ファイ様にシャトゥの立派な姿を見せられない事が心残り……」
「そうなのです。……でっ、でもね、母様、下僕一号様もまだ未練を持っているのか、この館の中で時々見かけるの。……がくがくぶるぶる、ゆ~れいさんは苦手なのです」
「――ああ、それならば私も確かによく見かけますね」
「か、母様もなのですかっ!?」
「ええ」
「……下僕一号様、まだ未練いっぱいなのですね。どうかお願いですから安らかに成仏して下さい……」
「……」
「それはそれとして母様っ?」
「はい、何ですかシャトゥ」
「“燎原”は何処ですか?」
「アルーシア様、ですか?」
「うむ。レムが居ないならいないで仕方ないのです。私は久しぶりにあの子で遊ぶことにしますっ」
「アルーシア様で、遊ぶ……」
「……母様?」
「――いえ、そうですね。相手が“シャトゥルヌーメ”であるならば逆に丁度良い刺激になるかもしれませんし。アルーシア様ならば今、他の方々と一緒に勉強の最中ですよ?」
「お勉強?」
「ええ。取り敢えずは旦那様から身を守る護身術と、旦那様を貶めるための策棒術、旦那様を出し抜くための危機管理能力、旦那様を油断させるための日常的な振る舞いや掃除・料理等、他にはいざという時の為の夜伽の際の“必殺”の房中術――まあ、実に一般的な常識を教えています」
「……うむ、相変わらずレムも大変そうなのですね」
「今日は確か、訓練室で護身術を習っているはずですが――シャトゥ、見に行きますか?」
「うむ!」
「では、こちらです。ついてきなさい、シャトゥ」
「はーい、母様っ、――!? い、今下僕一号様の幽霊がッ……!!」
「そうですか?」
「がくぶるがくぶる……か、母様、早く行きましょう! ここは良くないのです!」
「……そうですね。では行きますか、シャトゥ」
「うむ! うむ!」
◇◆◇
と、言う訳で間の悪いシャトゥでした。
……ちなみに未だファイを死んだと思っているシャトゥ。