ど-545.希望の朝が来た
……おくれた。
「……、」
「おはようございます、旦那様」
「あ、ああ。お早う」
「本日も良い天気、快晴で御座いますよ?」
「っ――眩し」
「ご朝食は如何なさいますか? 今すぐ召し上がると仰るのでしたら、ただちに運んで参りますが?」
「朝食……、そうだな、うん。貰おうか」
「はい。では、」
「んっ――ああ、確かに今日も良い天気だなぁ。て、天候なんて結界で制御してるから快晴も何もないんだけどな……」
「お持ちいたしました」
「応、って相変わらず滅茶苦茶早いな」
「旦那様をお待たせする訳には参りませんので、至極当然の事に御座います」
「や、それにしても早すぎるって話なんだけどな。普通に料理を作ったり、もしくは取りに行くだけだとしても明らかに早過ぎるだろ」
「旦那様への愛が不可能を可能とさせます」
「はいはい、真顔で冗談は結構ですよー」
「はい。実際の所、旦那様の行動は一から五百六十七までほぼ全て、把握しておりますので。旦那様の行動を先読みするなど造作もない事に御座います」
「造作もないとか、既にそう言うレベルじゃない気もするんだけどな……んで、今日もやっぱりファイの手作り料理、なのか」
「はい。今日も良い具合に煮え立っております」
「……今から食べようとするモノに煮え立つも何もないと思うんだけどな」
「では本日も容器を溶かす速度が尋常では御座いませんので親はくお召し上がりくださいませ、と言い直す事に致します」
「そっちの方が、それはヒトに食わせる類のモノじゃないだろって話だなぁ、おい」
「旦那様ならばイケます」
「……こんなものを毎日三食食べてて俺ってよく死なないよな、ってつくづく思うんだが?」
「はい。私もそう思います」
「そー思ってるんなら、お前が代わりに俺の食事を三食作ってくれね?」
「まあ、旦那様。食事を三食作ってくれ、などまるでプロポーズの様なお言葉で御座いますね」
「じゃ、別にお前じゃなくても良いや。つか、ファイ以外なら断然マシなもの作れるだろ」
「それではファイ様が余りにもお可哀そうだとは旦那様は思わないのですか?」
「ヒトには向き不向きがある」
「それを言ってしまえば旦那様など何も出来なくなってしまうではありませんか」
「そんな事はない」
「旦那様に向いていることと言えば逃げることと逃げることと逃げることと……他に何か御座いましたか?」
「当然……ほら、例えば女の子を口説き落とす――、……」
「口説き落とす、何でしょうか?」
「いや、まぁ、うん。さ、サバイバル知識とかっ」
「それは向いているいないに関わらず経験の差ではないのですか?」
「そうとも言わないでも……ないかもしれないが」
「では旦那様に向いているものなど一切ないと言う事で宜しいですね?」
「い、いや一切ってわけじゃ……ないぞ。逃げる事とか、避けることとか得意だし、俺」
「それは一般に言われるへたれ属性なるものを極めておいでで居らっしゃる、という解釈で宜しいのでしょうか?」
「それは違う」
「はて? どのあたりが違うのか、無知蒙昧なる私めには解りかねますが」
「……それはお前の理解力が足りないだけだっ」
「はい、そうですね。旦那様が仰られるのでしたら、恐らくはその通りなのでしょう。私にもまだまだ精進が足りぬ、と言う事ですね」
「いや、お前がこれ以上精進したら一体どうなるんだよ」
「一層旦那様のお役にたてる私になるかと」
「一層俺の役に……、ん? 今って俺の役に立ってる?」
「はい。それは当然、胸を張って肯定いたします」
「……なら一つだけ、聞きたい事があるんだけど」
「はい、如何なさいましたか、旦那様?」
「……あのさ、俺、昨日何してたっけ?」
「昨日ですか?」
「ああ」
「普段通りにお過ごしになられていたと思いますが? ああ、アルーシア様とピクニックへ行かれましたね。それがいかがなさいましたか?」
「……俺、昨日の事全く覚えてないんだけど。どうしてだろ?」
「さて? 私は昨日、旦那様の事は完全放置の方向でおりましたので、旦那様の記憶がないと仰られましても、その辺りの事は全く存じ上げておりません」
「そう、か」
「全く、何も覚えておられないので?」
「あ、ああ。――くそっ、昨日、アルーシアとめいいっぱい楽しく遊んだはずなのにッ、どうして俺は何も覚えてないんだっ!!」
「さて?」
「……あぁ、くそっ、ちくしょ。――こうなりゃまずはやけ食い、――ぐぼっ!!!!」
「あ、旦那様。……お目覚めの時間はもう少し、遅かったようですね。では、後ほどおこしに参ります」