PickUp 8. かげろう
レムと、アルーシアと。
「……ん」
「おはよ、レム」
「……――」
「? まだ眠い?」
「……あぁ、夢か」
「うん、そうだよ。コレは夢。だから早く起きよ?」
「……そうだな。夢なら夢で思う存分楽しまなきゃ損だもんな」
「だねっ」
「――おはよう、アル」
「うん、おはよう、レム。今度こそもうちゃんと起きたかな?」
「ああ、起きた起きた。とは言っても夢の中で起きるも何もない気もするけどな」
「それもそうだね」
「でも…………これが夢、か」
「うん、夢だよ。レムにとってこれは悪夢になるのかな? それともいい夢? どっちだろ?」
「どっち、なんだろうな。飛び切りの悪夢かもしれないし、もしかしたら凄く――ずっと望んでいた夢なのかもしれない」
「それってどっち、って感じだね」
「ああ。正直なところは自分でもよく分からない、かな? 今すぐ泣きわめきたい気もするし、抱き締めて喜びたい気もする」
「そ、そうなんだ……」
「ああ。だた、まぁ、どちらにしろ一つだけはっきりしてる事があるんだけどな」
「はっきりしてること?」
「ああ。またアルに逢えて、凄く嬉しいって事」
「――……うん、わたしも」
「そっか。そりゃよかった、……て所詮夢だしなぁ。もしかしなくても俺の願望か?」
「違いますー」
「そうか?」
「うん。私はまたレムに逢う事が出来て凄く……嬉しいよ? もう泣き喚きたい位、って言うのかな?」
「なら俺の胸の中で存分に泣いてくれて良いぞ、アル」
「ううん、それは遠慮しておくよ」
「どうして?」
「怖~いレムにイタズラされちゃいそうだから?」
「しないしない」
「そーいうこと言うヒト程信用できないんだって、昔クロちゃんが言ってたよ?」
「俺は例外だから良いんだよ」
「そうなの?」
「ああ。俺は至って紳士なジェントルメンだから。何の問題もなしっ、だ」
「う~ん?」
「なんだ、アルは俺の言う事が信用できないとでも?」
「ううん、違うよ。レムの事は信じてるよ?」
「ならどんと俺の胸に飛び込んでこいっ」
「嫌」
「何故だ!?」
「えー、だって……」
「くっ、コレは俺の夢のはずなのに何で思い通りにいかないんだっ!?」
「………………そんなの恥ずかしいじゃない」
「――て、ああ、夢だからこそ、理不尽で思い通りにいかないのか。そう考えると納得納得」
「そんな事はないと思うよ?」
「そうかぁ? あ、いや、でもこうやってアルに逢う事が出来たって考えると全部が全部、現実程に理不尽のままってわけでもないのか」
「現実だって捨てたモノじゃないと私は思うよ? レムはそう思わないの?」
「んー、でもなぁ、またこうしてアルと話をする事が出来てるんだし……夢から覚めたくない、って言うのは多分こういう気持の事を言うんだろうなぁ」
「……」
「ん? アル、どうかしたのか?」
「んっ、ううん。なんでもな、くはないけど。何だかレムが昔と違って、すっごく恥ずかしい事ばっかり言ってるな、って思って」
「恥かしい……そうか?」
「うん、なんて言うのか、言葉が凄くストレートだよ」
「まあ所詮夢の中だしなー。思ったことがそのまま口から出ちまってるのかね?」
「お、思ったことが……」
「そう、そんな感じ。まあどうせ夢の中だから良いんだけどなっ」
「そ、そうだね……」
「ん? アル、どうかしたのか。何だか顔が――」
「何でもない、何でもないよ。ねえ、それよりもレム、」
「おう? 何だ、どうした?」
「あ、うん。えっと……ぁ、そうだ! ねえ、レム。レムはちゃんと、もっとリョーンさんに優しくしてあげないと駄目だよ?」
「リョーン? ……はて、何処かで聞いた名だな?」
「燎原、って言った方が分かりやすい?」
「……、……、おぉ!」
「え、あれ? もしかしてレム、本気で忘れてた?」
「ああ。あいつが名乗ってた名前なら覚えてるんだけどなぁ」
「名乗ってた名前?」
「ああ、フレッシュとか言う、まあお前どこの生きた死体だよ、って感じなんだけどな」
「…………うわー、レムってば凄い本気で言っちゃってる。きっと今頃リョーンさんの大泣きだよぉ。ご、ゴメンね、リョーンさん」
「ん? どうかしたのか、アル」
「あ、ううん。何でもない。何でもないから」
「そうか? でも、どうしてこう言う日にこんな夢を見たのかね? むしろこう言う日だからこそ、なのか?」
「こう言う日?」
「あ、ああ。アルにこんなこと言っても分からないか」
「うううん、知ってるよ?」
「だからな、明日アルーシアとデート……て、知ってる?」
「うん。明日……もう今日かな? アルアと出掛ける約束してるんだよね?」
「……夢の中だからってなんてご都合主義な」
「そうでもないとおもうけど?」
「ま、まあそう言う感じで、明日は待ちに待ったアルとのデートな訳だ。って言ってもちょっと館の外の丘までピクニック、みたいなものなんだけどな」
「それでもきっと、レムと一緒にお出かけ出来るのは凄く嬉しいと思うよ?」
「そうか? アルにそう言ってもらえると、俺としても嬉しいかな」
「うん、アルアだってきっと楽しみにしてると思うよ?」
「だと、良いけどな」
「大丈夫だよ、レム。アルアはね、きっとまだその気持ちを表現するための方法を知らないだけなんだ。だから大丈夫。レムが楽しめがきっとあの子だって楽しいって思ってる筈だよ」
「そう……だな。全部が全部、アルの言うとおりじゃないかもしれないけど、でも先ずは俺自身が楽しまないと、アルの奴だってちゃんと楽しめないもんな?」
「うん、そうだねっ」
「……うん、こうしてアルと話す事ができたおかげで、何だか少しだけ気が晴れた……落ち着いた? かもしれない。ありがとな、アル」
「どういたしました、だよ」
「……それじゃ、もうそろそろ」
「――起きちゃうの?」
「ああ。ほら、早く起きないと、このまま寝過ごしちゃいそうで怖いからさ」
「お寝坊はいけないことだよ? 約束を破るのはもっとだめ」
「だよな。本音を言えばこのままずっと、この夢の中にいても良いかなって思ったりもするんだけど、」
「それは駄目。そんなおバカなことしてたら私がシロちゃんやクロちゃんに怒られちゃう。私だって、そんなレムは嫌いになるかもだよ?」
「それは困るな。と、言う訳だからちゃんと……そろそろ夢から覚めないとな。たとえどんなに良い夢でも、夢ってのはいつかは醒めちまうモノだから、それくらいなら自分で、自分の意思で起きた方がいいよな、きっと」
「そうだね。でもね、レム――私は覚めない夢って言うのも、きっとどこかにあるんだって、そう思うよ?」
「ははっ、アルがそう言ってくれると、そんないい夢がもしかしたらあるかも、なんて事を本気で考えちまいそうだな。もっとも覚めない夢が悪夢、って言うのだけは勘弁だけどな」
「大丈夫、醒めない夢が悪夢だったその時は、きっとレムが何とかしてくれるから」
「……でも、俺は――」
「ね? そうだよね、レム?」
「……、ああ、そうだな。もしも夢が覚めなくて、それが飛び切りの悪夢だったその時は――いや、たとえそれが悪夢じゃなかったとしても、俺が最高の良い夢にしてやるよ、絶対」
「うんっ、ちゃんと――約束だからね?」
「ああ、約束だ」
「うんっ」
「……、……それじゃ、アル、そろそろ――」
「――――――、またね、レム」
「……――ああ、またな、アルーシア」
……ね、眠い。