ど-541. 失言しますた
ある意味いつも通りの風景。
「……――ヒトには、絶対に逃げてはいけない刻がある」
「……?」
「解るか、アルア?」
「……(ふるふる)」
「ああ、そうか。けどな、アルアにもその内分かる時が来るさ」
「……はい」
「そして、今が俺には逃げちゃいけない時なんだよ、アルア」
「……(こくん)」
「俺はやるっ、俺ならやれるっ、俺はやるぞー!!」
「……(すすすっ)」
「と、言う訳だ、アルアっ――て、アルアー? 何でそんなに遠ざかってるんだ?」
「……」
「――では旦那様、僭越ながらこの私めがアルーシア様に変わりましてお話しをお聞きいたしましょう」
「……、ふっ、良いだろう。今日の俺は一味違う、一歩たりとも後ろへは引かないと言うことを見せてやろうっ」
「はい、旦那様。台詞だけが恰好宜しいです」
「台詞だけじゃないってところを今見せてやるぜッ」
「はい」
「と、言う訳でアルーシアを掛けて勝負だ!!」
「お断り致します」
「お願いだからいきなり話の腰を折らないで!?」
「先ずは何故そのような経緯になっているのかと言う事をご説明いただきたいのですが?」
「あ、ああ、そうだな。そう言えばその説明がまだだったか」
「はい、旦那様。説明不足も良い所で御座いますね」
「うっせぃ。――まあ説明って言っても刻が来た、と言ったところか」
「はぁ、……全く意味が分かりません」
「ふっ、お前さんにはまだ分かるめぇ」
「……旦那様、何処かで頭でも打たれましたか? もしくは何かしら悪影響を受けるようなことがあった、などは御座いませんでしたか?」
「ない」
「左様でございますか」
「ああ、左様だ」
「では、『まだ分かっていない』この私に御説明を願いたいのですが、宜しいですか?」
「ああ、良いだろう。実はな……ちょっと俺とアルアの処遇の違いに気がついてな」
「今更ですか」
「今更とか言うなっ! でもよ、俺とアルアの待遇、ちょいと違いすぎないか?」
「そうでしょうか?」
「そうだとも。つか、俺、ご主人様。一番偉いヒト」
「承知しております」
「アルア、一応俺の奴隷。偉い偉くないで言えば……まあ新入りだから一番底辺?」
「はい、それも承知しております」
「つまり普通なら俺の方が扱いが上であるあの方が下、になる訳だよなっ」
「そうなのですか?」
「いや、そうなのかって聞かれると、まあアルアが酷い扱いを受けるってのは我慢ならない訳なんだが」
「私がアルーシア様に酷い事をするなど、あろうはずが御座いません」
「それは分かってる」
「ですが一応、周囲のものへの体裁が御座いますのでアルーシア様だけを特別扱い、と言う訳にはいかないのが現状で御座います」
「それも分かっている。俺が言いたいのはアルアの待遇の方じゃなくてだな、」
「アルーシア様の待遇ではない? ともすれば旦那様が不満に思われる事など何一つ御座いません」
「御座いませんってテメェが言い切ってるんじゃねえよ!?」
「では不満があるのですか?」
「不満? ああ、あるとも。色々とあるともっ。何で俺よりお前の方がアルアに逢う時間が多いのかとか、他色々となっ!」
「その件のお答えでしたら、私は一応アルーシア様他、旦那様が買い揃えてきた“隷属の刻印”の刻まれた方々の初等教育係兼その方々の適性を視る事になっておりますし、対しまして旦那様は一応とは言えこの館で一番偉いお方なればこそ、旦那様に決断していただかねばならぬ業務の数々が――まあ実際旦那様を頼る必要など一切ないのですが、旦那様へ仕事を押し付ける建前上仕方なく、……ということですので致し方ない、当然の結果かと」
「何か随分と色々ツッコミどころがある説明をありがとよっ!」
「いえ、お褒めいただくなど、勿体ないお言葉」
「と言う訳だっ、いい加減俺がアルアに逢えない時間が多い事に積もり積もった不満が遂に爆発した訳だ!!」
「御自分で爆発した、などと仰られても……」
「うるさいやい! と言う訳だからアルアを掛けてお前と勝負だ!!」
「何故、私となのでしょうか? それと何だかんだ言いつつも旦那様、仕事の合間を見つけ、或いは巧妙に抜け出してアルーシア様にお会いする時間を作っていらっしゃるでは御座いませんか――時間にして一日の半分程ですか。……それだけでは不満なのですか?」
「ああ、不満だとも!! 出来ればアルアとは一日中べったりとしていたいつもりだ!!」
「……!(だっ)」
「旦那様、アルーシア様がお逃げになられました」
「……それは分かっている」
「旦那様の余りの気持ちの悪い暴言に耐え切れなくなったのですね、お可哀そうに」
「それは違うっ! 違う……はずだ」
「ですが今、明らかに旦那様の発言を聞いてアルーシア様はお逃げになられましたが?」
「ぅ……、むぅ」
「仕方ないので一日中べったりするのはアルーシア様ではなくこの私で我慢して下さいませ」
「――お前、俺を暗殺する心積もりか!?」
「滅相も御座いません。何故そのような事になるのか、ご説明いただいても?」
「や、普通にお前と一日中一緒にいたら俺がストレス死するだろうが」
「左様で御座いますか」
「左様だ」
「……、所で旦那様、旦那様が掛けの対象とされたアルーシア様はお逃げになられたのですが、私との勝負の方は如何なさるのですか? ちなみに旦那様、私との“勝負”は全敗無勝の成績なのですが、それでも勝負なされるおつもりで?」
「……ふっ、アルアが居ないんじゃ勝負しても仕方ないなっ! べっ、別に今更お前と勝負するのが怖くなったとかそういう訳じゃないんだからな!」
「はい、旦那様。承知しておりますとも」
「そ、そうか。ふんっ、なら良いんだ、それならな」
「はい。では、私は逃げたアルーシア様を追って、」
「いや良い。逃げたアルアを追うのとか、それは普通に考えて俺の役目だから」
「アルーシア様が逃亡を図る原因を作られたお方が何を戯言を仰るのでしょうね?」
「そ、それは……ほら、きっとアルアは何か、トイレとかが我慢できなくなっただけで、別に俺から逃げたとかじゃないんだっ……多分」
「そうだとよろしいですね?」
「そうなんだよ、絶対!!」
「はい、取り敢えずはそのようにしておきますが、アルーシア様を追いかけるのはどうかこの私にお任せ下さいませ、旦那様。それに余りしつこすぎると嫌われてしまいますよ?」
「……むぅ」
「旦那様?」
「よし、良いだろう。今回だけはその役目、お前に譲ってやるさっ、ああ譲ってやるともっ、ただし今回だけだがな!!」
「はい、負け惜しみありがとうございます、旦那様」
「ま、負け惜しみじゃないやい!」
「そうですね? と言う訳で私はアルーシア様を追いかけようと思いますが、宜しですね?」
「あ、ああ。分かった」
「お一人で寂しい想いをするかと思いますが、本当によろしいですね?」
「念押さなくて良いから。それから一人で寂しいとかないから。良いからさっさと行け」
「はい、旦那様」
……ヤバいっすなぁ、また更新が遅れて……うん、気をつけないといけないのは分かってるのですが、最近やる気ゲージが上がらないことが多くて……気力の問題?
ま、そのうち何とかなるかなーと。
・・・日常、日常。