PickUp 6. しと
う~む? 何でこんな感じになっているのでしょうか?
計画も何もなく、唐突にこんな事に。……びっくりですよ。
取り敢えず少しだけ場所を移して――とはいっても周りは廃墟ばかりで、草むらばかりの周囲は然して変わりないのだが。雑草のない石畳の上で人心地ついて。
レムは彼女“ら”と対面した。
自らをミズと名乗った彼女は――クリアブルーの髪に藍色の瞳、年の頃は18~20辺りか。容姿は最初にレムが評した通り、それなりに美人である。
恰好も珍妙なものではなく、こんな廃墟にいたにしては奇麗すぎる――何処ぞのメイドは例外として――純白のワンピースを着ていてそれなりに見栄えはする、はずだった。
ただ妙におどおどしていたり、相手の目を見ず終始俯きがちだったり、なにより地面に広がる程に無駄に長いその髪が、彼女の印象を決定していた。
一言でいえば。
――根暗。
いつか評したマデューカスの更に上を行く根暗である。おまけに存在感が――雰囲気などではなく“使徒”の特性として事実――薄いのだから一見ほら―ですらあったりする。彼女の存在自体に気づく事が出来れば、の話だったりもするが。
まあその程度で女の子を区別する気はないので色々な意味でスルー。
「で、早速だけどミズはどうしてこんなところにいるんだ?」
『次元の渦へ消えろ、クズ』
「……こんなところ?」
「――うお!? っと、そうそう。何でこんな廃墟に、女の子一人でいるんだ?」
『ちっ、相変わらず避ける勘と回避能力だけは突出してますね』
「廃墟? 何のこと?」
「ッッ!! だ、だから、」
『ならもう一発、』
「???」
「っぉぃあ!?」
『お、今度は少しかすりました。おしい』
「……あ、あのー、さっきから何でそんな変な踊りをしてるの? ……へ、変なヒト?」
「変なヒト違うッ!! 俺は今、次元の狭間からの攻撃を受けててだなっ!」
『次、逝ってみましょうか~♪』
「……ああ。うん、分かったよ」
「ひょえ!? っっ、いや待て、ミズ! 絶対分かってない! その表情は絶対分かってないから!!」
『連打連打連打連打連打……』
「あ、うん。分かってる。うん、ちゃんとわたしは分かってるよ」
「あや!? だか、ら!! それ、がっ、全く! 分かって!? ない、とぉ!!」
『はふぅ♪ 相手が居るって……素敵です』
「だ、大丈夫。……変な踊り踊ってたり、廃墟とか変な事言ってたり、どんなに変なヒトでも生まれて初めてわたしに話しかけてくれたヒトなんだから……うん、大丈夫だよ」
「――だぁあああああああああ、いい加減にしやがれっ!!!!」
≪Cage――引き摺り出せ≫
◇◆◇
レムが突き出した腕はそのままミズの胸へとめり込んで。
そして――ソレを宣言通り彼女の体内から“引き摺り出し”た。
◇◆◇
「「っ」」
「――ふーふーふー……ったく、俺がいつまでも大人しくしてると思ったら大間違いだぞ、スイカ」
「逢いたかったよ、お兄ちゃん♪」
「え?」
「とか言いつつ次元刀で斬りかかって来るな。あとお兄ちゃん言うな、気味悪いわ。テメェの方が年上だろうが」
「ニーズに応えたまでです」
「え、わたし、が……もう一人?」
「よし、紹介しよう。ミズ、彼女はスイカ、生き別れになった君のお姉さんだ」
「うん、真顔でミズに嘘を教えないように――疾ッ!!」
「わたし、のあ、ね……? え?」
「と、言うのは冗談で、つかだから次元刀、止めろ!? 俺は何かお前に恨まれるようなことしたかっ!?」
「私を殺した責任はどうする気ですか?」
「殺、え、えっと、な、何? その、」
「今更それを蒸し返すな!!」
「全然今更ではありませんから」
「……えっと、?」
「ほらっ! ミズの方が置いてけぼりになってるから!! 先ずはミズに状況説明からしようぜ!?」
「――それもそうですね。ミズ」
「え、あ、うん?」
「こいつはミズの脳内に巣食ってる寄生虫みたいなもので名前はスイカな。ズバリ――ミズの脳内設定彼女だ!!」
「違います」
「え、えーーー!!!???」
「大丈夫、こんな脳内彼女でも俺は偏見持たないから」
「だから違います。それにミズは女性なので脳内彼女ではなく脳内彼氏が正しいです」
「か、カレッ……!?」
「ほぅ、それだとお前は男ってことになるのだが?」
「――」
「ひゃっ」
「うぉい!!?? って、無言で斬りかかってくるなよ!?」
「ちっ、やはり無駄ですか」
「なになになに~~!?!?!?」
「――と、流石に何時までもこうしてるわけにもいかないから少し真面目に説明をしよう。コレの名前はスイカって言って、まあミズの分身みたいなもの?」
「それで良いです。ミズ、改めまして初めまして。とは言っても私はあなたの事は良く知ってるんですが」
「え、あ、はい。……初めまして。ミズ、です」
「ちなみにこいつがミズが存在感が薄い全ての元凶な」
「元凶です」
「……え?」
「まあそんなわけで次は俺の紹介な。俺は、」
「名前はレム。有史無史問わず、史上類を見ない女誑しです。ミズも誑かされないように気をつけなさい。生まれて初めて話しかけてくれたから惚れたなどは言語道断です」
「え、あの、……いや、そんな事じゃなくて、いや、どうでもよくて、」
「スイカ、てめぇ、俺の紹介勝手にするなよ!?」
「確かにミズの言うとおりコレの説明はどうでもいいです」
「……うん」
「どうでもよくないよ!?」
「それにミズの言いたい事は誰よりもよく分かっています。私はあなたですから」
「あなたは、わたし……」
「おい、ちょい待、」
「はい。だから今までどれだけ寂しかったか、と言うのは知っています。口に出さずとも、――ミズが私を恨むには十分足る理由です」
「恨む……ううん、そんなことはないけど、そうじゃなくて、」
「いやだから、」
「ありがとうございます、ミズ。そう言ってくれるのは純粋に嬉しいです」
「……ぁ、ううん。いい、の。それは、でも」
「――と言うよりも俺の事は置いてけぼり!?」
「……ミズ」
「……スイカ」
「いや、何!? ソコ、二人の雰囲気!? 何か白百合の幻影が見えるんですが!?」
「……なんですか、レム」
「え、あの……ぁっ」
「……あー。こほん。取り敢えず、だ。思わず衝動に負けてこんなややこしい状況にしちまったけど、話を最初に戻そうか。ミズはどうしてこんなところにいるんだ?」
「――バカですか?」
「こ、こんなところって……汚い部屋でごめんなさい」
「あ、や、責めてるわけじゃなくて、つか、部屋? こんな所に住んでるのか?」
「――ああ、バカなんですね。このバカ」
「……こ、こんなところでごめんなさい」
「や、だから。つかこんなところじゃ危なくないか?」
「――いい加減気付いたらどうですか?」
「あ、危なくはないです。近所の皆さんも良いヒトばかり……わ、わたしには誰も話しかけてくれませんけど、良いヒトばかりです」
「気付く? ――あ、ああ、成程。俺が見てる所とミズたちが実際“居る”場所の次元と“位相”がずれてるのか」
「元より、それが“透怒”の能力ですから」
「次元? 位相? ずれ……???」
「――っと。まあ、そう言う事なら何でこんなトコに居るのかは納得した。んじゃ、折角見つけちまったんだし――ウチ、来るか?」
「ミズ、気をつけて下さい。手籠めにする気です」
「手籠っ、え!!??」
「――だから何でテメェらはそういう偏見を広めたがるんだ!?」
「偏見ですか。いきなり『家に来い』などと言っておいて。へー、ふーん、ほー?」
「……っ、ご、ごめんなさいです!!」
「あー、いや、そう言う事じゃなくてだな。つか、スイカ、テメェは分かってる筈だろうが、どれだけ今までが危ない状況かって事。そもそもお前の場合、生きてること自体が奇跡に近いはずだろうがっ!!」
「――ちっ」
「……い、生きてる事が、奇跡?」
「兎に角! とっととその力を安定させるか、封印するかしないといい加減消えるぞ、お前!」
「分かっています。だからクゥワトロビェ様を探しています」
「え? な、なに、それ、どういうこと? くぅわ、え?」
「あー、あいつは無理。珍しく現界してるけど、シャトゥの尻を追いかけてるから」
「――シャトゥルヌーメ様!? あのお方が居らっしゃるのですか!?」
「え? えっと、たしか、クゥワトロビェ、シャトゥルヌーメ……? 何処かで聞いた気が、」
「ああ、ミズ、ソレ、神様の名前な」
「レム! 私の問いに――!!」
「……神様?」
「ああ、居るぞー。まあシャトゥはシャトゥで相変わらずだけど。って、二つに別けても相変わらずウゼー」
「余計なお世話です!!」
「ウザ……ご、ごめんなさい、わたしなんかが……」
「あ、いや、ミズの方に言ってるんじゃなくて、俺はスイカの方にだな、」
「死ね、このクズ」
「……ごめんなさい」
「っおぅ!!?? 危っ、だからいきなり次元刀なんて物騒なもので斬りかかってくるなよな!? ソレ、斬れないモノ無いだろ!?」
「未だレム、あなたを斬れません」
「……次元、? ――綺麗……」
「俺は斬らなくて良いから!! っと、そんなことより、だ!! だからお前らには何が何でもついてきてもらうぞ!!」
「このヒト攫い、極悪人、魔王ガタリ……でも、その必要悪は認めなくてはいけません。確かにそろそろ限界も近い事ですから」
「……限界?」
「と言う訳なのでミズにはうちの子になってもらいます! ――レッツ、契約!!」
「――ミズ、危ない!!」
「……え?」
「その前に余計な奴は消えてもらうとして、」
『卑怯な!!』
「え? スイカが消え、」
「では早速っ、――、……あん?」
◇◆◇
ミズに襲い掛かる(?)寸前で、レムは動きを止め、それから眉を寄せながら振り返った。
◇◆◇
「旦那様、申し訳ございません。気付くのに遅れ、」
「分かってる。それと、もう遅い」
「……はい」
「――どこか懐かしい気配を追ってきてみれば、不快な気配がするな。不快だ、ただただ、……男、お前の存在が不快だ」
「奇遇だな。俺もお前の事はうんざりするくらいには不快だよ。このマザコン野郎」
「……旦那様も他人の事は言えないのでは、」
「お前は黙ってること」
「はい、旦那様。承知いたしました」
『クゥワトロビェ様!?』
「……ま、また新しいヒト? きょ、今日は何だか千客万来だな~」
済みません、本日(昨日?)は少し遅れました。
何でだろう? クゥワ君と対面してて、もう一回続く?
マザコンvsロリコン
……や、どちらかと言えば『マザコン&ロリコンvsマザコン&ロリコン』か(汗)