PickUp 5. しんと
できごと。
そして色々と面倒くさいお方々
旧神都、とは言ってもそこは廃墟である。
遺跡の様な瓦礫跡が点々とあり、他は背の高い雑草があるだけ。別の言い方をすれば物陰が非常に多い、と言うことでもあるのだが。
メイド服の美女を傍らに連れた男は、周囲を探る様に一瞥をして、
「……ふーん」
「旦那様?」
「いや、何でもない」
「ですが何かしらの心当たりがあるのでは?」
「心当たり? 何の事だ?」
「“喚主”に思い当たることがあったのでは御座いませんか?」
「ん、まあ……」
「それは私にはお教えいただけないので?」
「いや、そんな事はないぞ」
「ではお教え頂いてもよろしいですか?」
「ん……迷子の迷子の子猫ちゃん」
「納得いたしました」
「え、今のだけで納得するのか?」
「はい。つまり“いつも通り”で宜しいのですね」
「いや、いつもどおりって、」
「――ふぅ、またですか」
「またとか言うなよ!? つか、またって何だよ!?」
「女性絡みのトラブルと言う事です」
「女性絡みのトラブルって、」
「今更説明が必要ですか?」
「……女性絡みのトラブルって言ったら聞こえが良いんだが、――そんないいモノじゃないと思うけどなぁ」
「そう思うのは旦那様のみと言う事です」
「……一度体験してみれば俺の大変さが分かると思うけどなぁ」
「御心配なさらずとも誰もが辞退する事請け合いに御座います」
「……だよなぁ。ま、俺も誰かに変わって貰えるなんて今更思ってないけどな」
「常人あるいは超人であろうとも旦那様の身代わりなど勤めようものなら半日と持たずにあの世逝きは確実ですからね」
「……てか、俺は日頃からどれだけハードな毎日を過ごしてるんだよって話だな、おい」
「今更ですね」
「……今更とか言うなよー」
「今更ですねっ」
「……ま、そうなんだけどな」
「それで、旦那様?」
「あん?」
「女性絡み、と言う事はもしや私は席をはずした方が宜しいでしょうか?」
「ん? お前、席外すの?」
「そちらの方が“旦那様にとって”都合がよいと仰るのでしたら、で御座いますが」
「何か含みが感じられるなー」
「嫌味成分を九割程含ませております」
「……九割ってちょっと多くない?」
「もう少し増やした方が宜しかったでしょうか、この女とくれば見境の一切ない旦那様」
「ゃ、今のままで十分です」
「左様で御座いますか」
「ああ」
「では旦那様、私は席をはずしましょうか」
「ん、そうだな……じゃあそうしてもらおうかな」
「……………………、はい」
「え、何その沈黙?」
「では、私は少しばかり席を外させて頂きますね?」
「あ、いや、だから今の沈黙は、」
「では旦那様、くれぐれもご無理はなされぬ様」
「ゃ、だから――」
「では、」
「……うっわー、あいつ、無茶苦茶気になる事を残して去ってきやがった、て、そりゃいつものことかー。……さて、と。――あっち、かな?」
◇◆◇
「お、いた」
『――』
「やっほー、キミのお名前、何って言うのっ?」
『――?』
「一人かな、お嬢さん?」
『……』
「えっと、何か応えてくれると嬉しいんだが」
『……』
「ちなみに君に話しかけてるのな。分かってる?」
『……』
「――わたし?」
「そうそう、キミに話しかけてるのね。分かる? オッケー?」
『――』
「まあ、日頃から“話しかけられる”って言う経験して無いから驚くだろうけどさ。あ、ついでに言うと俺は怪しいモノじゃないからな」
『――』
「わたし、に話しかけてくれてるの?」
「そうだって言ってるぞ、可愛いお嬢さん」
『――』
「……可愛い、わたし?」
「うん、可愛い可愛い」
『――また貴方なのですか』
「……ぃゃ、恥かしい」
「そう恥ずかしがらずにっ、てか君が俺を呼んだんだろ? それをまた俺か、ってその言い方はないんじゃないのか?」
『――大きなお世話です』
「? ……何のこと?」
「……ええい、ややこしい。えっとな、お嬢さん、それより先にお名前教えてくれるかな?」
『スイカです。何度言えば覚えるんですか、この朴念仁』
「……わたし、の名前? ……ミズ」
「そっか、ミズかー。良い名前だなっ!」
『スイカです』
「そ、そんなこと、ない。普通の名前、ですから」
「いやいや、そんなことないぞ。ミズ、きれいな良い名前じゃないかっ。あとパノラマ音声がウゼー」
『それにしても私が呼んでいるのはクゥワトロビェ様なのですが、何故いつも貴方が来るんですか?』
「……は、恥かしいです」
「うんうん、そう言う初心な反応はいつ見ても良い感じだなー」
『そんな欲情まみれの目で見ないでくれますか? キモイ、このロリ変態』
「……そ、それでわたしに何か用、ですか?」
「うるせえよ!!」
『うるさいとはないですか』
「っっ、ご、……ごめんなさい」
「あ、いや。ミズに言ったんじゃなくてだな、」
『むしろキルユー』
「……ぁぅぁぅぁぅ」
「ああ、もうっ、相も変わらずウゼえな、お前!!」
『シット、――次元の狭間に堕ちろ』
「ひぅ!?」
「っっぉ!!??」
『ちっ、逃したか』
「ごご、ごめ、ごめ、わた、わたわた……わた、し……」
「ああいや、ミズにそんなに謝られるとっ、てか常時多重音声とか、相変わらずややこし過ぎるんだよっ、――【透怒】!!」
『……ようやくわたしの名前を呼んでくれやがりましたね、背神者レム』
「すいか?」
「いやな、あぁもうっ、ミズの方にはどう説明すりゃいいんだかっ」
『だから色目使うな、このロリコン』
「……えっと、」
「俺はロリコンじゃねえよ!! むしろクゥワトロビェの方がロリコンだろうがっ!!」
『酷い言いがかりです、レム』
「ろ、ろり? ……く、くぅわ???」
「――ぁ、いや、えっと、ミズ、今のはなっ、えっと、だから!!」
『クゥワトロビェ様への侮辱は私への侮辱も同じ。――今度こそ次元の隙間へ逝け』
「???」
「だからっ!!?? やめっ、てか話すなら真面目に話そうぜ!?」
『ちっ、また避けられた』
「あ、はい。話……す?」
「ああ、そうだ。ミズ、冷静に、お互い話し合おう。時間はたっぷりとあるんだから」
『たっぷり会話、ですか。……久しぶりですねぇ』
「は、はいっ、話す、話しましょう!!」
「ああ、そうだな。ミズも“いつも通り”なら余りに存在感薄すぎて、誰にも気づかれずに誰とも会話ができなかったとか言うオチだろ、どうせ」
『……悪かったですね、存在感薄くて』
「存在感、薄、……そうですよね、わたし、なんて……」
「ああ、いや、ごめん。そこで落ち込まれても困る訳でっ、」
『さあ、なら会話しましょうっ、いっぱい会話しましょう、ずっと会話しましょう! わたしを見つけた貴方にはその責任があります!!』
「なら、いっぱいお話、してくれる……?」
「ああ、するするっ」
『はいっ、では早速――』
「な、ならっ――」
「……でもなぁ、やっぱり多重音声、ウゼー」
にゅー、ふぇいす?