ど-523. ……じゃあ走るか
……無心だ、無心になるんだっ!!
「アルっ、修行だ!」
「……しゅぎょう?」
「そうっ、熱血、根性、そしてちょっぴりラブコメな修行だ!」
「……(ぷいっ)」
「何故だぁぁぁ!!??」
「……しゅぎょう」
「って、なんだ冗談か。吃驚したなぁ」
「……しゅぎょう」
「お? もしかしてアル、結構やる気ある?」
「……(こくこく)」
「ほぅ! それなら早速修行するかっ、修行!」
「……(こくん)」
「よしっ、それじゃあまずは……そうだな、定番の体力作りって事で、腕立て五万に腹筋背筋五万回、スクワット十万と……まあ初めのうちだからこのくらいか?」
「……(こくん)」
「よし、なら早速始めるとするか。ほら一緒に……い~ち」
「……い、……」
「……」
「……」
「……アル?」
「……(きゅぅ)」
「……うーむ、アル、もしかして腕立て一回も出来ない?」
「……(こくん)」
「ま、仕方ないか。それならそれで他の修業にするかー。腕立てとか腹筋背筋とかはアルにはちょっと早かったんだなー」
「……(ふるふる)」
「ふふっ、まあそうやって意地を張る姿も可愛いけどなっ!」
「……」
「今はアルが今できる事の精一杯をしような? 無理する必要は何処にもないからさ?」
「……(こくん)」
「なら……そうだなぁ。アル、マラソンとこの棒の素振り、どっちをしたい?」
「……まらそん」
「よしっ、それじゃあマラソン……走るかっ、取り敢えずはあの夕陽に向かって!」
「……?」
「あ、いや、夕日ってのはあくまで気の持ちようであって。兎に角走るんだっ、明日と言う名の希望へ向かって!!」
「……希望」
「そうっ、希望だ! ほら、あの空の彼方を見てごらんっ、明日と言う名の希望の先には俺とアルとの幸せな未来が――」
「……(ダッ)」
「って、何で急に逆走しだすのさ、アル!?」
「……」
「そ、そうかっ、胸の内にくすぶる炎を消しきれなかったんだな! よしっ、アルがその気なら俺もっ――」
「……!」
「って、あれ? アル? アルさ~ん、何か俺から逃げてない?」
「……(ダッ)」
「はっ!? そうか、鬼ごっこか、鬼ごっこなんだな、アルっ」
「……」
「て、え、何で急に止まるんだ? 疲れたのか?」
「……(こくん)」
「その割には全然、息切れとかして無いよなぁ、アル」
「……?」
「あれ、もしかしてアルって思ったよりも体力とかある?」
「……(ふるふる)」
「そか。でも急に走るの止めたりして、もしかして飽きたとか?」
「……(ふるふる)」
「じゃあ何で急に走るの止めたんだ?」
「……(ぷいっ)」
「? まあいっか。それより――ぉ、そうだ」
「……?」
「アル、ちょっと失礼~」
「……!」
「こうして、担いで……ああ、アル。落ちないようにしっかりと俺に掴まっててくれよ?」
「……(こくん)」
「そうそう、そんな感じで。良しっ、アル。見てろよっ、“風”ってのを思いっきり感じさせてやるから」
「……?」
「じゃあっ、いくそっ!!」
「……!」
「ふははははっ、俺は今風、風なんだっ、風になってるぅぅ~!!」
「……(ひしっ)」
「どうだっ、アル。気持ちいいだろ? 風が頬を撫でてく感触、流れて行く景色、ほらっ、目を開けてしっかり見ろよ?」
「……」
「ん、どうした? 重くないかって? いや、全然っ、アルは軽いぞ?」
「……(ひしっ)」
「よぅし、アル! このまま向こうの岸の端まで走っていくぞ!」
「……(こくん)」
「――よっしゃ、ノってきたぁぁあ!! 全力の全力、全速で行くぜっ、――アルッ、往くそ!!」
「……(ひしっ)」
≪WIND――俺は風≫
「――ひゃほっ~~!!!!」
「……! ……!」
「……何をなさっておられるのでしょうか、旦那様は? 実の楽しそうで羨ましいですが」
-とある二人の会話-
「ひゃふっ!?」
「――何事、敵襲ですか!?」
「……ぁ、サカラ、様?」
「……また貴女ですか、ファイ」
「ご、ごめんなさいです、サカラ様」
「少しは進歩して管いよ、本当に。これでキッチンを破壊したのはもう何度目ですか」
「えと……5,025回目です」
「……はぁぁぁぁ」
「き、気をつけてはいるんですよ?」
「……もういいです、流石に期待はしてませんから」
「……はい、本当にごめんなさいです」
護衛部長のサカラさん&料理部逆天才のファイ。ある意味日常。