ど-518. 策士でなくとも策には溺れるモノだ
……もふ~
「……ふー」
「……?」
「あ、いや。なんでもないから、アルは気にしなくても良いぞ」
「……(こくん)」
「……あー、何か最近、肩こってるなぁ」
「……?」
「や、ごめん。俺の独り言だからアルは一切気にする必要ないからな?」
「……(こくん)」
「……誰か優しくマッサージとか、」
「旦那様がお望みとあらば私が」
「……、あー、誰か優しくマッサージしてくれないかなー?」
「……?」
「あ、別にアルにしてほしいとか、そう言う事を遠まわしに言ってるわけじゃないから。本当にアルは気にしなくても良いんだぞ」
「……(こくん)」
「……ふぅ、でも最近、ちょっと疲れもたまってるかなぁ。精神的オアシスが欲しい」
「承知いた、」
「アルにお願いしてるんじゃないから! だからアルは全然! 全く! これっぽっちも気にしなくていいからな!!」
「? ……(こくん)」
「……ふー、それにしても何だか喉渇いたなー、何か飲みたいなー、……ちらり?」
「……もってくる」
「――って、別にアルに言った訳じゃ、」
「さて旦那様、少々お話ししたい事があるのですがお時間の方、宜しいですね、ありがとうございます」
「ちょ!? その聞き方はおかしくないか!?」
「ご心配なく。旦那様のスケジュールの方は私の方で完璧に把握させて頂いております。つまり旦那様が今この時、ヒマで暇で仕方がないと言うのは百も承知で御座います」
「暇と言う訳ではない」
「では言いなおします。アルーシア様に構う事以外の予定を組んでおられない旦那様は、たった今アルーシア様に逃げられてしまいましたので、ご予定は何も御座いません」
「いや、それは」
「反論がおありでしたらどうぞ、御遠慮なさらずに。全て論破して差し上げましょう」
「……」
「旦那様? 何か仰りたいご答弁便宜の程は御座いませんか?」
「はっ、お前は何を言ってるのかな? 俺にやましいところなんてこれっぽっちもないね!」
「左様でございますね。ではその様に私を避けられずとも宜しいのではありませんか?」
「避ける? 何の事を言っているのかよく分からないなっ」
「視線を合わせず、ジワリジワリと離れて行こうと無駄な足掻きをして、内心では冷や汗を浮かべながらも表面上は平静を装っておられる旦那様のどのあたりが私を避けていないと仰るつもりなので御座いましょうか?」
「――ふっ、判ってるなら話は早い! ……あ、俺ちょっと用事思いだ、」
「ご心配なさらずともその用事とやらは私が代わりに済ませておきました」
「……、や、俺まだ何も言ってないんだけど?」
「ではお尋ねいたしますが、旦那様はどのような用事を思い出されたのですか?」
「花壇の花に水――」
「済ませました」
「ちょっと護衛部へ見学――」
「本日、護衛部の方々は遠征に出ており半数が不在、半数が休暇となっております」
「小腹がすいたので何かおやつ――」
「こちらのクッキーをどうぞ。私の手作りですが」
「あ、そうだった。新薬の実験――」
「申し訳ございません。そちらは薬草の在庫を切らしておりまして、只今処理部の方々に収拾に回らせております。両日中には集まるとは思いますが、本日の所はお止め下さいますよう、宜しくお願い致します」
「……」
「他には何か御座いますか?」
「あ、」
「ちなみにアルーシア様の事が心配なので少し見てくる、などと仰られるつもりなのでしたらどうかご心配なく。丁度すれ違いましたパーセルゥ様にアルーシア様の事をお任せしております」
「……あー、ほら、他に何かあったはずなんだけど、あとちょっとで出て来ないんだ。もう少し待ってくれ?」
「はい、承知致しました旦那様」
「助かる」
「では旦那様がその用事とやらを捏造されるまでの間、私の話に付き合ってもらいたいのですが宜しいですね、ヒマな旦那様?」
「……」
「旦那様? 何か申し開きがあるのでしたら、今のうちにどうぞ?」
「……ぃゃ」
「作用で御座いますか。……では旦那様、」
「――済みませんっ、今思うとアレは全くの出来心でした!!」
「……なんのことでしょうか?」
「え?」
「私が旦那様にお尋ねしたいのは、この館が進んでいる経路の事なのですが、何か勘違いをなさっておられませんか?」
「え、あ?」
「ちなみに私、先程旦那様にスルーされた件につきましては全く根に持っておりませんよ?」
「……」
「旦那様?」
「……ちっ、ビビって損したぜ」
「それで旦那様、只今の経路なのですが、」
「でも俺にわざわざ聞きに来るって、何か問題でもあるのか?」
「はい、いえ。問題と言えば問題なのですが――今、この館……浮島はある場所を一直線に向かっております」
「一直線? ……何処だ?」
「――旧、神都」
「……ふーん」
「それで旦那様、如何なさいますか? 舵の方は、今ならばまだ取れなくはありませんが?」
「いや、良いさ。一直線にそこに向かってる――何かに“喚ばれてる”って言うのなら御招待に預かればいいじゃないか。放っておけよ」
「――承知、致しました旦那様」
「ああ。……と、言う事でお前の用事ってコレで全部?」
「は、……いえ、あと一つ、御座いました」
「ん? 何だ?」
「お疲れと言うのでしたら私が優しくマッサージをして差し上げましょう、何、――反論は許しません」
「はへっ!? あ、いや、ちょい待、」
「では旦那様、あちらの寝台へ移動――は手間なので、私がお運びいたします」
「ふぐぅっっ!!??」
「申し遅れましたが、無駄な抵抗をなさぬ様、先に少々黙らせて置きたいと思いますので、どうかご了承のほどをお許しくださいませ」
「……」
「了承ありがとうございます、旦那様。では、お運びいたしますね?」
「……」
「……みず」
「おや、アルーシア様」
「……みず、もってきた」
「あら、申し訳ございません。旦那様は疲れておられたのか、たった今御眠り頂いた所でして……、そうですね、水の方はそちらの、台へと置いておいて下さいませんか? 後で旦那様に飲ませますので」
「……(こくん)」
「はい、ありがとうございます、アルーシア様」
「……(ふるふる)」
「ふふっ、アルーシア様は謙虚で在らせられるのですね。では――、……ああ、今から旦那様のマッサージを“優しく”始めるのですが、アルーシア様もご見学されますか?」
「……」
「如何なさいます?」
「……みる」
「はい、承知いたしました。ではアルーシア様、そちらの方が見やすいですよ?」
「……(こくん)」
-とある二人の会話-
「ねー、スィー?」
「うむ? どうかしたのか、ミミルッポ」
「んー、よんでみただけ」
「そうか」
「うんー」
「ならば、よい」
「……あのね、スィー」
「うむ、我に何用だ、ミミルッポ」
「ん~、……ごめんねー、ちょっと、よんだだけー」
「そうか。ならば良い」
「うんー」
「……」
「ねー、スィー」
「うむ、今度はどうした、ミミルッポ」
「おなかすいたー」
「良し。ではしばし待っておれ。今すぐ我が菓子を持ってこよう」
「んー、ありがと―、スィー」
「何、たやすいことだ」
「ん~……、あ、ライねぇだー」
「ん? ライカーレか? ああ、彼女なら先程からずっとあそこに……しかし彼女は何故こちらを睨んでいるのだ? 何か、我の気付かぬ危険でもあると言うのか……?」
ミミルッポ&スィーカットの会話ー。
いつもこんな感じで、もうライカーレ姉さんはキレそうっす。