PickUp 3. なまえ
……所詮、こんなモノ?
それは少女たちの楽園。
それは少女たちの箱庭。
「……ヒマ、ですねぇ~」
「……うん、ヒマだねぇ~」
「……」
「……」
「「――はふぅ」」
「ヒマって言うのは、平和って事だから良いんだけど、」
「でも暇ですよねー。あのヒトをからかうのも飽きてきちゃいましたし。それに最近良く思うんですけど、アレって私の時と反応が違いすぎません?」
「ん~、そう?」
「そうですよー。何か、私の時って『臭うからこっちくんなフレッシュ』って感じなんですけど、」
「……臭うの?」
「臭いません! 毎日ちゃんと綺麗に――そもそも私に穢れなんてありません! 使徒ですからっ!!」
「え、そうなの?」
「そうなんですっ! ……じゃ、なくてですね。私の時っていつも冷たいのに、私の時はむしろ邪魔なくらいに甘甘なんですよ。同じ“燎原”なのにコレって酷い差別だと思いませんっ!?」
「んー、私はレムに冷たくされた事ないから良く分からない、かな?」
「こ、このぶるじょわめっ、ぶるじょわめっ!!」
「ブルジョワって、リョーンさん……」
「ま、まあそんな事は今さらなのでよくはないんですけど、全然良くはないんですがっ! まあ良いんですけど、」
「うん、全然よさそうじゃないよね?」
「そうですよ!? 本音を言えば私だって私の時に、あのヒトから『好きだよ、愛してる』なんて言葉の一つも言われてみたいですよ!!??」
「あ、ソレわたしも言って欲しいな―」
「ちょ、それはいくらなんでも贅沢すぎじゃないですか、アルーシア!?」
「でも『愛してる』なんて私もまだ言われたことないもんっ!」
「……でも『好きだよ』はあるんですよね?」
「あ、うん。私が死んだ時にね。いっぱいいっぱい叫んでくれたよ?」
「――なんですかそれはッ、アレですか、パンがなければご飯を食べればいい、女の子がいなければ男の娘を襲えばいいって言う奴ですかっ!?」
「……んと、二つ目の例えは色々な意味でちょっと違うと思うよ?」
「くっ、コレだから『わたし、愛されちゃってます』的な幸せオーラをばら撒く輩は始末に負えないんですっ!!」
「え、愛されてるとか、そんな事はないよ、……てへへ」
「――な!? の、ノロケ!! それがあの蛮勇名高い惚気とだとでも言うのですか!?!?」
「そ、そんなことないよぉ~」
「……くっ、そんなアルーシアなんて、アルーシアなんてっ!!」
「あ、リョーンさん……?」
「うわーんっ!!!!」
「リョーンさ、――て、」
「へ?」
「……お帰りなさい」
「た、ただいまです」
「……そう言えば此処って、私とリョーンさんで創ってる? 場所だから、二人揃って一緒な訳で、ある意味で私たちって此処から出られないんだよ、ね……?」
「そ、そうなんですね。知りませんでした」
「うん、私も初めて知ったよ」
「……うぅ、恥かしい。折角逃げ出したのに、何だか恰好がつきません」
「大丈夫だよ。どの道リョーンさん、恰好なんてついてないから」
「……アルーシアって、時々毒吐きますよね?」
「え、そんな事はないよ?」
「いいえ、吐きますっ」
「そんなことないよ。それに多分、私が毒吐くとしてもリョーンさんだけだよ」
「なんですかそれ!? そんなに私の事が嫌いですかっ、憎いのですかッ、嫌いなんですかっ!!」
「あ、や、そう言う意味じゃなくて……あの、リョーンさんは私、と言うか気心が知れてるからつい口から本音が漏れちゃうって言うのかな? 別に悪い意味じゃないんですよ?」
「……本当に?」
「うん。だからリョーンさん、そんな怨みがましそうな目で見ないでよー」
「……信じますよ? アルーシア、信じますからね?」
「う、うん」
「……ね? ねね???」
「あの、リョーンさん、それって信じてないよね、全然」
「そそ、そんなことないですよ」
「……じー」
「……ぽっ」
「……ぽ?」
「そんなに見つめられちゃ、照れちゃいますね~」
「……」
「え、アルーシア? 何で遠ざかるんです?」
「……え、近寄らないでよ?」
「ちょっ、なんですか、それ!?」
「え、寄らないでくれる?」
「だから何ですかそれぇぇ!!??」
「私、そう言う趣味ないから」
「何の事だかさっぱりです!!」
「それに私とリョーンさんじゃ、ナルシストさんになっちゃうよ」
「ナル……――って、私だって違いますよ!? アルーシアの事はそれなりに好きですけど、私が大好きなのはあのヒトだけですからっ!!」
「うん、知ってる」
「て、」
「冗談だよ?」
「……」
「……リョーンさん?」
「……」
「あの~?」
「何なんですかっ、何なんですかもうっ、あのヒトと言いアルーシアと言い、そんなに私をからかって楽しいんですかあしらって楽しんでるんですか!?」
「うん」
「……うぅ、私、使徒なのに。『最強』なのに……コレでも三柱の御方々の次に偉い、一応は十二使徒のまとめ役なのに……」
「全然似合わないよね?」
「そんな事はありませんから! ……多分」
「……まあ? ファイトだよ、リョーンさん」
「……うん、はい」
「……リョーンさんが暗いとこの世界も暗くなっちゃうし、ね」
「……あ、それはそうとアルーシア?」
「はい?」
「私思ったんですけど、あの子とアルーシア、どっちもアルーシアですよね?」
「あ、うん。そうだね」
「それってどっちもアルーシアじゃ呼びにくいですよね?」
「え、そう?」
「そ・う・な・ん・で・す!! ――“あなた”だってそう思いますよね!?」
「――え?」
『……?』
「あ、来たんだね? 久しぶり」
「はい、ようこそです。いらっしゃい。久しぶりですね?」
『……(こくん)』
「“此処”に来るって事は……それなりに“自我”が出来たって事だよね? ね、リョーンさん」
「そうですね。歓迎すべき事態です」
『……?』
「ああ、判らないのかな?」
「大丈夫ですよ。ね? これから――全てはこれからなんですから」
「うん、リョーンさんの言うとおりだよ、……えと、アルーシ、ア? て、自分で自分の事呼ぶのって変な感じだね」
「――そうっ、それです、アルーシア!」
「『!?』」
「私は考えました。アルーシアが二人いるのならば、それぞれの呼び方を変えればいいんですっ!!」
「……な、なんか張り切っちゃってるね、リョーンさん」
『……(こくこく)』
「そうですねっでは旧アルーシアがアルクちゃんでどうでしょう!?」
「……“ク”ってどこから出てきたんだろ?」
『……(ふるふる)』
「それで新アルーシアがアルアちゃんで!」
「あ、私そっちの方がいいなー」
『……(ふるふる)』
「――どうですか、二人ともっ!」
「……微妙」
『……びみょー』
「ふはっ!? アルクもアルアも二人ともですかっ!?」
「そ、それもう定着しちゃってるの?」
『……』
「ほら、アルクっ、アルアちゃんの方はちゃんと納得してるみたいですよっ」
「えー、でも“アルア”だとアルーシアを縮めただけで分かるんだけど、私の“アルク”って、“ク”は何処から出てきたのって話だよ」
『……』
「フィーリングで!」
「――うん、そうだよね、リョーンさんなんてどうせそんなモノだよね。うん、期待はしてなかったから大丈夫だよ、私は」
『……(こくこく)』
「そんな二人とも、酷いです!? 私は良かれと思ってやったのにっ!!」
「要らないです」
『……(こくん)』
「そんな二人とも!?」
「まあ、私たちの呼び方は置いておくとして」
『……(こくこく)』
「置いておかないで!?」
「今は、さ。リョーンさん、此処に新しい住人が増えた事を喜ぼうよ?」
『……???』
「――あ、はい。それは確かにその通りですね。でも喜ぶって言っても……わーい、やりましたねっ、新しい仲間が増えました、嬉しいですっ♪ ……と、喜べばいいんでしょうか?」
「……十分喜んでるように見えたけど?」
『……(こくん)』
「そ、そんな事ありませんよ? 子供じゃないんです。そんな無邪気に喜ぶはずないじゃないですかっ」
「……じー」
『……(じー)』
「……え、えへ♪ そんな見つめちゃ、嫌ですよ~」
「……ねえ、知ってます、アルアちゃん、このリョーンさんって、くすぐりにとっても弱いんですよ?」
『……?』
「――ちょ、それは!」
「試してみたらとってもおもしろい事になっちゃうんだよ? どう、やってみない?」
『……(じー)』
「ちょ、そんな目で見ないで!? いやっ、こっち寄って来ないで下さいよっ!?」
「ふふふのふ~」
『……ふふ、の、ふ?』
「いーやー!!!!」
「あ、逃げた!? アルアちゃん、挟み打ち掛けるよ!!」
『!』
「アルちゃんズ、追ってこないで下さいっ、こっち来ないで下さいっ!?」
「よしっ、私たちのコンビプレイ、見せつけてあげちゃうよ、アルアちゃん!!」
『!!(こくこく)』
……ふっ、三人の中で役割が決まったか(汗)