ど-515. 駆け引き
駄神、再降臨?
「立ち止まるなッ、前を見ろっ!!」
「……うむ?」
「突貫だっ、突き進めー!!」
「……レムはそんなところで何をやってるの?」
「――む? シャトゥか」
「はい、今日もらぷり~限界突破のシャトゥちゃんです」
「ラブリーさ? は? 何処が???」
「存在そのものがブリ定食と言っても良い!」
「いや、意味分かんねえし」
「つまりは美味しく食べて下さいね?」
「断る」
「……しょんぼりです。そして冷たいレムもそれはそれで良し!」
「大体今はシャトゥに構ってるひまはないんだ。ほら、あとで遊んでやるから。お前は何処かに逝ってろ、むしろ時空の彼方に消えてろ」
「ふっ、そうは豆腐屋が降ろさないのですっ。悪事あるところに我あり、悪意あるところに我降臨せり! 正義の微(?)幼女シャトゥルヌーメとは私の事です!」
「あ、そ。ほら、判ったから遊ぶんならあっちで遊べー。俺は今お前の相手する余裕ないから」
「……うむ、レムがそう言うならそうします」
「ああ」
「ところでレム?」
「――なんだよ」
「レムは一体何をしているのです?」
「見れば分かるだろ」
「基板上に駒……コレは変態さんですか? を、置いて……――戦争の真似事?」
「ああ。いや、別に戦争ってわけじゃなくて、ちょっとしたゲームなんだけどな。あと変態じゃなくて兵隊だ。重要なところなので間違えないように」
「? どちらも同じです?」
「いや違うから。違うからな? 兵隊が変態だと……うっわ、それって何か、血みどろならぬ黄緑色の戦場だな」
「傷つけ合うのは良くない事なのでそっちの方がいいのです。がくがくぶるぶる」
「そっちの方がいいとか言いつつ震えているのは何故だ?」
「不思議ですね? レムの浮かべた情景をマインドスキャンで覗き見したら勝手に身体が震えだしました」
「ざまあ……と言うか勝手にヒトの頭の中見るな」
「レムの脳内妄想はいつもこんなのなのですね……ば、薔薇?」
「違うッ!!!」
「……ぁ」
「――ん?」
「ところでレム、一つよろしいでしょうか?」
「なんだよ、改まって?」
「何だか卓の上の戦況が凄い事になっていますが良いのですか?」
「戦況、て……ッッ!!」
「おぉ、変態さんがまるでゴミの様に散らばっていきます」
「っ、あのヤロ、いつもながらに手加減ねえなっ!!」
「あのヤロウ?」
「母様だよ、母様。お前の母様」
「うむ、母様ですか。でも母様は野郎ではなく女郎ですよ?」
「んなの、どっちでも同じだ――ッッ、さっきのが出遅れたのは、痛いか。くっ」
「うむ?」
「くそっ、幾らアルが観戦てるからって張り切り過ぎじゃないのか、あいつめっ!!」
「……ねえねえ、レム、レム」
「ああもうっ、何だよシャトゥ、俺は今手が離せな、――ああ畜生ッ、西南も持ってかれた!!」
「……あの、レム?」
「だから何だよっ!? 俺は今忙しいのっ、見て分からないのか!!」
「ちょっとだけ、……良い?」
「良い、って、何が――」
「――うむ、母様の思考なら此処は、こう。それからこんな感じに追撃、……うむ」
「……」
「それで失敗したら次策は、こうして一旦引いた――に見せかけて、挟撃……うむうむ」
「……は?」
「今がチャンス! とばかりに全軍で攻め、ついでに伏兵を此処と、此処にしかけておいて……ゴーです」
「あ、いや待てよ、今、全軍突撃ってのはいくら何でも無謀――」
「と、ここで目が本隊に向いてる隙に、この伏兵で本陣を一気に攻め落とすのです!」
「……うぉ」
「うむ、コレで勝利!」
「……俺、あいつが負ける所初めて見たぞ」
「――ふぅ、戦争とは虚しいのです。あとに残るのは散乱する死体と荒廃した大地だけ……虚しいのです」
「いや、だからこれは戦争とかじゃなくて、あくまでゲームな?」
「ゲームでも戦争を模しているのでコレ、私はあまり好きじゃないの」
「好きじゃないのって、……え、コレもしかしてシャトゥの意外な才能か?」
「以外とは失礼なっ、私はレムとの恋の駆け引き以外の争いごとに負けた事は一度たりともないのです! ……さっぱり役に立たない特技なのでしょんぼりです」
「いや、あいつに勝つくらいのレベルだからそんな事はないと思うぞ!?」
「必要な試合には全敗中なの」
「……しかし、勝った。まあ実際勝ったのはシャトゥな訳だが……遂にあいつに勝ってしまった、しかもアルの見てる時に!」
「うむ? レム、嬉しそう? いい事あったのです?」
「ああ、それは勿論っ、あいつの悔しがってる顔が目に浮かぶようだぜ!!」
「……何だかよく分かりませんが、レムが嬉しそうなので良い事にしました。――うむ!」
「――あ、そう言えばシャトゥは何で此処にいるんだ?」
「……うむ、実はちょっと前、に出て行こうとした時、ヘンテコな迷宮に迷い込んで今の今まで彷徨っていました。ヘンテコな怪物さんたちもうじゃうじゃいて、アトラクションとしてはまあ楽しかった、なの?」
「……や、迷宮とか、怪物とか――シャトゥが迷い込んだのが“ルーロンの玩具箱”ならそんな、“楽しかったアトラクション”レベルの話じゃないと思うのだが?」
「ただちょっと一人は寂しかったのです。下僕一号様抱き枕を手放せませんでした」
「……、……まあシャトゥだし別に良いか。良いの、か?」
「――それではレム! ちょっとばかり大変な目に遭ってしまいましがたそれはソレ、コレはこれっ。今度こそ、またレムが忘れた頃までサラバなのです! そして私は次こそはレムを手に入れて見せる!」
「て、……止める間もなく出て言った訳だが、いやまあアレが何処に行こうが別に構わないんだけどさ。…………まあ良いか、余計な事を深く考えるのは止そう。今は――まあ色々あったが初めての勝利の味でも噛み締めてますかー……完全な他力本願だったけどさっ」
-とある二人の会話-
「――御久し振りですわね、リッパー……王女様、と呼んだ方がいいかしら?」
「いえ、今まで道理で良いですよ、リリアン」
「そう。なら久しぶり、リッパー」
「はい、久しぶりですね、リリアン」
「ぐだぐだと長話――ってのも悪くないけど、今は止めておくわ」
「あら、そうなのですか? 折角、久しぶりに楽しいお喋りができるかと思ったのですけれど」
「それはまたの機会にとっておいて下さいませ。そんな事よりも――今は単刀直入い聞きますわ。最近、調子は如何かしら?」
「――リリアン、貴女の方は?」
「全く。芳しくありませんわ」
「そう……ですか。残念ながら私もです。折角女王になって、権力も使いたい放題だと言うのにこの体たらく、全く情けない限りです」
「そんな事はないですわ。それに――其処らに群がる雑兵程度じゃ、彼の相手は務まらない……初めから分かっていた事でしょう?」
「そう、ですね。でも口惜しい事に変わりはありません」
「まあ、進展がないと言うのであれば、長居する気もありませんし私はこれで失礼させていただきますわ」
「はい、判りました。ですが、リリアン?」
「……何、かしら?」
「もし、“見つけた”ら、ちゃんと私にも連絡を下さいね? そうじゃないと――ふふっ、私、怒りますよ?」
「ふふっ、面白い事を言いますわね、リッパー?」
「いいえ? 私、本気ですけれど?」
「「……」」
「それでは、私はもう行きますわ」
「はい、リリアン。それでは吉報をお待ちしておりますね?」
「――ええ」
王女様sの戯れ。