ど-513. ある日、昼の風景
のんびりまったりとした、昼下がりなのです。
「……」
「……」
「……」
「……」
「――旦那様?」
「ん~?」
「何をなさって、――」
「見たまま」
「……アルーシア様は、寝ておられるのですか?」
「そ」
「そして旦那様は膝枕をして感触を楽しみながら、そのお姿を視姦なさっておられると」
「違う。眺めてると言え、もしくは見守ってるとか」
「左様でございますか」
「ああ」
「……」
「んで?」
「はい?」
「いや、だから俺に何か用でもあるのか? と聞いたんだが」
「いえ、本日は特に、これと言った用事は御座いません」
「そか」
「はい」
「……」
「しかしアルーシア様は本当に安心しきった様に寝ておられますね。傍に旦那様がいると言うのに」
「それはどういう意味だ」
「言葉通りの意味ですが?」
「……」
「……」
「いや、今あれこれと言うのは止めておこう。こんなところで騒いだりすればアルが起きるかもしれないしな」
「はい、旦那様」
「いや、従順そうに答えても、先にジャブ仕掛けてきたのはお前だから」
「旦那様がお望みとあらば全力のストレートを御見舞いたしますが?」
「それは断固として断る」
「はい。アルーシア様もお傍に居られますし、それが賢明なご判断かと」
「や、アルが傍にいようがいまいが俺の答えは変わらないんだが?」
「そう言う事にしておきましょう」
「そう言う事も何も、そもそも俺はお前に殴られたり厄介事を押しつけられるような事をした覚えはない」
「そうとも限りません」
「いや、限らないも何もないだろ。兎に角、色々とされるのは勘弁だから」
「旦那様はどちらと言えば仕掛ける側の御方ですからね?」
「まあな」
「……しかし、こうして寝顔を見ているとアルーシア様は本当にアルと瓜二つですね」
「――そうだな」
「つい、悪戯心が湧き上がってきます」
「全くだ」
「頬をつつく許可をいただいてもよろしいですか?」
「駄目だ。アルの頬は俺のもんだから」
「ケチですね、旦那様は」
「ケチで結構」
「ならば代わりに旦那様が私の頬をつっついて下さいませ」
「何故にそうなる?」
「私がアルーシア様の頬をつつけないのであれば旦那様に私の頬をつついて頂く他ないではありませんか」
「や、だから何処からどうしたらその理論になるのか、と俺は聞きたい訳だが」
「……旦那様の、えっち」
「済みません、意味が分かりません」
「それを私の口から言わせたいとは、旦那様も中々に通な趣向をお持ちで御座いますね。いえ、旦那様の趣味趣向があらゆる意味で玄人好みの普通の方は引かれるモノばかりなのは周知の事実でしたか」
「俺としては、そう言うのをカミングアウトした覚えは一切ないんだけどな?」
「する必要もない程に十二分に公知であると旦那様は仰りたいのですね?」
「違う」
「では、」
「……んっ」
「……」
「……」
「余り騒ぐと、アルーシア様が起きてしまいますね」
「お前の所為だぞ」
「いえ、旦那様の――、と、コレは堂々巡りになるので止めて置きましょう」
「と、言う訳で今のはお前が悪い」
「はい、今はそれで納得しておきましょう」
「良し、勝った!」
「はいはい、良かったですねー、旦那様」
「……何故だろう、今の一言で勝った気分がみるみる失せていったんだが? 不思議だ」
「――しかし、旦那様」
「ん?」
「……昔も、このような事があったのを覚えておられますか?」
「ああ」
「こうしていると昔に戻ったような、そんな錯覚を覚えてしまいそうになります」
「そんな事、あり得ないけどな」
「はい、本当に」
「……」
「……」
「……ん?」
「御隣、座ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、別に良いぞ」
「では、――失礼いたします、旦那様」
「……こう言うのは、ホントにどれくらいぶりだろうな?」
「そうですね、旦那様。ですがこのような日も良いのではありませんか?」
「誰も悪いとは言ってねえよ」
「左様でございましたか、それは失礼を」
「……ああ」
「……」
「……」
「……――平和、だよなぁ」
「――ええ、本当に」
-とある二人の会話-
「……」
「……」
「……師匠」
「何だ、クソガキ」
「私、もうガキじゃありません」
「――なら何の用だ、クソアマ」
「色々と、師匠に言いたい事や聞きたい事があるんですけど、」
「あ? 俺はねえよ」
「……取り敢えず、今はこれだけ言っておきます」
「ああ?」
「お久しぶりです。師匠は元気にしていましたか? 私は、元気でしたよ」
「――……ちっ、これ見よがしに平和主義のあの野郎に毒されたような事を言いやがって」
「あの野郎? ――て、いやいや師匠!? そんな事は全然――!!!!」
「……ちっ」
キスケ&コトハの師弟組です。