ど-511. 痴漢じゃないよ?
……ん~。何か久しぶりなので調子が違うかもしれません。
まあそのうち慣れると思うので、生温かい目で見守っていただければ。
「たらっ♪ たったったら~♪ ――はい、そこでステップ!」
「……!」
「よし、良いぞ良いぞ、その調子だ、アルっ」
「……」
「うん、ここは、……こう! 言う風に両手を突き出して、だな。どうだ、分かったか?」
「……(こくん)」
「ん~、しかし最初に比べると随分と良い動きになってきたぞっ、アル」
「……ん」
「じゃ、次に……と、そうだその前にコレを」
「……」
「服だ。ステージ衣装、とも言うな! 俺が夜なべして作り上げたんだぜ、ソレ!」
「……(ぽいっ)」
「――って、何捨ててるの!?」
「……じょうだん」
「あ、……ああ、じょうだん、冗談ね。冗談なのね。そうか、そうだよな、アルがそんな非道な真似、するはずないもんなー」
「……」
「それじゃ、アル。早速その服に着替えてくれるか?」
「……」
「――ふむ? なら仕方がない。アルが着方が分からないって言うのなら、ここは俺が――ぶっ!?」
「それで旦那様は何をなさっておられるのですか?」
「んご、んんんっー、ふごごふご!!??」
「何を仰ろうとしているのはまるで判断がつきません。え、『てめ、踏みつけんな,そこから退け!?』」
「ん゛ー!!!!」
「まあ、違っておりましたか。それは申し訳ございません、旦那様」
「ぶがー!?!?」
「まるでひき潰される寸前のトカゲの様な鳴き声で御座いますね、旦那様? ああ、状況としては余り変わりありませんでしたか」
「~! ~~!! ~~~!!!!」
「最早言葉が聞こえませんね。何々……『良いからさっさと俺の上から退け』? お断り致します。そんな些細な事よりも旦那様には一つ、答えていただかなければならない事が御座います」
「!!!!!!」
「えい♪」
「っ? ――……」
「足の下でもごもごと蠢かれると気色が悪いので少々落ち着いていただけませんでしょうか?」
「……」
「旦那様がまるで死体の様だ――と、ようやく落ち着いてくだいましたね。ありがとうございます」
「……」
「それで旦那様? お尋ねしたいのですが、アルーシア様の服に手を掛けて、一体何をなさろうとしていたのですか? 具体的にご説明お願い致します」
「……」
「旦那様? 御返答の方は?」
「……」
「少し強く踏みつけすぎましたか? では、」
「――ふがーっ!!!! テメエいきなり俺を踏みつけて、踏みつけて踏みつけて、踏みつけるとは一体どんな了見だっ!?」
「旦那様、先程の私の問いにお答え願いたいのですが?」
「ああんっ!? 今はそれどころじゃ、」
「――些細な事は、良いのです。それよりも旦那様、御返答は?」
「全然些細なコト違うだろうがっ!! 俺はただ善意でアルのお着替えを手伝ってやろうとだな!」
「……」
「何だよその目は!? つか俺は誰かに言えないような疾しい事をしようとした覚えは一切ない!」
「女性の着替えを手伝う、という発想自体如何なものかと思うのですが?」
「俺はロリコンではないので心配なし!」
「……」
「俺はロリじゃない!!」
「……」
「俺はロ、ぐふぅぅ……!!!」
「――少し、黙って下さいますか、旦那様?」
「……、さっきからなんだ、その理不尽な暴力は!? 俺が何をしたっていうんだ!!」
「旦那様が非常に旦那様らしいので――それ以外に理由は必要御座いません」
「何それ!?」
「――では旦那様、アルーシア様の御着替えの方は私がお手伝いしますので、どうか旦那様は部屋の外で待機していて下さいませ」
「えー、でも、」
「着替え終われば呼びますので」
「しかし、だな、」
「寄り率直に『出ていけ女の天敵』――と申し上げた方が宜しいでしょうか? それともやはり旦那様は力づくでのご退去がお望みで? それならば致し方――」
「あい分かった。すぐに出て行こう。ちゃんと着替え終わったら呼んでくれよ!?」
「はい、それは重々心得ております、旦那様。ですので、どうか覗きなどはなさらぬ様――」
「俺を侮るな! 一度出てくって言ったらちゃんと出てくよ。覗こうとかそう言うつもりもない!」
「……失礼いたしました、旦那様」
「分かればいい」
「では、――ご退去を」
「……本当に、ちゃんと着替え終わったら呼んでくれよ?」
「――やはり力づくが、」
「じゃ、俺は部屋の外で待ってるから!!」
「それで……アルーシア様? 旦那様と何をなさっておられたのですか?」
「……おどり」
「踊り? それは、また何故そのような……?」
「……」
「まあ、アルーシア様が仰りたくないと言うのでしたら無理にはお聞きいたしませんが、どうせ旦那様辺りが何の前触れもなく、『さあ、踊ろうぜ!』などと奇天烈奇怪な事を仰られたのでしょう」
「……(こくん)」
「それでこちらの服は……見覚えがありませんね。もしかせずとも旦那様の手作りですか」
「……(こくん)」
「流石と言えばよろしいのか、相変わらずあの朴念仁、このようなところで随分と凝っておられる……はて?」
「……?」
「アルーシア様、少々失礼を」
「……」
「……、何故、服のサイズがぴったりなのでしょうね?」
「……?」
「まあその件は後の旦那様に拷問すると致しましょう。視姦のみでアルーシア様の体型を見極められていても何らおかしくはないですからね、あの旦那様は」
「……(こくん)」
「さて、それはそうとして。着替えましょうか、アルーシア様。私も、この衣装を着たアルーシア様は少々見てみたいです」
「……」
「では、アルーシア様。失礼を」
-とある二人の会話-
「――ししょー」
「……ぐー」
「って寝ないで下さいよ!?」
「ん? おはよう、ムェ」
「はい、おはようございます。そんな事よりも、フラッといなくなるのはいい加減やめてくれませんか? 探すこっちの身にもなってですね、」
「くぅ」
「って、やっぱり聞いてないよねっ!?」
「……大丈夫、ちゃんときいて、くぅ」
「最後まで言いきれてないし。……まあ、師匠が寝ぼけてるのなんて今に始まった事じゃないし、会話が成り立たないのも十分身に染みてるんだけどねっ」
「……すぅ、すぅ」
「――ほんと、この寝顔だけを見てると、僕より年上とか、W.R.第四位の灼眼の剣士だなんて、誰も思わないんだろうなぁ」
「……私の、寝顔を見ていいのはれむ様、だけ……くぅ」
「……はあぁぁぁぁ、ししょー? ちょっと待ってて下さいよ? 今日の食事を狩ってきますから。良いですね? ちゃんとこの場で待ってて下さいよ?」
「……ん」
「……ま、寝てる相手に期待するだけ無駄かー。……何か、この状況に慣れてきている自分が怖い」
いじょー。ラライ&ムェの師弟コンビっす。
何だか調子狂ったりするなぁ~