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harem!〜カオス煮、いっちょ上がり!〜  作者: nyao
【とある大会で編】
857/1098

とある大会での一幕-25(逃亡者)

結局、いつもどおりな訳ですね。ま、それが彼らの日常さっ、

そして今回の被害者は無垢な“聖遺物”使いのクドウェル君でした。珍しく、性別男! な子。

◇◆◇




「何が、どうなってるの……?」




その一言はクドウェル少年の現状に対する想い全てであり、どうしようもない今に対する愚痴の様なものだった。




其処はかつて地下の牢獄だった。


犯罪者が囚われるはずのその場所へ、全くの無実の罪で放り込まれた憐れな少年が一人加わった、広く強固な籠の中。少なくとも少し前まではその通りだった。




呆然と立ち尽くす少年以外に人影はない。


本来そこに放り込まれていた犯罪者の全ては――その牢が壊された今でも逃げだす事はなく、むしろ彼らが閉じ込められていた牢獄の片隅で震えていた。少しでも動けば――“彼ら”に八つ裂きにされてしまうのではないかとでも言うかのように震えていた。




「は、ははっ、僕、夢でも見てるのかなぁ……?」




残念ながら頬を抓っても夢は覚めなかった。痛いだけである。




目の前では、夢と疑っても仕方ないような光景が続いていた。


何せ剣や槍、弓に魔法杖、鎧や小手などその他にもさまざまな武器防具が眼前に整列していた。そして“彼ら”は少し前までは勝手に宙を動きまわってこの地下の牢獄をボロボロに破壊しまわっていたりした。




『主のご帰還、我ら同胞、歓迎致します』


「あ、主? 帰還って?」


『はっ、主様。我らが主の資格持ちし方』


「……」




何か目の前の――それほど豪華ではないがひときわ強力そうな剣が、無機物が話しかけたりしてきているのだがその辺りはクドウェルとしては疑問はなかった。何せもっとも身近に喋る無機物――“聖遺物”≪リア・ファル≫がいるのだから。剣が突然話し出そうが動き出そうが驚く事ではない。


ただ、それでも思うのだ。目の前に広がるこの光景は一体何なのか、と。


寄りに寄って、ある程度の疑問に答えてくれそうなリア・ファルが何故か見当たらない事も混乱に拍車を掛けている要因の一つだった。




「えっと、主って何の事? と言うよりももしかしなくてもそれって僕の事?」


『はい、主。そして主とは我らが使い手の事――我ら一同、主に使われる事をお待ちしておりま――』




『しゃらぁぁぁぁぁっぷ!!!!』




「リア――、?」




突如、剣とクドウェルとの会話(?)に割り込んできたのは、一瞬クドウェルが物心つく前から長年連れ添ってきたリア・ファルと見間違えてしまう程に瓜二つな、緑色の何処か森を連想させる少女だった。


一拍遅れて、それが≪ユグドラシル≫と呼ばれていた、あの“白面”をつけた男が所持していた“聖遺物”の意思であった事を思い出す。




『下郎は下郎で下がっていればいいのです。と言う訳でクドちゃん、私とも姉さん同様、契りを交わしましょう』


『くっ、いくら聖遺物――私の“親”だとしてもそんな横暴が許されると思ってかっ!!』


「え? え??」


『ほぅ、私から別たれた分木ですか。それが私に意見を言うと? 百万年は早いっ!!』




緑の少女――ユグドラシルが叫んだのと同時、今まで整列していた武器防具の全て……クドウェルへ語りかけていた一振りの剣を覗いて全てが忽然と消えさった。




『ふぅむ……なかなか美味でした』


『お、おのれ≪ユグドラシル≫めっ!!』


「え、えっと……?」


『あ、次期主のクドちゃんはちょっと待っていて下さいね? 今、この躾のなっていないおバカな娘を躾けますから』


『バカ言うなっ! それに何時までも“親”の方が強大だとは思うな!!』


「え、は、え……?」


『よし、良いでしょう。今私はぷち鬼畜・びっくへたれな主から解放されたのと新しい主を見つけたのと、ちょっとお腹が膨れているので機嫌がいい。――相手をしよう、分木』




地面から、牢の石畳を割って成長した木々が一気にその剣へと殺到する。



『猪口才!』




迫る木々達を剣は一振りのみで一掃、その勢いのままユグドラシルへと斬りかかる。




『なんのっ、クドちゃんバリアー!』


「は!? ちょ、うあ!!??」


『――くっ』




突然強い力に引っ張られたクドウェルはバランスを崩し、その目と鼻の先で金属光沢に輝く刃が停止した。



『ふははははっ、甘いぞ、分木!』



『主を盾に取るとは何と卑怯なっ、道具としての恥を知れ!!』


『“仕える”モノは何でも使う。コレ、前主レムの所にいた化物的存在メイドから聞いた生き残るための秘訣ね!』


『くっ!!』


『では――いっただきま~す♪』




ユグドラシルが、緑色の少女の形をしたモノが大きく口を開けて――剣の刀身へと噛みついた。


続けて『ぽぅんっ』と効果音を出して緑の少女がもう一人増える。その少女は同様に剣の刀身へと噛みついて。




――それからはただ圧巻だった。


ネズミ算式に増え続ける緑の少女が剣を埋め尽くし、喰らい尽くすのに一秒とかからない。


そして頭に花を咲かせて消えていく少女たち。ただ一人の傍観者であったクドウェルはただ呆然とそれを見ていることしかできない。




『んっ……ぺっ』




最後に一人だけ残った緑の少女、ユグドラシルが小さく、口からモノを吐き出す。




それは剣だった。もはや見る影もない――小指サイズの大きさしかない、ナイフと呼ぶのも躊躇われる、けれどそれは間違いなく、ユグドラシルがたった今食いつくしたはずの剣だった。




『満足♪』


『く、う……この、ユグド――』


『お? まだ会話可能とは、中々いい根性ですね、分木』


『こ、のぉぉ……』


『でも私に勝とうなんて一生早い。所詮は傍流の――自分の存在理由も忘れてしまった“聖遺物ユグドラシル”が“聖遺物わたし”に勝てるはずがないのです。身の程を知りなさい、身の程を』


『……』




何か、聞こえかけたがそのまま沈黙する剣と、それを勝ち誇ったように見下ろす緑の少女、こと“聖遺物”≪ユグドラシル≫。




「え、えっと……?」




そして当然のように状況の変化についていけなかったクドウェルは、ただただ戸惑っていた。




『さっ、次期主候補のクドちゃん。邪魔ものも居なくなったので、私と契りを交わしま――』


『――させるかっ!!』


『姉さ、』




吹き飛ぶ緑の少女。新しく登場――と言うよりも虚空から跳び蹴りをしながら現れた空色の少女。




『クドちゃんをかすめ取ろうとは、例え愛しい妹であろうと許さない!』


『――姉さんの横暴にはもう辟易へきえきした! 許すまじ!』


『姉に逆らうか、愛しき妹よ!』


『逆らうとも! そして手に入れて見せよう、夢の二十食昼寝付き!!』


『それは私だけの特権なので渡しません!!』


『姉さん、覚悟!!』


『なんのっ!!』




益々場が混乱した。判り易く言えば人外大戦が勃発した。


木々と、クドウェルにとっては馴染みの深い不可視の触手たちがぶつかり、互いに貪り喰らい、削り、消滅し、相殺し――音もなく互いの存在を殺し合う。




その光景に決して派手さはない。


だがしかし――




衝撃に耐えきれなくなったのか、天上の一角が崩れ落ちて少女たちの頭上へと――そのまま消滅した。




ヒトの身、少なくともクドウェル程度の身の上で彼女らの間に入る事は不可能だと言えた。入った瞬間、存在ごと全てを喰らい尽くされて消されていること間違いなしである。




「……は、はは、夢、だよね、きっとこれって」




頬を抓って見た――今度は痛くなかった。ちょっと痛みがマヒしたのかもしれない。あるいはこれが本当に夢であってくれるのなら――と一縷の望みを抱いて。




「――此処ですわねっ!!」


「……ぇ?」


「まあ♪ なんて楽しそうな事をしてるのかしら――これ以上私のいえで暴れると容赦しませんわよ?」


「あ、ちょ、危な――」




抱いた夢は儚く散った。


突然隣に現れた、街娘風の――それにしては自棄に美人ではあったが――少女が何故か喜々として人外大戦を繰り広げている少女たちへと向かっていこうとするのを咄嗟に手を伸ばして止め――




「――我が拳は、破壊が一徹」


『『ぷむぎゃ!?』』




手が空を切った。


代わりに、緑の少女と空色の少女を握り拳一つで沈めている、新たに現れた少女の姿が目に映り、




「……そっか、やっぱり夢だよね、コレって」




軽く頬を抓って見ると――まるで現実逃避は許さないと言う様に――微かな痛みを感じた。


即座にリアリティのある夢だと判断する。




「疲れてるんだ、僕。きっと一眠りしたら疲れも取れて、この悪夢からも目が覚めるよね……うん、そうだ、そうに違いない」




そうして。


クドウェルと言う名の少年は心安らか――では全然なく、休息を――と言うよりも気絶した。






◇◆◇




ちなみに三つ巴の戦いは三日三晩続き、城は半壊しかけて大惨事になり――最終的にはぽっと出の赤い髪した少女剣士が『煩い、睡眠の邪魔』の一言で彼女ら三人を一瞬で斬り捨て――はせずに峰打ちで済ませた様だったが、そのまま何事もなかったかのように彼女は寝ぼけながら去っていった。気絶した少女たちを厳重に、何百十二も封印を掛けて――ようやく事を収める事が出来た。


クドウェルはその間、寝ては起き、起きては寝ると言う事を繰り返して、必死に現実逃避を試みていたが無駄だった。


終いには王様立会の元、裁判の様なものにかけられそうになり――封印を破って現れた空色の少女≪リア・ファル≫が問答無用でクドウェルの事を攫って行った。




色々な不幸が重なり(?)クドウェル少年の逃亡生活が幕を開けるのだが、そもそもの元凶たる男はと言えばその頃――




「……ちょっと待て、少し落ち着け、イヤだから待て!」


「旦那様、知っておりますか? 狩りの常套手段は、相手が弱るまで泳がせておく事なのですよ?」


「それは俺が泳がされてたと言いたい訳かっ!?」


「……旦那様は少々“お疲れ”のご様子ですね。少し――お休みいただいた方が宜しいのでは御座いませんか?」


「とか言いつつ不穏なモノを感じるのですが!?」


「旦那様の気のせいです」


「気の所為じゃない! 気の所為とかじゃないから絶対!!」


「まあ、例え気の所為ではないとしても何も変わりませんが」


「何も変わらないって、だから何が!?」


「ねえ旦那様、私、少しだけ怒ってたりするんですよ? 旦那様があそこまで油断なさっておられるから、“白面”を壊される羽目になどなるのです」


「あ、やっぱりソレ、怒ってたわけ?」


「はい。それなりにお気に入りの一つですから、この魔道具は」


「許してくれ、と言うのは――」


「旦那様相手に許すも何も御座いません。それに先程申し上げたはずですが?」


「……えっと、俺がどうあがいても結果は変わらない、とか?」


「――ええ。では旦那様?」


「逃げ、」




いつも通りの風景が繰り広げられていた。



……ふむ?

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