とある大会での一幕-24(幕引き・に)
……いい加減次でラストです。最後にクドウェルくんのその後(?)の展開を。
◇◆◇
とある街の、人目もない物陰の一角で、男と女が手を取り合って(?)お互いに見つめ合っていた。
とは言っても二人の間には色気などと言う雰囲気はさっぱりなのだが。
「……さて、クリス君」
「そんな改まった風に……何かな、レム?」
「一体どういった用件で此処にいるのか、説明してもらおうか」
「説明?」
「ああ」
「賞金稼ぎの私が、賞金首のレムを追いかけるのに何か理由が必要なの?」
「ふっ、舐めるなよっ。俺の懸賞金なんてタカが知れてるじゃねえかよ!!」
「基本、飴玉一つにも劣るよね?」
「その通りだとも!」
「でも時々、金額がバカにならない程に跳ね上がるんだよね、レムって。金貨千枚とか五千とか」
「でも今は――」
「千枚」
「……ぇ」
「今、レムに掛かってる懸賞金は金貨千枚だね」
「……ほ、ほ~、それはまた随分と多いなっ」
「と、言う訳だから大人しくついてきてもらえる?」
「ちなみに連行場所は?」
「今回は……アルカッタだね」
「――お断りだ!」
「ちなみに生死問わず――なんだけど?」
「きゅ、旧知の仲である俺を殺す気かっ!?」
「旧知って……まあそれなりに古い知り合いだけどさ。ほら、言うじゃない? 金の切れ目が縁の切れ目、って」
「……」
「……」
「つまりあれか、お前は俺を殺してでも捕まえるつもりな訳か?」
「当然♪」
「――ふっ、なら仕方がない。運が悪い事に今の俺はそこそこ気が高ぶってるんだ。良い機会だ、俺の本気と言うモノを見せてやろう――!!」
「……レムの、本気!?」
「そうだ。クリスにはまだ見せたことがなかったよな?」
「っ、」
「おいおい、そんなに警戒するなよぉ~。思わずサービスしたくなっちゃうじゃないか」
おどけた様子の男に――女の方が掴んでいた手を払い除け、一瞬で間を取った。
「ッッ!!」
「お、ようやく解放されたな?」
「……――そう言えば、リリアンの姐さんが認めてる相手だってのを忘れてたよ」
「あ、それはあっちの勘違いだから」
「……これでもそれなりの私がこれだけ気押されてるんだ。十分自信を持っていいと思うよ?」
「そりゃどうも。――じゃあ、そろそろ覚悟はいいか、クリス?」
「――何処からでも、かかって来いっ!!」
「じゃ、遠慮なく……W.R.第六位が相手だ。本当の意味で、久々に本気で行かせてもらおうおか」
何もない空間から剣を引き抜く。
一見して何処にでもあるような、ただの“はがねのつるぎ”。
「ッッ――随分と凶悪なモノを持ってるね、レム。流石は――ってところなのかな?」
「流石、“判る”のか?」
「禍々しい――いや、どちらかと言えば神々しい? どちらにしろ、ただの剣じゃないよね、それ」
「まあな。でも至って普通の剣だぞ、コレ。――“何でも斬れる”こと以外はな」
一歩踏み込み、抜き放った剣を一閃。
それをクリステルは紙一重で剣戟を避け、そして体勢を崩した。
「っ!?」
「隙だらけだぞ――と」
「なん、のっ!!!!」
体勢を崩したクリステルへの追撃の一閃。それを神技の様な身のこなしで避けるクリステル。
そして、また“体勢を崩した”。
「それ、はっ、――いくらなんでも卑怯なんじゃない!?」
「いきなり知人相手に命狙ってきた奴に言われたくないなぁ」
「五月蠅い、この卑怯者ッ!! 武器の性能に頼って――!!」
「これも実力の内、ってな。まあ俺程度の実力じゃ色々と“敵わない”ってのを知ってるんでな。それじゃあこう言うところで差を埋めなきゃなってのは当然の結論だと思うが?」
「それはっ――」
盾に振り下ろされた剣劇を、今度は大きく壁際まで下がって避けるクリステル。
特に追撃はせず、余裕を以て、彼女を見送る。
「確かに……その通りだと思うけどさ。何なの、その剣?」
「だから言っただろう? ただの斬れないモノはない剣だって」
「それで――“空間”まで斬るってわけね?」
「そうだな。空間削って、それを修復する引力で隙を作って、んで止めの一閃と。いやぁ、コレって紙一重で避けるとかそういう事をされなくなるから結構便利なんだよなー」
「……気軽に言ってくれるけど、随分厄介よね、それって」
「だな。俺もそう思うぞ」
「……成程。リリアンの姐さんが認めた男ってのも判るよ」
「それは分からなくても良い」
「……金貨千枚、まあこれくらいの抵抗がないと面白くはないさね」
「ん? ちょっとはやる気になったってところか?」
「そう――だねっ!!」
今度はクリステルの方から踏み込み、間合いへと侵入してくる。両手に武器はない。
第五位と同じように徒手空拳を振り上げて、
「疾ッ」
「っ!?」
瞬間、クリステルの身体が真横へスライドした。勢いとかそう言った慣性を一切無視した動きで以て。
「――バク」
「くっ!?」
真後ろ、男から見て完全に死角になっているその位置で、爆発が起きた。
威力は然程でないものの、その爆風で前へ――クリステルが万全の姿勢で構えている先へとたたらを踏み込んだ。
「剛・雷・爆・氷・影――結!」
五指からそれぞれ違う輝きの魔力が溢れだし、それが中央で結合される。
それぞれの属性が反発、結合しあい、互いに威力を増して暴発するように――
“其処”へ、体勢を崩して踏み込む形になった。
「昇天――しなっ!!!!」
膨れ上がった魔力が、クリステルの拳から振り下ろされるのと同時に解放され、
「お断りだ」
「――ぇ」
一瞬で、その全てが霧散した。
剣を振り切った状態の男。僅かに遅れて空間に五線の剣戟が奔り――それは寸分の狂いなくクリステルの五指に灯っていた魔力を斬り裂いて――そして、圧倒的な引力が来た。
溢れる程の魔力と、空間を削り取り、それを補間するように周囲から魔力や空気が吹き込んでいく。それは小型の嵐よりも圧倒的な暴力でクリステルの身体を引きずり込み。
待ってましたとばかりに、腹部へと剣の柄を叩き込まれた。
空間への修復を合わせた一撃。その衝撃に、実にあっさりとクリステルの意識は遠のいて――
「大技ってのは使いどころを間違えるとこうなるんだぞー……って言ってもまあ、余計なお世話か。まあ運が悪かったな、クリスー。普段なら俺も逃げるだけなんだけど……うん、短い時間だったけど十分楽しかった。礼を言うぞ、ありがとな」
手を伸ばした先――触れた温かな感触と、まるで抱き止められたような全身の温もりに、クリステル・リュートリアムはそのまま意識を失った。
「――……て、ちょい冷静になると結構やばい事をしちまったような……? ……、……、……まあ、予定通り逃げるかー」
◇◆◇
それは少し後の事。
男は逃亡を図り――宿屋の一室で目を覚ましたクリステルは、己の全財産がスられている事に気づいて、絶叫を上げた。
◇◆◇
……う~む、少し時間を読み間違えました。お陰でまた火を跨いでしまった。
ん~、一度やってしまうとそれが癖になると、……困ったものです。時間的には、土日なので結構落ち着いてかけたはずなのですが。




