とある大会での一幕-20(事後処理・に)
……一時間って、許容範囲ですよね? まだまだ昨日だよ、うん!
と、言う訳で。何か色々とありそうでなさそうで……。
ついでに言い忘れてましたがこの話の時系列は大体、ど-500以降、どれいシリーズ以前のお話のつもりです。
◇◆◇
「旅には~情けがっ、みっち連れよぉ~」
「……ん、んんっ?」
「――お、起きたか?」
肩に担いだ荷物を地面に放り出して、声を掛ける。
疲れは日頃の苦行に比べればそれ程でもないが、取り敢えずは邪魔だったと言っておこう。あと、野郎を担ぐのは趣味じゃないとも。
ようやく――文字どおり肩の荷が下りて、状況を理解しようときょろきょろしているクドウェルを眺めながら、男は一つ大きく背伸びをした。
「こ、此処は……それよりも貴方は一体……?」
『う゛~がるるぅ、わんわんっ!!』
「――リア?」
何故か野生化しているリア・ファルを踏みつけて、友好の証として笑顔と握手を一つ。やはり人間、初対面の印象が大事だろう――と、ただリア・ファルを足蹴にしている時点で友好も何もないのだが。
「よっ、聖遺物使いクン。元気にしてる?」
「――ッ、その声、お前は!?」
「って、そう緊張するなよ。俺、酷い事しないよ? もう傷つけたりしないよ?」
不可視の触手を伸ばしかけたリア・ファルを――取り敢えずうざいのでもう一度踏みつける。ちなみに、男はこの物体≪聖遺物≫を女性人格として認めていない。暴食魔人はどこまで言っても暴食魔人である、と言うのがユグドラシルでの経験を踏まえた上での男の見解である。
「――リア!?」
「うん、取り敢えず俺に敵対の意思はない」
「何処がっ!?」
「? 実に友好的な態度を取ってると思うんだが?」
「友好って言うんなら今すぐリアから足を退けろよっ!!」
「……おっと、これは失礼。気がつかなかった」
――今の言葉は事実である。完全に無意識下でリア・ファルを踏みつけていたので本人、気が付いていなかった。
ついでに言えば『た、助けて愛しの妹っ』『無理!』なんて言う実にささやかなドラマが足元で繰り広げられていたりしたが、認識外の事である。
「さ、それじゃあ改めて友好の握手と行こうか、聖遺物使いクン」
と、改めて手を差し出してみたりしたが、受け入れられなかった。
未だ――と言うよりもさっきよりも一層警戒を込めて睨みつけてくるクドウェル……とその他、二匹(ユグドラシル&リア・ファル)。
「……お前、何を企んでるんだ?」
「企むだなんて人聞きの悪い。俺は何も企んでないぞ?」
「……」
「企むと言うよりも、既に事後だったり?」
「……事後?」
「聖遺物使いクンにも分かりやすく、二言で言おう。此処はアルカッタの宝物庫であると。そして当然不法侵入だ!!」
「――、え?」
「ん? 聞きとれなかったか? ならもう一度、」
「いや、いやいやいやいや!!」
「いやん?」
「じゃなくて! 何処だって!?」
「此処か? アルカッタの宝物庫だって」
「は!? 何言ってるんだよ、お前、正気かっ!?」
「正気だとも」
「それに不法侵入とか言ってなかったか!?」
「バッチリ、不法侵入だ。俺の予想じゃあと少しでばれて、大群、もしくは精鋭の方々が此処に押し寄せてくな」
「僕になんの恨みがっ!?」
「いや、恨みはないけど?」
「くっ……それは――そりゃ僕たは確かに“聖遺物”使いで、リアは“聖遺物”だよっ、でもそれが悪いのかっ!? 僕らは何もしてないのに、ただそれだけだってだけでそんなに悪いのかッ!?」
「ああ、悪いぞ」
「っっ」
「――少なくとも、それが世界の見解だ。お前如きが喚こうが泣き叫ぼうが変えられない、世界真理の一つだ」
「だけど――っ!!」
「ま、だからと言って神が定めた世界真理如きが俺に如何こう指図しようってこと自体が間違ってるけどな」
「――、……、ぇ」
「まあ、何だ。時間もそれほどないし。率直に言おう。お前を此処に連れてきたのは世にも楽しい事をするためだ」
「楽しい、……こと?」
「ああ。実質世界二位の宝物庫――軍事大国アルカッタの宝物庫ってのはやっぱ思った通りに何でも有るもんだなぁ。国宝のはずの“聖剣”まで何故か放り込まれてるし、いや気持ちは分からんでもないけどさ」
「……楽しい事って何だよ!? 僕をこんなところに連れてきて、何をしようって言うんだ、お前は!!」
「いや? 俺は何もしないぞ。と言うよりも俺が手を出す段階は既に終わってるしな」
「終わって、る?」
「ああ。お前さんをこの宝物庫に放り込んだ時点で、はいしゅーりょー。あとは愉快痛快な事をわくわくしながら待っています」
「何が、」
言いかけた言葉を小さく静かに、だが圧倒的に遮る様に。
「――お前は気がつかない?」
「……なに、を?」
「此処に満ちてるバカどもの気配。んでついでに言えばお前を熱烈歓迎してて、逆に俺の事を正反対の意味で熱烈歓迎してる皆様方」
「――」
――その時点。
クドウェルはようやく気付き、吐きかけた。吐きはしなかったものの地面に両手をついて、崩れ落ちる。
ありえない程、少なくともクドウェル自身が体験した事もない程の殺意が、そして同時に歓喜と狂気がこの場には渦巻いていた。
その殆んどが何故か目の前の男へと向けられている、クドウェルはその余波を受けているにすぎないのだが、それでもなおこの場にいること自体に許しを請いたくなった。――許して下さい、僕が悪かったです、と。
「おーい、リア・ファル。お前の主様が大変な事になってるぞ。ほら、もうちょっと気を張って護ってやれよ」
『云われずともっ。――ええい! 小物風情が身を弁えなさいっ、クドちゃんを誰と心得るかっ、そして私の事が判らないのかっ!!』
リア・ファルの一声(?)に、場の空気が急速に収まりを見せて――
『――食べる?』
ユグドラシルの呟きが止めになった。場を取り巻いていたはずの気配の一切が、恐怖に打ち震えるようになりを潜める。
「ほら、聖遺物使いクン。周りも静かになったぞ。大丈夫かー?」
「……っ、」
ふらふら――未だ酔いが収まらないように、リア・ファルに肩を貸してもらいながらも何とか身を起こす。
場の空気はもう驚くほどに軽く――、いやそんな事よりも。
あの状態でなおも平然としている目の前の男は果たして何者なのかと――クドウェルが改めて深い疑念を持ち、
「――とっ。流石に今のはやばかったか。もう一番手……しかも一番厄介なのが来るな」
「?」
頭上を――何も伺えないまっ平らな天井へと視線を向けた男につられるように。
「じゃあ、王よ」
視線を逸らしていたクドウェルは最初、それが誰を呼んでの事なのか判らなかった。この場所には目の前の男と自分、二人しかいないと言うのに、である。
だから、少なくともクドウェルにとってはその言葉は異音でしかなかったのだ。
「王よ、自称とは違う、正真正銘の聖なる王よ」
「――?」
「正直こんな大物とは思ってなかった訳だが……――活躍を期待している」
「ぇ?」
「――ちっ、流石に早いな、王妃めっ。じゃ、もうちょっと見てたかったけど、頑張れよ。俺は陰ながら応援してるからなっ!!」
口早に言い終えて、男が手を掲げた瞬間。
「――ソコッッ」
銀閃が奔った。
少なくともクドウェルには追う事など叶わない程の剣速で、数にして一瞬でおよそ百。男が存在していたはずの空間をズタズタに切り裂いていた。
だが、細切れの惨殺死体などはそこにはない。つい先ほどまでそこにいたはずの男、その存在自体が初めから幻だったかのように――
「……ふぅ、やはり逃がしてしまいましたか」
男の代わりにいつの間にかその場所に立っていたのは妙齢の女性で――然も残念そうに溜息をついた。
「残念、リリアンを連れ戻す絶好の餌になると思ったのですが――あら?」
そして硬直したままのクドウェルと視線が合う。
「……」
「……」
『……』
「――あなたは、」
『置いてかれたー!!!! ……と、まああんな主なんて別にいっかー』
何か、口にしかけた言葉を遮って、緑色の少女の絶叫がこだました。
◇◆◇
……はふぅ、一日五十時間ほど欲しい。そして睡眠時間が三十時間ほど。。。
――夢かっ!!