とある大会での一幕-18(番外乱闘・に)
ひとまず、終幕?
「――さあ、私の所へ飛び込んできなさい、レムッッ」
眼下では満面の笑みを浮かべて“受け入れ姿勢”を整えているリリアンの姿。
足元には空色の少女と緑の少女の二人が足蹴にされていて――どうやら負けたらしい。
状況が状況でなければ、“受け入れ姿勢”が“腰を軽く落として拳を構えている姿勢”でなければ嬉しい言葉だったかもしれない。
だが現状とりうる答えは一つだけであり、当然――
「断る!」
「なら私から参りますわ!」
跳んで来た。
「――て、熱烈なアプローチだな、おい!?」
「身体の火照りが収まりませんの。責任、ちゃんと取って欲しいですわ」
「いーやーだー!!」
「無理にでもとって貰いま――すっ!!」
「うぴょ!?」
「――なっ、今のを避けますの!?」
「うはははは、俺の舞う様は柳のごとし、だ。そう簡単に捕えられると思うな、」
「捕まえましたわ」
「……」
「まあ、避けるのであれば捕まえてしまえばよいだけですわよね」
「そ、それはちょっと卑怯なんじゃないかなーと俺は思うだよねー」
「戦いに卑怯もなにもありませんわ。力亡き者に語る道理は無し――最後に立っていたモノ、それだけが絶対の正義なのです」
「それはまあ、否定はしないが、」
「それでも私にもプライドはありますし? 相手がレム以外ならばそれなりに手段を選びます」
「何故に俺だけ例外!?」
「だって――手段を選んで貴方に勝てるとは到底思えませんもの」
「ゃ、そんな事は、無いんじゃないかなー……と」
「いいえ? 現に今だって、――往生なさいっ!!!!」
「――断る!!」
「っ、また!?」
「当ると痛いだろうが!!」
「痛いじゃ済ませませんっ、一撃必殺が私の信条ですわ」
「余計に性質悪いよ!?」
「このっ、――何で捕まえてるのに一撃も当りませんの!?」
「それは俺が避けてるからだ!」
「なら避けるのを止めなさい!!」
「そりゃ無茶だろ!?」
「くっ、流石はレムッ。お母様と私が見込んだだけの事はありますわっ」
「いや見込み違い、それ見込み違いだからっ!!」
「これだけ私の攻撃を避けておいてっ、良く言いますっ!!」
「一発当れば俺内側から弾け飛びそうだしな!? もう必至だよ!!」
「一撃必殺がモットーなんですわ!!」
「それはさっき聞いた!!」
「こうなったらこのままっ!!」
「って、まさか!?」
「地面に叩きつけてあげますわ!! それなら避けようがないで、しょ……う?」
ひらり、と。
宙で身を反して、リリアンの背中へと飛び乗る。
「ふっ」
「え!?」
「誰が呼んだかひらりキングの名は伊達じゃないぜ!!」
「ヘタレキングの間違いでしょう!?」
「ふっ、心中はご免だぜ!」
地面に衝突する――その間際に再びひらりと、リリアンの背から飛び降りた。ついでに軽く彼女の姿勢を崩して。
「ッッ!!」
頭から衝突するかに見えたリリアンは、その一瞬。
「――ふっ」
拳で地面を殴った。
やったのは“それだけ”である。だが“それだけ”でぶつかる筈だった地面の方が粉々に砕け散った。
その衝撃と間を利用して、リリアンは自分の両足で地面(?)――だった砂地へと着地した。
「ぅおい!? そう言うお前も大概反則だと思うんですが!?」
「――もうっ、いい加減逃げてばかりいないでちゃんと私と戦いなさいッ、レム!!」
「嫌ぷー。つか、お前と戦って得する事が一つもねえ。むしろ損ばっかりじゃない?」
「私に勝てば――もしっ、仮にですがっ! 私に勝てればアルカッタの国が手に入りますわ!!」
「――要らん!」
即答である。
「何故ですの!? 言っては何ですが世界一の大国と言っても良いんですよ!?」
「尚更要らないだろ、それ。俺は余計なしがらみとか要りませんー。俺は俺の家族を守れればそれで良いんだよ」
「っっ、そうですかっ、アルカッタなど貴方の私兵で滅ぼせると、そう言いたいんですね!?」
「いや、誰も言ってない――」
「それは認めましょう」
「って、認めるのかよ!?」
「客観的に見て、たった数百人相手にアルカッタの手勢は数百万――ですが、勝てる要素が一つもありませんから」
「ゃ、普通に万倍の差があれば相手にならないと思うのですが!?」
「――あの銀髪のメイドがいるでしょう?」
「あ、それなら大丈夫。あいつは基本、俺に害がない限り動かないから――と、言う本人が一番害になってるとか矛盾しまくってるんだけどなっ!」
「それでも勝てないと――悔しいですがそれは認めましょう」
「いや、流石にそこまでじゃないと思うんだけどなー」
「ですがっ、それと私とレムとの勝負は別ですわ!」
「そもそも勝負して無いし?」
「今していますわ! ――っ、それとも私程度ではまだ相手にならないと言う事ですの!?」
「ゃ、何でそうなる? むしろ相手にならないのは俺の方だと、」
「良いでしょう。ならば私も――本気を見せて差し上げますわ」
「聞いてないし!? と言うより本気!? 全力で遠慮する!!」
「――っはあああああああああぁぁぁあぁぁぁ」
右手を掲げて、何やら吠え始めるリリアン。
その全身からは黄金の魔力が立ち上り、それは螺旋を描きながら彼女の右腕一本へと渦を巻くように収束していく。
「げ」
本気である、マジである。誰がどう見ても全力で――この会場ごと全てを吹き飛ばそうとしていた。
少なくとも今の彼女の拳にはそれだけの力が込められている――ヒトとして、小人としはて余りに規格外の力がそこにはあった。
W.R.第五位、事実上ヒトとしての最高位のその力は決して伊達や酔狂ではなく、
「……ぉぃぉぃ」
だからこそ、こんなところで明らかに間違った力の使い方をされれば恐怖とかそんなモノより先に、呆れしか浮かばないのであるが。
「――往きます」
音速、神速、光速――それでもまだ足りない。
気付いたら二人の間合いはなくなっていて、その絶対の威力が込められた拳は躊躇い一つなく、
「………………はぁぁ」
もうやってられない――と言う、時間にして一瞬すらないはずの中で漏れたそのため息に。
ぴと、と彼女の額に人差し指が当てられた。
――Sleep、お転婆お姫さま?
黄金の拳は“白面”を僅かに掠り通過――ただそれだけで粉々に砕いた。
「……やれやれだな、おい。熱いのはいいけど、場所を間違えて熱くなりすぎるなよなー」
だがしかし、二撃目はない。
気絶したリリアンを抱き止めて“白面”の、……レムは、『“白面“壊した言い訳、どうしようかねー』などと必死に思考を回転させていた。ちょっとだけ、額に脂汗込みでである。
◇◆◇
……色々と、心機一転しないとなーって思います。
もう、不満がいっぱいかも。