とある大会での一幕-17(番外乱闘・いち)
気が付いたら時間が過ぎてた――!?
……寝てただけです、はい。
決勝戦――試合開始の合図と同時、向かい合っていた対戦者が忽然と姿を消した。
そのときの会場は暴動もかくやと言う程の騒音に包まれていた。何せ折角楽しみにしていた決勝が、やっと始まったと思った瞬間に無くなっていたのだから。
審判員、それに護衛の騎士たち、雇われていた魔法使いたちが懸命になって決勝で戦うはずだった二人の捜索をしたが、見つける事は叶わなかった。
何より驚きなのは、本当に偶然、幸運にも雇う事が出来たW.R.第六位、クリステル・リュートリアムをしてお手上げと言わしめたことだろう。彼女に探し出せないのであれば、他の誰にも探し出せるはずがない――
轟音が会場を包んだのはそんな諦めにも似た空気が場を支配し始め、見物人たちの苛立ちが正にピークに達しようかと言う、そんな瞬間だった。
――ドゥゥウ!!!!
突如として轟いた轟音、それも決勝の二人が消え去った、その舞台上から。
会場は一瞬でパニック状態になった――が、酷い事態にはならなかった。なりようがない、とも言えるが。
まず最初、舞台から立ち上った砂柱に、パニックな思考のまま逃げ出そうとした女性が一人いた。
彼女は頭の中が真っ白になり、自分の行動がどのような事態につながるのかも考えられず、身をひるがえして奇声と共にその場を走り去ろうとして――ピタリと停止した。
その瞬間の、数十秒遅れて事態を把握した彼女顔色は真っ青。だが最初に逃げだそうとしたが故に、“その事態”に気づく事が出来たのも彼女が一番最初だった。
ヒトが停止していた。
皆、彼女と同じように逃げ出そうと、会場に背を向けかけた、その瞬間にまるで金縛りにあったかのように――少なくとも彼女が見渡せる限りでは、誰もが“そう”だった。
けれど所詮は神ならぬ身、龍種ですらなき身、その女性はただの非力な小人に過ぎずただ呆然と、身動ぎすらできない己の身体で眺め続けるほかなかった。
◇◆◇
一方で――砂柱の中。
「さあ、レムッ、私と戦いなさい!!」
クレーターの中央で喜々揚々活々とした様子のリリアンが不敵に笑みを見せる。全身からは金色の魔力が滲み出ているような気がするが、気の所為ではないだろう。
そもそも彼女の戦闘スタイルは全身に魔力を纏っての近接戦闘で――故に誰がどう見てもやる気満々だった。しかも“滲み出ている”と言うのが拙い。あれは無意識に魔力を展開しているモノで――アレは完全に彼女の悪癖、“戦闘モード”のスイッチが入っていた。
現在、下からの爆風にも煽られて飛翔中。吹っ飛ばされている最中とも言う。
真下から真っすぐに向けられるの、期待と不安と羞恥と――それ以上の圧倒的なまでの歓喜の視線から目を逸らす。
……気のせいと思いたかった。
「……って、おい。何でリリアンがあそこにいるんだよ」
「旦那様ご自身、準々決勝でお相手なされたでしょう? もうお忘れになられたのですか?」
可能な限りジト目で怨みを込めるように、くすんだ銀髪の女に――絶賛空中を吹き飛び中の“白面”の男の隣に当然の様に彼女はいた――問いかけてみるが効果はなかったようである。と、言うよりもそもそも“白面”で顔全体を覆っているのでジト目とか、全く意味のない事なのだが。
「俺が言ってるのはそう言う事じゃなくてだな。いつの間に俺の事がばれてるのか、何でユグドラシルの中にいたのかって事なんだが」
「それは当然、私がお教えして私がお連れしたからですが? 旦那様も分かっておられたのでは御座いませんか?」
「……ま、それ以外は考えられないからな。お前が元凶だろうなって事は分かってたけど――まさかリリアンまでここに連れてきてるとは思ってなかった」
「リリアン様がいると分かっていたら、もう少し手を抜いていた……と?」
「当然だ。だってほら、――アレ見ろよ」
「邪魔しないで下さるっ!?」
『あわ、あわわわわ、やめやめっ……』
『クドちゃんを酷い目にあわせるのならこの私が相手になる!』
「もうっ、猪口才ですわ!! レムの前に貴女方から片付けて差し上げます!」
『ひぅ!? 私は関係な、』
『全砲門解放! ≪リア・ファル≫――穿て!』
「そんなもの、効きませんわ!」
『た、たすけて~』
『――非力なヒトの子の割にはよくやるッ』
「ふふっ、そう言う貴女も……ちょっと、やる気になってきましたわ」
「……ユグドラシルが翻弄されておりますね」
「いい気味だ」
「全くです」
「――と、それは全く、全然、どうでもいいとして。そうじゃなくてリリアンの方だ」
「……、リリアン様が喜々として暴れておりますね? 輝いております」
「文字通り、な。ついでに言えばあの状態は中々止まらないぞ。多分、“脳内スイッチ”入ってるし、暴れるだけ暴れるから、アレ」
「そうですね」
「ついでに言えばリア・ファルの方も何かリリアンの熱気に煽られてやる気満々だし」
「同じ“聖遺物”でもユグドラシルとは随分と性格が違うのですね?」
「そうみたいだなぁ……とは言ってもあそこまで明確な意思のある“聖遺物”なんて世界呪≪ユグドラシル≫と愚者の石≪リア・ファル≫くらいしか見たことないけどな」
「それもそうですが――旦那様、何やら進展が御座いましたか?」
「進展? 何の?」
「今を以て不可解極まりない躯、聖遺物についての、で御座います」
「ん~、あったと言えばあったし、全然と言えば全然だな」
「つまりは何かしらの進展があったのですね?」
「てか、どうせお前の方にも聞こえてたんだろ? ならそっちはそっちで想像がついてるはずだと思ってんだが?」
「そう、ですね。恐らく旦那様がご想像なさったのと同程度の事は、私にも」
「そか」
「はい」
「ま、それはそれとして、お互い後でじっくりと検討するとしてだな、」
「お断りします」
「お前、ちょっと行って止めてこいよ――って、断るの早いよ!?」
「ですが旦那様、私はただ吹き飛ばされているだけの旦那様と違い、多忙を極めておりますので残念ながらお断りさせていただきます」
「忙しい? 勝手気ままに吹き飛んでるだけの俺らの、どのあたりが忙しいと?」
「それは旦那様だけで御座います。私は周囲の方々がパニックにならないように頑張って努めておりますので」
「パニック? ……――ああ、道理で」
「御理解いただけたでしょうか?」
「ああ。結界に拘束、あと幻覚に――まあ、あの一瞬でよくもここまでの隠ぺい工作が出来たもんだな」
「日頃から旦那様に鍛えられておりますので」
「それもそうか――と言うか、然も俺の方に原因があるみたいな言い方は止めろ。まわりまわればテメェの方が全部元凶だ」
「旦那様の女性癖にも困ったものです」
「何が!? 全然関係ないよな、それ。てか、女性癖て何だ、女性癖って!」
「手が早い、と申し上げております」
「……、ゃ、無いだろ」
「手が早いのと結果が結び付くのとは同意ではないと、加えて申し上げさせていただきます」
「ぐっ……」
「それで、旦那様――」
「あ? なんだよ」
「そろそろ“頂点”に達しますが――これから如何なさるつもりか、お考えで?」
「考え――、……アッー!!!!」
「……――流石、上昇と違い落下は早いですね」
◇◆◇
一応、本日は夜にもう一度更新する予定です。。。昨日、更新しそこなってしまいましたので(汗汗汗)
でも……どうしてこんな話の流れになってるのでしょうね? 初めは単にレム君にも活躍の場を! とかトチ狂った考えだけだったはずなのに!?