とある大会での一幕-16(決勝戦・ご?)
……せーふ?
◇◆◇
「……さて、それじゃあ改めて自己紹介とかしとこうか」
気絶したクドウェルと、彼に膝枕をしている、何故か恐怖入り混じった涙目で見上げてくる空色の少女。
――と、ついでに『私は反省しております』と書かれたプラカードを首から下げた緑色の少女がちょっと離れた場所で正座していた。
「俺の事は取り敢えずレムと呼んでくれ」
『……痛い事、しない?』
「しないしない」
『凶器で攻撃とか、しない?』
「しないぞ」
『……ほんとうに?』
「しないって。つかしつこい」
『っっ!?』
「……や、そんなあからさまに怯えられてもなぁ」
『――っ』
「……、ん?」
『――適格者の御方、私の事はどうなっても良いからクドちゃんだけは見逃して下さい、お願いします』
「だから……人の話を聞けっつーの。と、言うかお前はヒトの事をどう見てるんだ」
『……、……、……』
「……」
『……、……、……』
「……」
『……、……、……』
「――ぉぃ」
『……、……、……男色?』
「って、長々と考えた末の答えがソレかっ!?」
『クドちゃん可愛いから仕方ない』
「いや、可愛いと言うか……それは“聖遺物”の感覚だし。――好かれそう、ってのは判るんだけどな」
『私の事は好きにしていいからっ、だからクドちゃんだけは清い身体のままでいさせてあげてっ!!』
「だからしない、ってかそもそも俺は男色じゃない」
『――? それはおかしい。私の豊満な肉体に欲情しないなんて、男色に違いない』
「……誰のどのあたりの何が豊満だと?」
『私の熟れた肉体の、具体的には全部? 胸とかお尻とか』
「――まあ、……一度黄泉路から出直してこい」
『……』
「……」
『貴方はきっと、見る目がない。少なくとも以前一度だけ会った女神よりは私の方が胸が大きかった!』
「……あー、アレはまあ、色々な意味で特殊だし。参考にすること自体が間違ってる」
『そ、そうなのか? 実は私、色気あふれる豊満な熟女じゃない?』
「ああ」
『そ、そうだったのか!!』
『姉さん、ファイト!』
『うん、愛しの妹! 私は頑張るぞ!』
「――と、まあ愉快でも何でもない漫才はこの程度にしておくとして、だ。そろそろお前らの方の紹介をしてほしい訳だが?」
『……、失礼しました、適格者の方。紹介が遅れた、私――我らは≪リア・ファル≫。貴方方が“聖遺物”と呼ぶ、その一子だ』
「運命を告げる意思≪リア・ファル≫ね」
『――そう“聞こえた”?』
「聞こえ、……て、それはどういう意味だ?」
『あ、いえ。こっちの事。気にしないで』
「断る。気になるから話せ、リア・ファル」
『い・や! そしてこちらが私の主のクドちゃん。本名はクドウェル・チョリュミナクェルなんて言うけどクドちゃんの方が可愛いのでそう呼んで、――』
「? どうし、」
『と、思ったけど、貴方は男色だからちゃんとクドウェルと呼ぶ事。良い?』
「だから俺は男色じゃない。つか、いつまでもそのネタ引っ張ってると終いには――屠るぞ」
『……』
「……」
『私の事は可愛くリアちゃん、もしくはファルちゃんって呼んで☆』
「今更可愛い子ぶっても意味ないからな? 後、≪ユグドラシル≫と全く同じ外見でそれをされると微妙に引くわー」
『それはどういう意味ですかっ!?』
「と、喚いてるアレは放っておくとして。ちなみにお前も≪ユグドラシル≫と同じ、“捕食……いや、“吸収”か? のタイプで合ってるよな?」
『どちらがタイプかと言えば私はクドちゃんの方が好き』
「……屠るぞ」
『わっ、私は愛すべき妹のような【世界を喰らう毒】じゃないっ。【世界へまき散らす病】だからっ』
「……」
『……』
「――ん~、正直な話、俺もそれほど“聖遺物”に対しては詳しくないんだよな。つか何だ、さっき零した“聞こえた?”発言とか、その【世界を喰らう毒】とか【世界へまき散らす病】とかって……」
『――ぅ、少しだけ口が滑った』
「……ほほぅ、それはそれは……なら尚の事、色々と吐いてもらおうか。楽しそうな事をいっぱいな」
『そ、それは……』
「――さて、お前には二択が存在する。話すか、屠られるかだ」
『……』
「なに、そう緊張することでもないだろう? ちょっとばかりお兄さんに話してくれればそれで良いだけだ。な?」
『て、適格者……“資格あるモノ”への説明は制約で話せない。私たちが口に出来るのは精々でさっきの単語、私たちを指す言葉くらいだけ』
「――」
『ほ、本当。だからこれ以上は屠られても……に、――睨んじゃダメだゾ☆ えへ♪』
「――」
無言で鉄拳を喰らわせた。
『痛!?』
『イタ? ――へい、“イタ”一丁お待ち!』
「――ユグドラシル、それはただの“板”だ。お前にはまだ反省と言う名に見せかけた懲罰と言う名の一切の加減なしの仕置きが必要なようだな?」
『ぼ、暴力反対!』
『そうだ、暴力反対!』
「うるさい黙れ、ソコな二匹」
『『……』』
「よし、良い子だ。ちゃんとさっきの教育が聞いてるみたいだな。よかったよかった」
『『……』』
「それで――リア・ファル。まあ、お前が話さないんじゃなくて話せないとか言ってたヤツ、それは信じてやろう」
『本当か!』
「ああ、嘘を言ってる感じでもなかったしな。――ま、どの道、あんまり誰かれ構わず言いふらして良い様な内容でもなさそうだしな。今は止めておくとしよう」
『誰彼――?』
「そ。……と、言うか。隠れてるのは分かってるから、いい加減出てこいよ。つか、俺が捕まってるときに思いきり暴れてたしな。もう片は付いてるからさっさとこっちに来い」
『隠れ……? ぁ、そういえば、』
空色の少女――聖遺物≪リア・ファル≫が分かっていない、と言うよりも。同胞の腹の中とでも言うべきこの状況下で、彼女さえも気付かなかったその状況で、である。
「――旦那様っ!!!!」
くすんだ銀髪のメイドが突如として目の前に“出現した”。この場の誰一人としてその動きを捉えられたモノはいない。
何故か、不思議と焦っているような感じも心持感じられるが、いつもの演技だろう。(断言)
「限界ですっ、今すぐこの場からお逃げ下さ」
彼女の静かな、それでいて響き渡る声は、それ以上の圧倒的音量によって完全にかき消されていた。
「れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇむぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ――覚悟っ!!!!」
声が聞こえたのは――二人の頭上。
実に愉快極まりない、口を逆三日月の様に、光輝く黄金の左手を握りしめ振りかぶった、ドレス姿のお姫様が
「――おぉ」
『――おぉ』
“白面”の男と空色の少女、二人は同時に感嘆の言葉を吐いて。
柏手を一つ。(ぱんっ)
指を二本突き出して(つー)
人差し指と親指でわっかを作る。(まる)
そしてそれを片目へと――
『ぱん、つー、まる、みえ』
「確かに、――って、違うだろ、」
「死ぃぃぃぃぃぃぃぃいぃぃぃぃいぃい、にっ、……――晒しなさい、この助平レムッッッッ!!」
「「『――っぃ!?』」」
轟音とともに、その一撃は地面を壊してクレーターを掘り、この場所を包んでいた結界をも破壊して――それでも収まりきらず、残り全ての衝撃が“上”へと逃げた。
ドゥゥウ!!!
――と言う轟音に混ざり、突如として会場のざわめきが周囲に戻ってきた。
◇◆◇
ギリギリッ、今日と言う日に間に合って……ない、かなぁ?