とある大会での一幕-15(決勝戦・よん)
色々駄目だ……、と言うかそもそもお互いの実力差が――
「――レム!?」
「落ち着いて下さいませ、リリアン様」
完全に積みの状態――誰がどう見ても避けられない必殺の一撃に、思わずと言ったように飛び出しかけたリリアンだったが、一歩を踏み出すより先にそれを止める声があった。
「ですがっ、流石のレムでもあれは」
「慌てずとも何の心配も――むしろアレは私も感心する他ない旦那様の最もたる得意分野ですから」
「――ぇ?」
「最もその必要すらなく……ほら――ね、旦那様?」
その言葉が届いたかの様に、彼女らが眺める先――
◇◆◇
「――なんちって」
“白面”にナイフが触れた――瞬間、砕け散ったのはクドウェルが手にしたナイフの方だった。“白面”の方にはヒビ一つ入っていない。
「『――え?』」
「後――ユグド?」
『ひっ!?』
空色の少女が不可視のハンマーを振り降ろし、それを“木々が”絡め取る。
「いい加減オイタが過ぎるんじゃないか? 主様に逆らうってのがどういう意味か判ってるよなぁ――ユグドラシル?」
『私はいつでも従順な下僕で御座います、我が主!!』
『妹ッ、裏切ったな!』
『私は自分の身が何より可愛いのです、姉さん!』
『それはよく解る!』
空色の少女と緑の少女がくんずほぐれつ、絡み合い互いに応酬を繰り返す――とはいっても傍目で見てじゃれ合っているようにしかめないのだが。
具体的には頬を引っ張っては、周囲では不可視の触手と木々の枝が一瞬の間に数百の攻防を繰り返し、軽く涙目になってはお互いの胸を乳繰り合い、片や不可視のソレが空間を食い潰してもう一方では木々が周囲の存在を食い散らかす。
――壮絶な応酬だった。
それを横目で見て、“白面“の男は何の苦労もなく木の幹の中から抜け出した。
「――ぇ」
「ほら、呆けてると危ないぞ?」
「――ッッ」
手にした剣を振るい、間一髪、間際でクドウェルがそれを避ける。
「良し良し。ついでに避けないと危ないからな?」
「危な、て!」
「痛いし、何より簡単に死ぬぞ?」
「ひっ!? っっおぉ!?」
「獲物は――って、そう言えばさっき自爆してたな」
「っ、っ、っ!!」
「実はな、白面、最上級のマジックアイテムでな、そん所そこらの攻撃じゃ、それこそ“聖遺物”の一撃だろうが神の一撃だろうが、易々と傷つく代物じゃないんだよ。――あいつの最高傑作の一つ」
「! !? !!!」
「って、そんな余裕はないか。んじゃ――」
「!!!!!!」
「……もう十分楽しんだし、それに“判った”し、――決めるか」
「――」
そうしてクドウェルが息を呑んだ、その束の間。
勝負などと言うモノは実にあっさりとついていた。
“白面”の男が剣を振う。
避けられぬ速度ではない、クドウェルは当然それを避ける、十分な余裕を以て。
そして――“切り裂かれた”。
「――反し、影斬り」
「ぁ」
「って言ってもそれほど大した技術でもないんだけどなー。この程度で驚いてるようじゃ、まだまだだぞ、“聖遺物“使い。これから先、苦労するぞー」
「――」
どさ、とクドウェルが倒れ、
『クドちゃん!?』
『主の鬼畜!』
『クドちゃんの仇っ、喰らえ、この外道!!』
『便乗しますっ、姉さん!』
――グレイブ、ふふふ、お前らも俺が笑ってるうちに大人しくしとけよ?
『『ごごご、ごめんなさいぃぃぃぃ』』
互いに揃って地面に沈んで――土下座した……させられた?
◇◆◇
遅れました。……一日が過ぎてた。残念。