とある大会での一幕-13(決勝戦・に)
……あれ、不思議だな??? と。
「――はっ、いいかテメエ等。この際手加減なしだからな」
“白面”の男は言いながら、空間からソレを“抜いた”。
空間から現れる刀身、それは一見して、男が前に使っていた剣と同じ、何の変哲もないただの剣に見えた。
『『っ!?』』
警戒するようにたたらを踏んだ少女たちに、逆に踏み込んでいく。
気楽に、軽快に、そして流れるように。
「なに、そう警戒するなよ。これはキレ味がいいだけのただの剣だ――ぞっ!」
『す』
『姉さん!!』
振り下ろされた剣を、空色の少女が手を掲げて受け止めようとし――寸前で緑の少女が隣から押し倒す。
「んっ、その判断で正解だ。ユグドラシル」
空色の少女が盾として出していた不可視の何かを軽々と切り裂いて、返す刃でそのまま倒れ込んでいた二匹(?)へと振り下ろす、
『お返しです!』
「――とっ」
その寸前。
横殴りに振われた不可視のソレを当然の様に跳んで避ける。
『まだまだ!』
『加勢します、姉さんっ!』
一瞬で四方に形成された壁が、そのまま宙に跳んだままの男へと殺倒する。ご丁寧に今度は目に見えた色で、である。
更には、おまけとばかりに最後の逃げ道の真上からは同時に白木の杭が雨の如く降り注ぐ。
「ゃ、これはいくら何でも反則だろ」
ぼやきながらも倒壊してくる壁を手にした剣で斬り飛ばして冷静に脱出、しようとした男の表情がようやくここにきて焦りを見せた。
壁が斬れなかったという訳ではない。壁は易々と斬る事が出来たが――代わりに斬った傍から一瞬で再生した。
「いくらなんでもあんまりじゃね!?」
何度も斬りつけるが結果は同じ。
四方の壁は確実に男へと向けて倒壊してきているし、頭上の杭はまるで恐怖心を煽る様に、ご丁寧に“ゆっくり”と落ちてきている。
一応、試しに頭上の杭の方も斬り飛ばしてみたが結果は壁と同じだった。むしろ頭上から厄介な残骸が降り注いでくる分だけ性質が悪い。
『ふふふのふー、私の待遇を改善するなら許すよ、私の主?』
『私も五十食朝寝昼寝夜寝付きを希望する!』
『おぉ、姉さんなんて豪快なっ!』
『ふふんっ、何と言っても、姉! だからっ』
『凄い、姉さん!』
『そうともそうと――もびゅ!?』
『姉――じゃみゅ!?』
次の瞬間、漫才(?)を繰り広げていた緑&空色の少女ズが床に沈んだ。そしてそれを見下ろす、いつの間にか現れたくすんだ銀髪のメイドが一人。
「――見ていて非常に、それはもうこの上なく腹立たしいので威張る姉、褒める妹などと言う姉妹談議は余所で行って下さいませんか?」
『い、いきなり何をしにゃがぶっ!?』
『ね、姉さ――にょへっ!?』
「私、麗しき姉妹愛などクソ喰らえだと思うのです。――おっと、つい汚い言葉を吐いていしまいましたね。これは失礼致しました」
『わっ、私をぶったな!? 父さんにもぶたれた事ないのに!!』
『姉さんっ、私“父親”って知りません!』
『私も知らない!』
『ならよかったですっ』
『う、ん――』
「もう一度言わなければ解りませんかね。――ね?」
『ごめんなさい私が悪う御座いました!』
『お許しくださいまそ!』
「――他に言うべき事は御座いませんか?」
『妹が悪い!』
『姉さんが悪い!』
『『――なんだとぉ!?』』
「ええ、まさにそれこそ姉妹のあるべき姿ですね? では大変失礼いたしました。私は引き上げますので、どうか続きの方をご遠慮なく」
『『う、うんうん!』』
「では――」
と、くすんだ銀髪のメイドの姿は現れた時と同様、一瞬で掻き消えた。
残された二匹(?)の少女は互いに顔を向き合せて、
『何て理不尽なんでしょう、あの存在は』
『全くです!』
「――ゃ、聖遺物が理不尽とか、他所の事言えないだろ」
『『……え?』』
互いに声のした方へと顔を上げる少女たち。
視線の先には剣を上段に構え、振り下ろしている“白面”の男の姿。
一刀目は緑の少女。
完全に失念していたのか抵抗らしい抵抗、どころか反応すら見せずに袈裟懸けに斬って捨てた、或いは斬って捨てられた。
『いも――』
「――ふっ」
反す刃で逆袈裟に、空色の少女も一刀両断に斬って捨てる。
「……まあ、アレが理不尽の塊とか言うのは全くの同意だけどな」
肩から力を抜いて、“白面”の男は手に持った剣の切っ先をだらりと床に垂れ落とした。
勝負らしい勝負は既にその一瞬で付いていた。
袈裟懸けに両断された緑の少女は――全身にひびを入れて、然したる間もなく粉々に、木屑になって砕け散った。
一方で逆袈裟に両断された空色の少女も同様、全身粉々に――まるで宝石の欠片の様にきらきらと砕け散った。
「ま、何と言うか御愁傷さまと言うべきかどうか、勝負の最中には気を抜くなってやつだな、うん」
一人、納得したように頷いて。
「んで、お前はいつまでボケっと突っ立てるつもりなんだ、“聖遺物”使いクン? 折角の好機も不意にしちゃって、まあ――そんなに早死にしたいのか?」
「――っ!?」
殺気を向けられて、今まで呆けていたクドウェルが慌てたように、構えを取った。手に持っているのは――水晶か何か、透明な何かで出来ている小さなナイフが一本。
「お前、実はえむか」
「……」
その、一見ふざけた“ような”言葉に応えはない。
どうせふざけた言動だって、挑発まがいのこちらの隙を誘い出すための手段――などと考えて冷や汗を流していたのはクドウェル本人だが、残念、“白面”の男は普通に素で聞いただけである。他意は一切ない。
「……、ま、いいか。それよりもバカどもは一応片付いたわけだし、そろそろお前も踊りに参加しようぜ?」
「――」
無言で、クドウェルはナイフを構えて、
「――じゃ、一撃で沈まない事を祈る」
「くっ……」
互いに同時に、相手へ向かって駆けだした。
◇◆◇
デフレスパイラルー。
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→寝るのが遅くなる
→起きるのが遅くなる。
→朝に書く時間がなくなる
→最初へ戻る。
……何とか抜け出さないとなぁ。