ど-59. 釣り竿
掛かった魚は大きいぞ〜?
「お前に処罰を言い渡す」
「遂にトチ狂いましたか、旦那様。ご祝意申し上げます」
「ふっ、お前が上手に出てるのも今日までだ。今日こそは長年の雪辱を晴らしてくれるわ。くくくっ」
「と、仰られた事、今ので通算17028回目になりますね」
「……」
「私としては旦那様に雪辱をお与えになるなど、そのような方を見過ごしていた事を大変遺憾に思う次第ではございますが…それで旦那様、此度はいかような内容でございましょうか?」
「……ふっ、いいさ。今度こそは、だからな。今までの事は水に流してやろう。俺は寛大だからな」
「それはありがとうございます、旦那様。それで旦那様、一応旦那様の完全に風化した壁画よりも脆いプライドに合わせて有りもしないものを水に流して頂いた事に感謝の意を申し上げましたが、本当にどのようなご用件でございましょうか?」
「――これを見ろっ!!!」
「そ、それは…」
「そうっ。これこそお前の大好物でもあり滅多に手に入らない珍種のクゥガの実だっ!!!これが欲しければ俺の言う事を聞けっ。そして俺の苦悩を思い知れっ!!」
「お断りします」
「なっ……何故だ!?」
「そもそもといたしまして、旦那様。そのような申し出をなされずとも旦那様のお申しつけであるのならば例えどのような鬼畜無害な事であろうと旦那様の命に従いましょう」
「ぅ。……つか、事この件に関して一徹してそんな態度だから余計に言い出しにくいんじゃねえか」
「そして旦那様のご苦悩のほど、この私めも重々理解しておりますとも。何も申されずとも結構でございます、旦那様」
「そして分かっていてあれか、お前はっ!?」
「はい。…いいえ、ここは敢えて分かっているからこそ、とでも申し上げておきましょうか」
「あっ、あっ、あっ…」
「お言葉が出ないご様子。そして旦那様、大変申し上げにくい事なので率直に申し上げましょう。それはクゥガの実ではなく、非常に酷似したクェガの実です。クゥガの実は程よい甘みと蕩ける程の舌ざわりなのに対して、クゥガの実は香りは極上と大変思わせぶりながら味の方は如何ともしがたい程の苦みとえぐみがありとても食せたものではございません」
「…う、美味かったよ?」
「恐らくそれはクェガの実の毒性に中った所為でしょう。クェガの実には軽い毒性と中毒性があり、非常に厄介なものなのでございます。毒の所為で味覚に一時的な混乱が見られ、率直に申し上げれば美味しいと誤認させられた、と言うのが正しいでしょうか。それも中毒性の一種でございます、旦那様」
「嘘だぁぁぁ!!」
「いいえ、残念ながら真実でございます、旦那様。危険性は然程ではないとはいえ、直ぐに解毒班を用意しましょう。少々お待ち下さるよう」
「う、ぅ、ぅ…せっかく、せっかく苦労して手に入れたと思ったのに。む、無駄骨とは…」
「…そうでした、旦那様。それともう一つ申し上げさせていただきますと、クゥガの実は確かに私達の好物ではございますが、それ故に既に栽培法を会得し、庭の一角を用いての農作を行っておりますので、わざわざ旦那様が苦労して入手いたされずともお望みであればお分け致しますよ?」
「しかもそれがオチッ!?俺のした事結局全部無駄、つかそれ以下?それ以下なのか!?」
「む、いけませんね。既に毒が回って被害妄想の肥大化が……とも思いましたが普段の旦那様とお変わりありませんでしたか。いえ、それでも早急に解毒班を向かわせますので、お待ちください」
「行った。行ってしまった。………あ、でもこれ、何か美味しそうだよな?いや、美味しかったものな??あー、もう一つくらいは食べても…」
今日の一口メモ〜
クゥガの実…珍味だがメイドさんの好物らしい。
生息地が秘境とか魔境とかその辺なので、割と世間に知られていない食べ物である。
旦那様の今日の格言
「ヒトとは時に間違いを起こすものである」
メイドさんの今日の戯言
「流石、間違いだらけの旦那様の御言葉は重みがございますね?」