とある大会での一幕-7(二回戦)
……ようやく二回戦目。
決勝はもう少し、遠いです。
「――貴方は、中々の手だれの様ですね」
「そりゃどうも」
二回戦の相手は魔法使いである。
見た目、軽装であるとか、構えているのが杖ではなくナイフとか、明らかにサイズの大きいだぼついた服(ローブ?)を着ていて『お前、色々と(暗器などを)隠し持ってるだろ』とか――そう言った事は一切関係なく、相手は魔法使いである。
しかもまた野郎なのでテンション下がりまくりー。
「ですが――」
「御託はいいぞー。もう滅茶苦茶やる気ないから、さっさとかかってこい」
「――」
「むしろお前が『実は女の子でした☆』とか言うのならテンション上げても良いんだが」
「み、身形の割には随分と愉快な事を言う御仁の様ですね……」
「見かけで相手を判断するのは下策中の下策って言ういい見本だな」
「……そのようですね」
「つ、わけで。お兄さんが軽く揉んでやるからさっさと掛かってこいよ。それともお前の得意分野で勝負してやろうか?」
「僕の得意分野で、ですか。随分と自信があるみたいですね」
「そりゃ当然。つか、自信じゃなくて実際にそれだけの実力が備わってるから言えるわけだが?」
「……、それならば、お言葉に甘えましょう」
「そうしとけって。じゃないと勝負があっさり付き過ぎてつまらないから」
「……――僕も、それなりに腕に自信があるつもりなんですが、随分と舐められたものですね」
「舐めてるんじゃない。悲しい事に事実、それだけの実力的な開きがあるんだ」
「いいでしょう、では――」
「――しっかし、魔法勝負ってのも久しぶりだな」
「――、」
「ん? どうした?」
「何故、僕が魔法使いだと?」
「いや、それだけ精巧な魔力を練ってりゃ誰だってわかるだろ」
「――そうですか。“魔力を視る”……魔眼の持ち主、でしたか。確かに本当に、侮ってはかかれないようですね」
「ゃ、これは魔眼とかじゃなくて、ちょっぴりヒトとは違う生まれつき、ってまあその辺りはどうでもいいか」
「そしてその一見バカっぽい言動は相手を油断させるための罠、と言う訳ですね。考えていないようでその実、考えている……」
「……悪いが、言動は全部素だから。――バカっぽくて悪かったな! バカで悪かったな!!」
「分かっています。それも僕を油断させるための罠なのでしょう?」
「……、そっ、そうだともっ!!」
「――」
「……」
「何故でしょう、実は本物のバカなんじゃないかとも思えてきました」
「ふっ、そう思わせるのが俺の巧妙なところだっ」
「……、そうですね。例えバカの演技だろうが、本当のバカだろうが、貴方の実力は――先の試合で見せたあの動きは本物」
「応っ、決してずるとかはしてないぞっ」
「で、あるならば。最初から手加減は無用と言うモノです――悪いですが、初めから本気で行かせてもらいます」
「別に悪くはない。むしろそう思いきれる事を評価してやっても良い」
「それはどうも。……【あまねく星々の闇よ】」
「――へぇ、魔法言語とは恐れ入る。普通にアルカッタ辺りの宮廷魔術師になれるレベルだぞ? 使ってる奴なんてスィリィ以外じゃ久しぶりに見たな、つかそんな逸材が何でこんなところにいるのかね?」
「【彼を散らせ、包め、いと貴き深淵の抱擁と束縛を――】」
「っと、んな感心してる場合じゃないな、――と、そう簡単に詠唱出来ると思うなよっ!」
「遅いっ、――【ダーク・クラウン】!!」
「――っ、やべ」
白面の男の足元の“闇”、つまり“影”が膨張して、男を捕えようと蠢く。
咄嗟に跳んで逃げようとするも相手は自分の影――つまりは自分の体と繋がっているわけで。逃げ切れる訳もなく、男の身体はあっさりと闇に捕まった、かに見えた。
「よしっ、捕え、」
「なんちゃって♪」
「――ぇ?」
それは相手、魔法使いからして見ればありえないことだったのだろう。ただ呆然と、一瞬、闇の制御も忘れてそれを見逃した。
空中、何もないところを蹴って、男は魔法使いへと切迫していた。地面から追う闇は、一呼吸遅れて男には追いつかない。
「ほら、油断はするなよ?」
「――くっ」
対戦相手である男の一声に我に返らされて、魔法使いは咄嗟に手に持っていたナイフで男が振り下ろした剣に応戦するも、元の力が違うのかあっさりと弾き飛ばされた。
男は手を休めず、追撃。それに一拍遅れて闇が男を追いかける。
「さ、後手に回ってるとこのまま負けるぞ? どうする? どう出る? んん???」
「こ、この――舐めやがってっ!!!!」
「わははははっ、偶にはヒトを小馬鹿にするのも悪くないな、うん」
「くっ、うぅ、このっ……【燃えろ】!!」
「うぉ、――と」
二人の間で起きた小爆発に、男は追撃の手を止めて後ろへ下がり――一方で魔法使いは自分で興した爆発に巻き込まれて後ろへと吹き飛んだ。その際に魔法の効果が切れたのか、男を追っていた闇、男の影だったソレが元の影へと戻った。
「ぅ、ぎっ……」
「――……あー、」
「くっ、この、っっ」
「うん、少しだけ反省しよう。悪かったな。ちょっと調子に乗って、お前のコトをバカにしすぎた」
「何を今更っ!!」
「だから――少しだけ真面目にお相手しよう」
「っっ【楯をっ】!」
男が『真面目に相手をする』と宣言した直後、魔法使いは先程までの苛立ちも忘れて、咄嗟に自らの目の前に障壁を張っていた。それは今までの経験上からくる、反射的な行動だった。
ソレを見届けながら、ゆっくりと剣を振り上げて――この大会で初めてとも言える、“構え”を取る。
「――飛斬」
ただ、振り下ろす。
小さな言葉と共に振り下ろした剣は到底相手に届く距離ではない。
それでも。魔法使いは障壁を張っている事も忘れて咄嗟に手に持ったナイフで防ごうとして――彼の行為は正解であったとも言えるし致命的な間違いであったとも言える。
「――」
男が振り下ろした斬撃は、斬った。最初に障壁を、ついでナイフを真っ二つに。それでもいまだ衰えず、そのまま魔法使いをも真っ二つに切り捨てた――。
「――ぁ」
「ほいっ、チェックメイト」
「――、ぇ?」
胴が袈裟掛けに半分になる――魔法使いはそう幻視したのだが、実際はそうではなかった。
男が振り下ろした斬撃(?)は宙を奔り、魔法使いが張っていたはずの障壁、そしてナイフを実にあっさりと切り裂いて、その上で果たしてどのような原理か、魔法使いの服“だけ”を切り裂いていた。
そして当然の如く出来たその隙に、男は魔法使いに近づいて、手に持った剣を相手の喉元に――王手を掛けたのである、が。
「――、ん?」
「……あ」
その時になって、二人は別々の――ある意味では同じ事に、遅れて気がついた。
「勝者、アーク――!!!!」
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
勝利宣言と全く同時、甲高い悲鳴が目の前の魔法使いから上がり。
「……うん」
袈裟掛けに斬られて肩からずれ落ちそうになるローブを両手で――特に胸もとを隠して、脱兎の御勢いで魔法使いの“彼女”は顔を真っ赤にして逃げて行った。
「――まさか本当に、実は女の子でした☆……だったとは。俺の鑑定眼もまだまだってことか、はふ――」
溜息を吐く、気を抜きかけた正にその瞬間、何か強い衝撃と共に男の意識はオチた。
◇◆◇
……おばか?