とある大会での一幕-4(合間に)
予選と、本選との合間の、メイドさんとの会話です。
秘密でもなんでもない。
「ん~、ちょいと張り切り過ぎたか?」
「そうですね。幾人かの方たちが旦那様の動きに目の色を変えておられましたよ?」
「や、あの程度で眼の色変えられてもなぁ」
「そうですね? 旦那様にしては機敏な動きでは御座いましたが、逃亡にのみ手段を限った時の旦那様は只今の動きの……およそ二十割増し、と言ったところでしょうね」
「だなぁ。ま、あの程度で眼の色変えるヤツらが目当てな訳でなし。……予め目を付けといた新人君、どうなってる?」
「はい、あちらも順当に勝ち上がっておりますよ?」
「そかそか。……つか、名前なんて言うんだっけ?」
「さて? 確かクドウェル様――と言ったはずですが。旦那様、相手が殿方だからと言って名前を覚えようとなさらないのは如何なものかと」
「いや、俺は別に相手が野郎だから名前を覚えてないってわけじゃなくてだな、」
「――女性だと一度で名前を覚える癖に」
「ゃ、まあ……昔の習慣と言うかもはや刷り込まれた習慣と言うか、文句を言うなら俺じゃなくて俺をこんな性格に育てた俺の母親に言ってくれ」
「……言い様が御座いません」
「まあ、という訳だから素直に諦めろってコトだな」
「それで旦那様? クドウェル様――なのですが、何故そのように気になされているのですか? 正直なところ、私にはそこそこ有能である、程度にしか思えないのですが?」
「んー、まあ、そうだな? 純粋な戦闘能力で言えばW.R.の奴らには遠く及ばないし、戦闘センスも、まあ俺とどっこいどっこい? 潜在能力で言えば、そこそこあるっぽいけどファイとか、その辺りの化け物級に比べれば大したことないって程度だしな」
「はい。……あと、戦闘センスが旦那様と同程度と言うのは、流石に旦那様がご謙遜しすぎではないかと」
「そうか?」
「はい。旦那様のセンスはそれなりには御座いますよ?」
「それなりに、な」
「はい。逆に言えばそれなり程度しかないのですが」
「……だよなー」
「特に先の試合など、酷い限りで御座いました」
「酷い……そうか? 俺としてはまあ、良い感じの準備運動が出来たかな~って思ってたんだが」
「まず、『――残像だ』とか何を仰っておられるのですか。あれではただたんに相手に居場所を知らせているようなものではありませんか」
「いや、そこは形式美と言うか、――だからこそ恰好いいんじゃねえか!!」
「そうですね。それは否定しません。私も旦那様のお姿に見惚れてしまいましたので。もう少しで手元にあるナイフを旦那様の足首めがけて投げてしまうところでした」
「それは微妙に見惚れてるのとは違ってないかっ!?」
「いえ、決してそのような事は御座いませんとも」
「……まあ、結局は投げなかったんだし良しとしよう」
「はい。突然に前の方が立ち上がられた所為で旦那様が勝利に酔った、一番美味しい瞬間を見逃してしまいました。残念でなりません」
「おぉい!? つか、その突然立ち上がった奴に感謝だな!」
「ちなみにお忍びでやって来られているラントリッタの姫君様でした」
「って、何でこんなところに来てるの!?」
「さて? 嗅覚ではないですか?」
「嗅覚って……何に対する嗅覚だよ、おい」
「女性の執念は中々侮れないところが御座います。――旦那様も、気をつけて下さいね♪」
「――俺は断じて! ワザと覗いたんじゃない!!」
「はい、存じておりますとも。それにワザとでしたら、私が兵士に引き渡し――は、生ぬるいので私自らが少々教育的指導の名を借りたイジメを行っているところです」
「……、……よし、キカナカッタコトニシヨウ」
「左様でございますか」
「それでさ、俺が……えと、何て名前だっけ、あの新人君」
「クドウェル様に御座いますか?」
「そう、そのクド――と、俺が当るにはあと何回くらい闘わなきゃ駄目なんだ?」
「四回程ですね。クドウェル様、もしくは旦那様が敗北されなければ、決勝でちょうど当たる事になります」
「……クジ運ねえなぁ」
「いつもの事では御座いませんか」
「まあ、その通りではあるんだが、それを認めてしまうとなんだか無性に虚しくなるから認めてやらない」
「左様でございますか。……しかし旦那様、先程は聞き逃してしまいましたが、なぜそこまでクドウェル様にご執心されておられるのですか?」
「ああ、それは、」
「――まさかっ」
「? なんだ、何か分かったのか?」
「ま、まさか……クドウェル様は、実は女性であると言う、」
「いや、男だろ。つかお前なら服の上から程度でも判別付くだろうが」
「はい。間違いなく、クドウェル様は殿方でした――で、ではまさかっ!?」
「予め言っておくと、男色とかそっちはないからな?」
「左様でございましたか。ならば一安心ですね」
「ああ、そりゃよかったな。……俺としてはそんな発想が出てくるお前の頭の方が安心できないんだけどなっ」
「何か仰られましたか、旦那様?」
「態々聞こえてるのに聞き返してくる奴に言う事は何もない」
「なんともつれないお言葉をいただきました」
「そうか、そりゃよかったな」
「いえ。……では旦那様、何故それほどまでにクドウェル様を気にかけておられるので?」
「ああ、あいつね。――アレ、多分英雄になれる器だから」
「……英雄、ですか?」
「そ。なんつーか、俺が以前作った聖剣……覚えてるか?」
「キックス様に差し上げた、確か今はアルカッタの至宝になっているアレですか?」
「ああ、アレ。別に聖剣とかのつもりで作った訳も……というか、あれってなんだか聖遺物≪ユグドラシル≫の欠片みたいだし」
「それで、その聖剣がどうかしたのですか?」
「いや、まあ何か色々あってアレ、自分の意志持ってるだろ?」
「はい。お陰でリリアン様とは犬猿の仲らしいですが」
「あいつ、基本的に王家の、女が嫌いだからなー。男だと馬鹿甘やかす癖に。だからあそこの国の王族って女性本位なんだよ、気付けっつーの、あのバカ」
「“親”に似た性格なのは本当に困ったものであると私も思います」
「だよなー、てか“親”って?」
「当然、旦那様以外に居られますか?」
「……ユグドラシルとか」
「あれはどちらかと言えば本人、――主流です」
「ですよねー」
「ですが旦那様? その呪いの聖剣と、」
「呪いのとか言うな」
「……では、少しばかり困った聖剣と、クドウェル様の話はどのような関係があるのですか?」
「いや、あの新人君、聖剣に好かれそうな感じだったな、と」
「……」
「……」
「……まさかとは思いますが、旦那様?」
「ウン、取り敢えず戦ってみて根性が気に入ったら、アルカッタの宝物庫辺りに放り込んでみようと思う」
「それは……面白そうですね」
「だろ。それに――あいつ、まだ隠してる事がありそうだしな。訳あり、ってやつだ」
「そうなのですか?」
「一目見りゃわかる」
「私には分かりませんが……と言いますか、時折旦那様以外が全て有象無象に見える事が御座います」
「ゃ、それは言い過ぎだから」
「一応、分かってはいるのです」
「……」
「……」
「……え? 今の、冗談とかじゃなくて?」
「冗談? 何の事ですか?」
「いや、時々俺以外が有象無象に見えるとかなんとかって、」
「本当の事ですが?」
「……お前」
「はい、何で御座いましょうか、旦那様」
「ちょっと、教育的指導が足りてないみたいだから、後で教育的指導な、お前」
「……はい、旦那様」
「よし。……と、そろそろ本選が始まるかな?」
「はい。……――ああ、どうやらそのようですね。旦那様の出番は――確か一回戦からですので、もう直ぐですね」
「だな。と、いうわけでちょっくら行ってくる」
「はい旦那様、――ご健勝を」
「当然!」
◇◆◇
……今回の生贄、新登場のクドウェルくん?