とある大会での一幕-2
誰だこいつは……って感じに何故か真面目っぽい感じのレム君。
「はぁはぁはぁはぁはぁ……」
「何をそんなに興奮なさっているのですか、旦那様?」
「疲れて息切らしてんだよ!? 分かれ!!」
「はい、承知しております」
「……だ、ダメだ。まともに構うと疲れるだけだ」
「しかし旦那様、大会が始まる前からその様に疲労困憊とは、随分と余裕なのですね?」
「全然、余裕じゃない、……から」
「しかし旦那様?」
「な、なんだよ……?」
「――周りは雑魚ばかりか、などと随分な事を仰られますね?」
「ちょ、おま――」
場所は――強面のおにーさん達がむさくるしくひしめき合う部屋の中。
明らかに浮いている――いい意味で言えば注目の的、悪い意味で言えば空気読め的な二人だった。
一方は部屋でひしめき合っている男たちと比べて明らかに細身の、しかも防具一つつけていない――よりにもよって白面で顔を隠している男。武骨な、それこそ鋼から作っただけの剣を調子を確かめるようにして握りしめていた。
それだけでも目を引く要素は満載なのだが、それ以上に注目を集めていたのはその男の隣に佇んでいた一人の女――メイド服を着たくすんだ銀髪の、そこれこそ絶世の美女である。男ばかりのむさくるしい空間で、むしろ人目を引かない方がおかしかった。
だからそんなちぐはぐな二人に周りが注目しないはずもなく――だが二人は向けられる奇異と情欲、嫉妬入り混じった視線を完全に黙殺していた。……少なくともメイド服の彼女がつい先ほど爆弾発言を落とす直前までは。
「……な、なあ?」
「はい、如何なさいましたか、旦那様?」
「何か周りの視線が痛いんですが? うん、非常に痛いんだが?」
「旦那様の自意識過剰では御座いませんか?」
「そんな事はない。つか、――雑魚とかって本当の事を言ったらそりゃ皆さん怒るだろ」
『――』
朗らかに、淀みなく放たれた男の一言に喧騒が一瞬、止んだ。
「……旦那様がそのように目に見えて安っぽい挑発をされるなど、本当に今は真面目もーどなのですね」
「挑発? 何の事だ。俺は本当の事を言ってるだけだぞ?」
「……もしや顔が見えないので強気になっているだけでしょうか?」
「そんな事はない」
「だとよろしいのですが。そうですね、では試しに仮面でも外してみましょうか、旦那様」
「やめっ、止せお前!!」
「よいではないか、よいではないかー」
「いや、だから本気で止めような、お前!? こんなところで白面外したらとんでもない事になるからっ!」
「旦那様が其処まで拒絶なされるのでしたら致し方ありません……が、宜しいのですか?」
「はぁ、ったく……て、何がいいのかって?」
「いえ、旦那様。そのような事を仰られては皆様方、旦那様の仮面を外す気満々の様ですよ?」
「そんな事って――あ」
「どのような凄い事になるのか、楽しみですね?」
「……、ま、外されなきゃいいだけだし、気にする必要もないか」
「はい、旦那様」
「……さて、と」
「旦那様、先程から剣を握りしめておりますが、調子の方は如何ですか?」
「ああ、悪くはないな。この剣も……適当に選んだにしては手に馴染む」
「またまた、適当などと。その剣は、旦那様の愛剣程ではありませんが毎夜練習代わりに振るわれておいででは御座いませんか。手に馴染んで当然なのでは?」
「……ばれてたか」
「はい。それに旦那様が剣の鍛錬をなされるお姿を拝見させて頂くのは私の一日の行動でも最上位に値する重要な日課ですので、ばれるばれないの話では御座いません」
「まあ見られて困るようなものでもないけどよ、……基本的にただ剣を振ってるだけだぞ? 見てて面白いか?」
「はい。比較的真面目な旦那様は程々によくお見かけいたしますが本当に真剣な表情の旦那様を見かける機会など、あの時を置いて早々御座いませんので。眺めているだけで十二分に、満たされております」
「そうか? というよりもそんな真剣ってほどでもないつもりなんだけどな」
「そうですね。旦那様がそう仰られるのでしたら、その様にしておきましょう」
「ああ、そうしてくれ」
「はい」
「――お? そろそろ出番かな?」
「はい、そのようで。先に行われていた予選の方も恙無く終了した模様で御座いますね。結果は――まあ順当と言ったところでしょうか。大凡私と旦那様が想像した通りかと」
「そうかそうかっ。でもやっぱり、偶にでも武道大会に出てみるモノだよなー。時々面白い拾いモノが見つかる」
「私としては、旦那様に楽しんで頂けているのでしたら、それで宜しいかと」
「ああ、楽しいし、久しぶりの公な晴れ舞台だ。少しだけ張り切って行こうと思う」
「それは大変良いことかと。……それでは旦那様? 私は観客席の方で朗報をお待ちしております」
「任せておけっ!」
「はい。それでは――」
「……さて、と」
メイド服の女が優雅な一礼をして、部屋から去っていく。そしてその姿が見えなくなった瞬間、隠そうともせずに部屋中から殺気が男へと殺到した。
これから行われるのは武道大会の予選――各ブロックごとに分かれたバトルロイヤル、十数人の中から残り二人になるまで戦い続ける、勝ち抜き戦である。
男はまず間違いなく、開始の合図直後に集中攻撃を受けるだろう程の殺気を一身に浴びて。
それでも何ら臆すことなく――愉快そうに唇を釣り上げ、笑った。
「さあ、それじゃあ軽くウォーミングアップと行こうか」
◇◆◇
……やれやれ、です。