ど-510. 籠の中のヒト達2
リョーンさんは基本、愉快な反応を返します?
「――さて、裁判を始めようと思います」
「……えっと、何で裁判? それとどうして私はこんな石畳に座らされているのでしょう、アルーシア?」
「判決、有罪」
「いきなり!? というよりも状況の説明を求めます!」
「ここ最近、リョーンさんの悪戯が目に見えて酷いのでそろそろ酷い目にあってもらおうと思います」
「心当たりはいっぱいありますけど、問答無用でそれはいくらアルーシアでも酷いと思います!」
「うん、だから“酷い目”ね?」
「あ、成程」
「そう言う事だから、」
「ふ、ふふんっ、でも無駄ですよ? 私だって伊達で偉い訳じゃないんです! アルーシアが考えうるレベルの、ちょっとやそっとの事じゃ動じたりなんてしません!!」
「一日くすぐりの刑」
「――ごめんなさい私が悪かったです反省してます!」
「……本当に?」
「本当だからくすぐるのだけは止めて!? 私、擽られるのだけは弱いんです!!」
「……んと、どのくらい?」
「一度女神様にお仕置きに百年くらい擽られ続けて以来、ちょっとでも指がそれらしい動きをした時点でアウトです! 冗談じゃなく笑い死にます!」
「それは、……何と言うか御愁傷さま?」
「……あれは今思い出すだけでも酷いトラウマです」
「うん、そりゃ百年擽られ続けたら……というよりもリョーンさん? どうしてそんな事になったの? お仕置きって言ってたけど」
「いえ、世を忍んだ仮の姿で女神様の素晴らしさを地上の方々に広めてきただけだったんですが、」
「ですが?」
「ちょっとだけ、興にのっちゃいまして、その……女神様の“愛らしさ”を広めていたらですね?」
「愛らしさ……て、どんな?」
「いえ、私としては普通のことしか広めてな方つもりだったんですけど、何が癇に障られたのか……今思い出してもあの時の女神様は少しだけ理不尽だった気がしますっ。ちっちゃくてかわいらしいとか、胸がささやかでつつましいとか、その程度のことしか言ってなかったはずなのに」
「……」
「それと他には――、あら、アルーシア、どうかしましたか?」
「うん、まあ、リョーンさんの自業自得だと思うよ?」
「アルーシアまで!? どうしてですかっ、私は女神様の素晴らしさをですねっ、」
「ん~、そうだね。例えばリョーンさんの事を頭のネジが緩くて微笑ましいとか、必要以上の栄養を吸い込んでしまったその胸がまぶしいとか、そう言う事を言われたらどう思う?」
「――酷い侮辱です!」
「だね。つまりそう言う事だよ」
「?」
「……本当に分かってない?」
「いえ、アルーシアの言わんとする事は分かりますが、それとこれとは話が別でしょう?」
「全然別じゃないと思うよ?」
「そんな事はありません」
「……どうしてそう思うのかな?」
「私がしたのは女神様を純粋に褒め称えただけですが、今アルーシアが言ったのは私に対する明らかな侮辱です!」
「そうかな? 私は“一応”褒めたつもりだけど?」
「何処がですか!?」
「……うん、そうだね。それで、多分女神様も今のリョーンさんと似たような気持だったともうよ?」
「――」
「……」
「――そそ、そんなバカな!?」
「……はぁぁ」
「それじゃあ、それじゃあ私は女神様に対してあんなに酷いことやこんなに酷い侮蔑を――あれやこれやと!? ……何と言って女神様にお詫びすればよいのか」
「うん、分かってくれたなら嬉しいよ」
「……ああ、女神様、女神様。これはもう、死んで詫びるしかありません――」
「――って、リョーンさん何しようとしてるの!?」
「ですから死んで女神様に詫びを、」
「いや、無理だからね? 今の私たち、生きてる様な死んでるような微妙な立場だから、死ぬのとかきっと無理だからね? そもそもこの世界って、単純に私たちのイメージで出来てるだけだからっ」
「……そう言えばそうでしたね」
「うん。私は首つり死体が目の前にぶら下がって、それが普通に話をしている情景なんて、絶対いやだからね?」
「……――それだと本当にゾンビじゃないですか、私!?」
「そうだね?」
「そ、それは確かに私もお断りしたいところです。ですがそうなるとどうやって女神様に詫びればよいのか、」
「それは大丈夫じゃないかな?」
「……本当に?」
「うん。だからこその“お仕置き”だったんだと思うし」
「……そうだと、良いのですが」
「うん、きっとそうだから、大丈夫だよ。――それはそうとリョーンさん?」
「はい?」
「裁判の話、終わったわけじゃないからね? 最近のリョーンさんはやっぱりちょっとレムをからかい過ぎだと思うの」
「いえ、あれはですね。日頃の恨みを返すいい機会だとか、へへんっ♪これでわたしに手出しできないでしょうっ! とか、そう言う事を考えてるとつい止まらなくなってしまってですね?」
「リョーンさんが楽しんでるのは分かるけど。このままじゃ“アルーシア”への評価が大変な事になっちゃうし、それに………………リョーンさんばっかりレムに逢ってて、ずるい」
「? それならアルーシアだって、」
「私は――私は無理、ダメ。……歯止めが効かなくなっちゃいそうで怖いから」
「――」
「だから、」
「――アルーシア」
「……リョーンさん?」
「アルーシアなら大丈夫ですよ。きっとそんな、アルーシアが考えているような事にはなりません」
「でも……」
「大丈夫、ですよ。だからアルーシアはただ自分に素直になればいいんです」
「自分に、素直に……」
「はい、ですから――」
「じゃあ、やっぱりリョーンさんが羨ましいから、取り敢えず一日中くすぐりの刑にする」
「藪から蛇が出ました!? いえ、アルーシア? 私が言っているのはそう言う事ではなくてですね、」
「やっぱり、うん。ここ最近リョーンさんばっかりずるいと思う」
「いや、あの、ですね、アルーシア、少し落ち着い――って、いつの間にか私、磔にされてます!?」
「イメージ一つで思いのままの世界だからね、ここって」
「くっ、こうなったら私も徹底抗戦を――」
「――えい♪」
「ひゃんっ!?」
「……あ、りょーんさんて本当に敏感なんだね。軽くつついただけなのに」
「あ、アルーシ、きゅふんっ!?」
「……何か、声が色っぽいね、リョーンさん」
「そ、そんにゃぁん!? あ、アル、ぁ――」
「……リョーンさんのその反応、何だか色んな意味でくせになりそうだよ、私」
「ゃんっ、きゃ、にゅ、ひんぅ!?」
「ア、アル、お願いだからもう止め、」
「――」
「やぁぁぁぁぁぁんっっっ、もう許してぇぇぇぇ――」
「…………………………ヤダ」
-とある二人の会話-
「――ねえ、キミ?」
「何かな、宿主」
「宿“主”? 僕のコトはエサ程度にしか思ってないくせに、よくもまあぬけぬけと……」
「一応、表面上だけでも敬意は表そうと思っているのでね。それで宿主が気を悪くしようが知ったことではない」
「ああ、そうかい」
「それはそうと宿主、俺に何の用があって話しかけた?」
「――お前、僕の体を使って何を企んでるんだ?」
「企むとは人聞きの悪い。俺は純粋に好奇心を満たすために実験をしようとしている、その準備をしているだけだ。それに俺たちの利害はさほどずれていないのではないか?」
「それは認める――が、自分の身体を好き勝手に使われて不愉快じゃないかとか、そう言うのとはまた話が別だ」
「……そうか。ではやはり、一番手っ取り早い方法で示した方がいいか」
「――手っ取り早い?」
「ああ、俺としてはこんな悪手を使いたくはないのだが、仕方ない」
「なにが、」
「納得できぬ、というのであれば力尽くでも納得してもらうしかないな」
「――何をっ!?」
「《服従》」
……平和だニャー
何処かの誰か(?)の会話?
重要な事なので繰り返しますが、平和だにゃ~