ど-509. ――反省ッ!
……まったり
「……ふっ、俺もまだまだ駄目だったってコトだな」
「そうですね。しかし何の事ですか?」
「いや、分かってない事なのに何でもかんでも頷くなよ」
「何でも、という訳では御座いません。私とてしかと選好みはしておりますとも」
「選好みて?」
「旦那様の否定的な事のみ無条件で頷く事にしております。逆に肯定的な事に関しては一度は否定しておくべきでは? と考えております」
「しなくていい」
「左様でございますか。それでは今後も旦那様のご期待に添えるよう、尽力を尽くさせていただきます」
「それもしなくていいから!」
「左様でございますか。それはそうと旦那様、またどのような事に対して、『ああ、俺は本当にお前がいないとだめだな』などと嬉し恥ずかしな事を仰られたのですか?」
「勝手にヒトの言葉を捏造するな。お前がいないと~とかは言ってない」
「そうでしたか? まあ些細なことですのでお気になさらぬようお願い致します」
「……む。確かに、それもそうだな」
「おや? 旦那様がそのように素直に頷かれるなど珍しい。……何か落ち込まれるようなことでもあったのですか?」
「いや。……最近、ちょっとだけアルに構いすぎたかなって思ってな。少しだけ反省してたところだ」
「ちょっと、そして少しだけ、ですか?」
「ああ、そうだけど?」
「……まあ、所詮旦那様ですしね」
「どういう意味だ、それは」
「言葉の通りの意味に御座います。しかし旦那様? 反省したと仰いましが、それでは今後如何なさるおつもりなのですか?」
「ん? どうするって?」
「アルーシア様にかまい過ぎたと反省されておられたのでしょう?」
「ああ、そうだぞ」
「では今後、その反省をもとにどのように行動なさるおつもりなのですか、とお尋ねしたのですが。やはり旦那様にはこの程度の事も理解できませんでしたでしょうか?」
「あ、そう言うことか」
「はい」
「ってか、いや。特に何もしないけど?」
「……反省、なさったのですよね?」
「ああ、したぞ」
「……それだけですか?」
「え、それ以外に何かあるのか?」
「反省されたと言う事で、今後はアルーシア様に構う時間を私に割り振って下さるなどというような事をお考えにはならないので?」
「ないな」
「……即答ですね」
「まあ、アルに嫌われる前に“ちょっと構いすぎたかな?”なんて思えたのは僥倖だった。だから今後は極力、アルに邪険にされない範囲で構う事にした。――あと例えアルに構わなくなったからってその時間をお前に割り振るとかは無いから」
「……旦那様、しかしそれでは反省された意味が皆無であると苦言させていただきます」
「そんな事はない。反省と言うのはする事としたと言う事実に意味があるのであって、それを今後に生かすことに意味があるんじゃないんだ!」
「いえ、今後に生かせなければ反省の意味はないかと」
「そんな事はないさっ! 反省した事実に意味はあるがそれを今後に生かせる奴なんざ更々いねぇ!」
「……それを言ってしまえばお終いですね。ですが旦那様はその“更々いない”御方であると私は認めておりますが?」
「ふっ、褒めたって何も出ないからなっ」
「いえ、私は思った事を申し上げたまでで御座います」
「……いやいや」
「ただ、旦那様に関しては生かすべき方向が致命的に間違っておりますが。むしろ反省しない方が旦那様の為であると笑言致します」
「や、それはどういう意味だ!?」
「……旦那様、何故反省されてしまわれたのですか」
「何だよっ、それじゃあまるで俺が反省しなかった方がよかったみたいな言い方じゃないかっ」
「そうでしょう? 私としては未だ無心にアルーシア様へ必要以上に接しておられた方が宜しかったであろうと、考えておりますが?」
「いや、そんな事はないぞ。だって、構い過ぎて嫌われたらどうしようもないじゃないか」
「――、そうですね。ここは見解の違い、という事で捨て置きましょう。私としても強く旦那様に進言するようなことでは御座いませんし」
「と、言う訳で俺はアルと遊んでくる事にするっ」
「ぁ、旦那さ」
「じゃあなっ!」
「……、……反省するだけマイナスであるとは申し上げましたが、果たしてあれで反省をした意味があったのかどうか。……まあ反省するにせよ、しないにしても、旦那様がどう動かれるのか、差はないように思いますが」
-とある二人の会話-
「――」
「――」
「――」
「――」
「――何か言ったらどうですか、姉様?」
「――貴様こそ何か言え、愚妹」
「死んでください」
「――ふぅ、貴様に何か期待した私がバカだった」
「や~い、ばーか、ばーか」
「……」
「ばー、っ!?」
「やはり、――一度死んでおくか、愚妹」
「いきなり奇襲とはやはり姉様、卑怯極まりないですね。まあ所詮は姉様。底が知れていますが。――というよりいきなり何するんですか、危ないじゃないですかっ!」
「ちっ、しぶとい。殺ったと思ったのに。腐っても愚妹と言う訳か。この愚妹っ」
「――大人しくはしなくて結構です、姉様。ですが死んでもらいます」
「その口を聞くのもこれで聞き納めか。そう思うと名残惜しくも――全くないな」
「ええ、全くです」
「それじゃあ、」
「はい、姉様」
「「死ね」」
平和ですよー。
剣呑とした雰囲気とかないですよー。