ど-502.想い込めた文のねつ造方法
色々あります。……色々とあるんです。
「レッスンつーだ、アル」
「……つ?」
「そう。今度は文字の練習をしてみようか」
「???」
「具体的にはここに例を用意してきたから。これを模写してみよう」
「……もしゃ」
「ああ、つまりは書き写すってコトだな。意味は分かるよな?」
「……(こくん)」
「それじゃ、早速書き写してみようか」
「……」
「先ずは――『拝啓、愛しのレム様へ』」
「……」
「良し良し、最初にしては上手いぞ、アルー」
「……うまい?」
「ああ。その調子でどんどん書いて言ってみようか。『貴方の事を想うと毎夜、眠る事も叶いません』」
「……」
「よしよ――」
「――何が宜しいのでしょうか、旦那様?」
「何でもないだからお前は全然全く少しも気にするなっ!!」
「……そちらに隠したモノは何でしょうか?」
「な、なんだろうなー?」
「……また何か、アルーシア様に余計な事を御教えになっておられたのですか?」
「ソンナコトハナイヨー」
「左様でございますか。……――アルーシア様? 少々旦那様が隠し持っているモノをこちらに渡して頂けませんか?」
「――って、アル!?」
「はい、ありがとうございます、アルーシア様。偉いので頭を撫でて差し上げましょう」
「ちょ、ちょっと待て!? 頼むからちょっと待ってくれ!!」
「旦那様、何をその様に慌てておいでで? それほどまでにこちらのモノが、…………」
「――さて、そう言えば急ぎで片づけないといけない仕事が残ってたっけなぁ」
「……旦那様」
「あー忙しい忙しい」
「――旦那様、少々お待ちを」
「……聞こえない聞こえない」
「旦那様、こちらは一体何なのでしょうか?」
「……」
「またこのような仕方のない事をされて――無駄だと言う事が理解できないのですか?」
「ぅぐっ……」
「そんなに恋文が欲しいのでしたら、仰って下されば私が思いの丈を書き落としますのに」
「それは要らない」
「何故でしょう?」
「十歩ほど譲って、本当に文字だけならまあいいだろう。でもお前の事だから余計な仕掛けとか色々と……それはもう本当に色々と満載する気満々だろ?」
「文字だけでは少々物足りませんので」
「十分すぎるけどなっ! つか、そもそも恋文ってのは文字だけの代物だ。読んでると精神コントロールされてたり幻覚が見えてきたり知らない異空間に立たされてたりする代物じゃ、決してない」
「昔の事です」
「だよなっ、今挙げたのって昔お前が実際にした事だよなっ!」
「はい。私も恋文など……今思うと随分と拙く、回りくどい事をしたモノです」
「いや、全然拙くないし、アレはあれで洗礼されまくってたけどなっ、ついでに言えば精神汚染を含んだ手紙は全然回りくどい手段じゃないからな。むしろ超直接的な強硬手段だからな?」
「そう言えばまだ一通も旦那様から返信を頂いておりませんでしたね」
「てか、最後まで読む前に燃やしてた」
「酷いっ」
「酷いのはどっちだと俺は言いたい」
「――さあ、アルーシア様、旦那様はこのように、ヒトの思いの丈が籠った品でさえ燃やしてしまうなどと言う軽々しい暴挙に出てしまうようなお方なのですよ。どうか心に留め置いて下さいますよう」
「って、テメェの方こそアルに何吹きこんでやがるんだよっ!?」
「事実を伝えております」
「事実違うっ、お前の言うのはある意味では事実かもしれないけど、全部が全部本当の事を言ってるわけじゃ全然ないからっ!」
「相手を騙す時は、本当の事のみを伝えるのが一番効果的です」
「騙す言ったっ!? ほらアル、こいつお前のこと騙す気満々だぞっ、こいつはそう言う奴なんだっ、だから気をつけ――ぶへ!?」
「……ふぅ、危ない危ない。もう少しでアルーシア様に旦那様の陰険な戯言を伝えられてしまうところでした。まあ所詮は旦那様の戯言では御座いますが万が一という事も御座いますし……――さあ、アルーシア様はこちらに。本日も私と勉学にいそしむと致しましょう?」
「……(こくん)」
みねるば!