ど-499. 非物質なんです
あといっぽ。
「……ん?」
「――おはようございます、旦那様」
「あ、ああ。お早う」
「何か良い夢でも見ておられたのですか?」
「あ? なんでだ?」
「大変良いお顔をして寝ておられました」
「良い顔?」
「はい。見ているこちらもつい微笑んでしまうような、その様な寝顔でした」
「ん~、そうか?」
「はい。それで何か良い夢でも見ておられたのか思ったのですが?」
「ん……ああ、かもな」
「それは宜しゅうございました」
「……」
「……」
「で、何か用か?」
「いいえ。旦那様のご尊顔を拝見させて頂いていただけで御座います。見惚れていたと言いなおしても良いですが、含む他意は御座いません」
「あ、そう」
「はい」
「……」
「……」
「で?」
「で、とは?」
「いや、他に何か用事は――」
「一切御座いません。本日は暇の時間を作りましたので、旦那様を御拝見させて頂くこと以外の予定は入れておりません」
「あ、そうなの?」
「はい」
「と、言うか俺を眺める事以外の時間て、お前も大概暇人だよな」
「暇ではありません。態々旦那様分の補充を行うためにこうして暇を作ったまでの事です」
「……ゃ、旦那様分ってなに?」
「旦那様から滲み出る有害物質の様なものでしょうか」
「そんなモノは出てません!」
「まあフェロモンの様なものです。私がメロメロです」
「……あんまり意味ないなぁ」
「私がめろめろです」
「――意味ねぇ」
「私が――」
「つか、そういうの関係ないだろ、お前」
「まあ旦那様がフェロモンを発していようと有害物質を発していようと不運体質を撒き散らしていようと私が旦那様に傾倒しきっているのは事実であり明らかなのですが」
「だろ? ――てか不幸体質なんて撒き散らしてません」
「ふふ、そうですね?」
「……いや、お前本気でそう思ってないだろ?」
「そんな事は御座いません。その様な戯言を仰られる旦那様を微笑ましく眺める事は御座いますが、それ以外は何も」
「それで十分だと思うんだが?」
「……それもそうですね」
「ああ。……と、言うか本気で今日一日ずっと俺に付きまとう気か?」
「不快と仰られるのでしたら――」
「そう言う訳じゃ、ないけど……」
「気配を消してお供しておりますが?」
「って、付きまとうのをやめるとかじゃないのかよ」
「それでは旦那様分の補給が敵いません」
「だから、その旦那様分っつーのは何なんだと、」
「旦那様からわき上がるエネルギー非物質で御座いますが」
「そんなモノは湧き上がってません!」
「非物質ですので旦那様には見る事は敵いません」
「……いや、ホントはそんなモノないんだろ?」
「いいえ? 嘘だと思うのでしたら他の方にお聞きすればよいのではありませんか?」
「……ほぅ、そこまで言うか」
「はい。皆様方、旦那様からにじみ出ていると答えると思いますよ?」
「いや、そんな事は……」
「御座います」
「……」
「……」
「……え? お前が其処まで言い切るって事はもしかしてマジで?」
「はい」
「何その驚愕事実!? ……嘘です、とかそう言うオチだよな?」
「いえ?」
「……」
「……」
「……え?」
「本当ですよ? 目には見えませんが」
「いや! それホントはないんだろ!?」
「いえ。非物質ですので目に見えは致しませんが、実在はしておりますよ?」
「いや、それはないのと同じだと思うよ!?」
「御座います。……まあ、旦那様に信じていただかなくとも私と言わず、他の方々も別に問題はないので良いのですが」
「……何かお前にそこまではっきりと言われると本当にそんなモノがある気がしてくるから怖い」
「いえ、ですから本当に実在しております」
「……まあ、もう深い事考えるのはよそう」
「そうですね。旦那様の頭程度ですと余り深く考えられるのはおやめになった方が賢明と思います」
「だよな、うん」
「と、言う訳ですので旦那様。――本日は宜しくお願い致します」
「まあ、……な。いつも通り宜しくってとこだ」
「はい、旦那様」
本当に実在してますよ???
よよ???