ど-497. ご主人様は見た!
……目撃
「ふん♪ ふん♪ ふふんっ♪ ふん、ふふ~んっ♪♪」
「……、ぉ、恐ろしいモノを見てしまった!」
「――恐ろしいモノとは一体どのようなものでしょうか、旦那様?」
「いや、あそこでいつも無表情なヤツが気に恐ろしげにっ、ぅお!?」
「? 如何なさったのですか、旦那様」
「いっ、いつの間に……!?」
「いつの間に、と問われればつい先ほどに、とお答え致しますが。その様に驚いて如何なされたのですか? ふふっ、まるで疾しい事があるように見受けられますが――?」
「そんな事はない。――と、言うか目の前にいるならちょうどいい。さっきのは何だ」
「先程の、と申されますと?」
「いや、俺の目の先で楽しそ~うに鼻歌歌ってたやつ。アレは何だと聞きたい」
「機嫌が良かったのであると推測いたします」
「機嫌も何もお前の……いや、そうか。機嫌が良かったのか」
「はい」
「でも仮に機嫌が良かったとして、そんな機嫌が良くなるような出来事ってあったか?」
「あったから機嫌が良かったのではありませんか? ――そう、例えば旦那様への飛び切りの悪戯が成功……している最中であるとか、」
「――何をした!? お前、俺に何してるのっ!?」
「いえ、あくまで例えですから」
「その落ち着いた態度が余計に不安を煽るんですけどっ!!」
「はい、煽っております」
「性質悪っ」
「まあ旦那様の不安は煽れるだけ煽っておきますが、先程のはあくまで仮にと言う話ですからそこまでお気になさらずとも宜しいのではと進言させて頂きます」
「――む? お前が態々そんな事を言うって事は、悪戯の最中とかそういう話じゃない……のか?」
「旦那様、他者の善意を信じられなくなればヒトはお終いです。そして旦那様はあらゆる意味で既に終わっちゃってます」
「……まあ、確かにヒトの善意を信じられなくなるってのは、と言うか最後の言葉は要らん」
「はい、存じております」
「なら率直に聞くけど、」
「黙秘致します」
「……む、お前が黙秘なんて珍しいな」
「一言言わせていただけるのでしたら、決して旦那様に不都合のある事ではない、と言う事です」
「俺に不都合がない、と言われても……正直お前の日頃の行いの所為で信用できません」
「それは何とも寂しい事で御座いますね」
「仕方ない。日頃の行いが悪いお前が悪い」
「全ては旦那様を想えばこそだというのですが……なんとも気持ちを伝える事の難しさと歯がゆさが御座います」
「いやね? ある意味で俺を想っての事だってのは俺だって理解してますよ? まあ一応は理解しちゃってるよ? でもさ、モノには限度と言うかお前は俺の事をどんな目で見てるんだって時々本気で疑う事があるんだよ」
「全幅の信頼と絶対の親愛を置いています」
「……、それは疑ってない」
「今の必要以上の間の真意が気になります」
「俺の中で色々と葛藤があったんだ。気にするな」
「旦那様がそう仰られるのでしたら、気にしない事にします」
「ああ、そうしてくれ。そしてとにかく、お前の言うことなす事は真面目な時以外全く以て信用できん」
「私は常に真面目です」
「訂正、“俺が”心底真面目な時以外、信用しない」
「それは的を得ている答えかと」
「そう言う訳でお前の事はある意味信用しないって事を信用しているわけだが」
「はい、旦那様のその信用に全身全霊を以て答えるのが私の致すところと存じております」
「――で、そろそろ結論を聞きたいところだが、本当にさっき機嫌が良かった理由を話す気はないと? そして別に俺にとって都合の悪いことではないと?」
「はい、旦那様。旦那様にお伝えするような理由では御座いませんし、誓って、決して旦那様に何かしらの不利益な意思損害被害――この場合は肉体精神的疲労、或いは消耗と言い換えてもよいです。それはありません」
「……」
「……」
「よし、分かった。お前がそう断言するってんなら信じよう」
「はい」
「取り敢えず、……ああいうのは観てて身体に悪いから、せめて事前に一言言ってくれると助かる」
「それは何とも失礼極まりない申し付けで御座いますね、旦那様。いえ、断固としてお断り致します」
「……そうか」
「何もそこまで絶望的な表情を浮かべられずとも宜しいではありませんか」
「俺にとってはそこまで絶望的な事なんだと分かれ」
「ですが譲歩は致しません」
「……ちっ」
「それでは旦那様、私も溜まりに溜まった雑務から逃避なさっておられる最中の旦那様ほど暇を持て余してはおりませんので、コレで失礼させていただきます。旦那様へ押しつけるどうでもいい雑務の選定も行わねばなりませんので」
「――それはもういい加減飽きてきているので止めてくれと言いたい」
「逆に私は少々楽しくなってきておりますので、やんわりとお断りの言を入れたいと思います」
「……まあ、今はその話をする気はないからいいけど」
「はい。では旦那様、失礼させていただきますね?」
「ああ。……、……と、言うか、本当に何であそこまで露骨に機嫌が良かったんだろうな? あいつがあそこまで機嫌がいいなんて、道端でばったりカミサマに出会うよりも稀だぞ??」
「――しっかり気を入れませんと。幾ら満月に近いからと言ってコレでは……高々旦那様の寝言に私どもの名前が出てきた程度で――精神が不安定になる新月も問題ですが、魔力が満ちる所為で気分が高揚し過ぎる満月の時もコレはこれで考えものですね……」
魔力は月の満ち欠けに関係あったりします?
……今更ながらに心底どうでもいい設定。