ど-490. いつもどおりの風景
もう毎日、こんな感じ。
「……ふぅ」
「って、ちょっと待てや、コラッ!!!!」
「おや旦那様、その様に取り乱して。如何なさいました?」
「如何なさったも何もあるかっ、お前の方こそ、んなワザとらしく茶ァ飲んで寛ぎやがってっっ」
「一仕事終えた後の一杯は格別です」
「ああ、その台詞にだけは同意してやろう」
「では旦那様も一杯いかがですか?」
「要らんっ――つか、テメェの言う“終えた仕事”とやらは何なのか言ってみろやッ」
「本日も館の皆様方を守り通しました、まる」
「~~っ!!」
「旦那様? 何やら興奮冷めやらぬご様子ですが、如何なさったのですか? 余り興奮しすぎると言うのもお身体に悪いですよ?」
「誰の所為か、誰のっ」
「その様に旦那様のやり場のない情念やその他にも色々とドロドロしたモノをぶつけられても、私としても困ってしまうのですが」
「俺はっ、今朝起きると周りに見たこともない風景が広がっていました!」
「まあ、不思議な事もあるのですね」
「色々とツッコミどころの多い旅の仲間の妖精族の女の子に聞いた話ではメイド服着た銀髪の女が俺を破棄してったらしいのですがっ」
「はあ」
「何か言う事はっ!?」
「旦那様、また女性を一人誑かしてきたのですね?」
「そこ、言うトコ違うからっ! あと誑かしてはいない、介抱してもらった際にちょっと仲良くなっただけだ!!」
「旦那様の“ちょっと”は信用なりません!」
「何だよっ、そこに置いていったのはお前で置いてかれたのは俺! そして怒ってるのも俺!」
「――まさか、あのような辺鄙に隠れ住む妖精族が居ようとは、不覚でした」
「俺としては大助かりですがねっ!?」
「所で旦那様、お身体の方は大丈夫ですか? あちらこちらに多少なりの擦り傷が見受けられますが」
「んぁ? こんなのは全部掠り傷とかその程度だ。ほっときゃ数日で治る」
「左様で御座いますか。ならば宜しいのです」
「んなことよりも! 一体どういう事なのかを説明してもらおうか、コラァ!」
「説明とは、一体なんのことでしょうか?」
「とぼけるのか!? 今更この状況でお前はとぼけるの!?」
「今更、この状況と申されましても……私としては旦那様の仰ることの一から十、全て理解しておりますとも、ええ」
「だよな!? そして理解しているのなら回答をプリーズ!」
「とくに理由は御座いません。思いついたからやりました。後悔はしておりません」
「まるで駄目じゃん、その理由!?」
「そうですね、私もそう思います。再犯は……有るか無いかで言えば、有るでしょうが」
「いや止めようぜ!? 駄目だって分かってるなら、再犯良くない!」
「私どもの心の向くままに生きて良いと仰ったのは他でもない旦那様であると記憶しております」
「それは……いや、確かにそう言ったかもしれないけど、それはあくまでヒト様に迷惑をかけない範疇でだな……」
「かけておりません」
「や! 俺、俺に思いっきりかかってるって!?」
「旦那様以外、迷惑はかけておりません」
「そこが一番いけないと思うのですがコレ如何に!?」
「きっと旦那様の優しさに甘えているのですね」
「そう言えば聞こえはいいかもしれないけどっ、結局のところお前がしたのは寝てる俺を秘境の最奥に投げ捨ててっただけだからな!?」
「まあなんにせよ、旦那様がお出かけになられていた際に仕事も十二分にためておきましたので――こちらをどうぞ」
「……な、何か柱が出来上がってるんだが?」
「存分に腕をふるって下さいませ、旦那様」
「それは……流石に色々と理不尽すぎやしませんか」
「そうですね、私もそう思います。ではきりきり働いて下さいませ」
「始めと終わりで言ってるコト違うからっ、あと俺、秘境からの大脱出で大変疲れてるんですが!?」
「そうですか。では仕事がひと段落ついたのち、休んで下さればよろしいですよ?」
「……この量は俺の経験上、一日以上はかかると見た」
「旦那様の仕事速度から推測いたしますに、一日と半日の仕事量をご用意いたしました。ちょうど旦那様の体力が尽きるか尽きないかと言う辺りであると稚推しております」
「お前は、何処の鬼か」
「私は鬼族では御座いませんよ? ――さあ旦那様、本日もきりきり馬車馬の如く働きましょう」
「……――よしっ、逃げよう」
「あ、旦那様お待ちを……!」
……朝日が、明るいなぁ。




