ど-488. 憂鬱な日もある
ぷぴー
「……憂鬱だ」
「仰る通りに御座いますね」
「……はぁぁ、憂鬱だ」
「はい、全く。……あの、所で旦那様」
「ぁん?」
「一体何がそれほどまでに憂鬱だと仰られているのですか?」
「何だお前、訳も分からずに同意してただけかよ」
「当然では御座いませんか。突如として『はああ、憂鬱だ。俺、死のうかな?』などと仰られて理解出来ようはずも御座いません」
「いや、死のうかな、までは言ってないぞ、俺」
「そうでしたか? まあ些細なすれ違いでしょう」
「今のは結構大きなすれ違いだと俺的には思う」
「そうですか」
「ああ」
「所で旦那様は何がそんなに憂鬱だと仰っておられたのですか?」
「ん? いや、お前と顔合わせるのが――」
「……」
「いやちょっと待て!? 冗談だから今にも死にそうな顔で去っていくのは止めろっ、怖いから!! そして冗談だから!!!!」
「……」
「いや、さ。そんな疑わしげに見られてもな。本当に冗談だから、気にするな、うん」
「左様でございましたか。私とした事がつい、旦那様のとるに足らない冗談を真に受けてしまいました」
「あ、ああ。……と言うかお前の場合はこの手の冗談を真に受けすぎだ」
「それは仕方ありません。私は既に身も心も旦那様のモノとなっておりますから」
「いや……うん、まぁ、どう言えばいいのか分からないけどさ」
「率直に、『お前は俺のモノだっ、誰にも渡しはしねぇ!!』と叫んで下されば嬉しいです」
「誰が叫ぶか、んな恥ずかしい台詞」
「愛さえあれば羞恥心など怖くはありません」
「じゃあ無理だな」
「……ああ、私、生きる気力的な何かを立った今なくしたかもしれません」
「それは大げさ、……って、本当の所を言えばだな、今日ってホラ、あれだろ?」
「今日? 本日のご予定は……ああ、そう言えば本日、各部の予算取り決めが御座いましたね」
「ああ、それだよ、それ。なんつーか、皆この時期になると急ににこにこしだすしなぁ」
「そして旦那様はデレデレされます」
「いや、まあ嬉しくないわけじゃないし? じゃなくて、あんな見え見えのおべっかをつかわれてもなぁ」
「嬉しいですし?」
「……まあ、それなりに」
「日ごろ冷たくされている分だけ、嬉しさ倍増ですねっ」
「……言い返せないところが辛い」
「一時の、悲しい夢でした」
「それを言うな」
「ですが事実でしょう?」
「いや、きっとこれが良い機会だって事で皆俺に優しくなってくれる!!」
「と、毎回仰られておりますね、旦那様。それで何か変化は御座いましたか?」
「……ふふっ、あいつらの天邪鬼っぷりにも困ったもんだぜ」
「旦那様、どうかこちらで涙をおふき下さいませ」
「涙なんて、涙なんて……あ、あれ? 悲しくないのに涙が出るよ?」
「ささっ、旦那様。私は旦那様の味方ですので」
「あ、ああ……」
「と、旦那様の私に対する好感度も微妙に上がりましたので――」
「ん? 今何か……アレ、お前何か隠さなかったか?」
「世の中知らないことが良い場合もあるのです?」
「……それはどういう意味だ」
「いえ、あくまで少々、旦那様が悲しくないのに涙を流せるよう、こちらの某柑橘系液体を霧状にして吹き替えていただけで御座います」
「……もうなんていうか、取り敢えず吹きかけるとかそれ自体はもう諦めてるからいいんだが……その“某”って部分が非常に気になるわけだが?」
「お気になさらないで下さいませ。人体への被害は、」
「被害は?」
「まあ、旦那様気を落とさずに、本日の予算取り決めの為の旦那様へのおべっか攻撃の嵐、もとい予算決定会議は頑張りましょう」
「おぉい!? 何で露骨に話題を変えますか!?」
「旦那様ならば大丈夫であると私、信じております!!」
「いや、だから! そう言う事言われると余計に心配になってくるのですがっ!?」
「では旦那様、ご健闘を祈っております……複数の意味で」
「や、だからぁ! 何でお前はそう言う、不安になることばっかり――って、あいつ言いたい事だけ言って逃げてきやがったっ!? 畜生めがっ!!」
……はふぅ、やっぱり週明けは眠いです。