ど-481. いつも通り
いつも通りの、日常風景。
「よしっ、宴会を開こうっ!!」
「はい、そうですね。ああ、そちらの書類の方を先に処理して頂けますか?」
「あ、ああ。分かった」
「はい。こちらの方は……概ね問題ありませんね。流石は旦那様です」
「まあな……じゃ、なくて!」
「如何なさいましたか、旦那様?」
「だからっ、俺はいま宴会を開こう! って言ったつもりなんだが?」
「はい。ちゃんとお聞きしております。あ、旦那様、手は止めないで下さいませ。今後の予定に支障が出てしまいます」
「あ、ああ悪い――って、じゃなくて!!」
「宴会を開こうとのご提案ですね? ええ、ちゃんと聞いておりますとも。あ、旦那様、そちら間違っております、お気を付け下さいませ」
「え、あ、ホントだ。あぶねえあぶねえ」
「気を逸らすからそのような凡ミスをなさるのです。ちゃんと集中して下さいませ」
「ああ――って、だから違えよっ、俺の話を初めに聞けよ!?」
「繰り返しになりますが……ちゃんと聞いてはおります。ただ常日頃よりの旦那様の何の考えもなしの提案であると分かり切っているので聞き流しているだけです」
「聞き流すなよ!? じゃなくて宴会しようぜ!!」
「……では、一応、形式上尋ねておきますが、旦那様がそのような奇行に思い至った理由をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「ふと宴会がしたくなった。それだけだ!」
「左様でございますか。それと旦那様、こちらの書類なのですが――なんですか、この『植物園製造費』と言うのは? 許可しませんよ?」
「なんでだよ!? それくらいいじゃないか!!」
「駄目です。第一何ですか、この法外な予算は。軽く小国の年間予算程はありますよ?」
「お金ってのは在って困るモノじゃないんだよっ、お前なら分かるだろ!?」
「それは分かりますが、旦那様が仰られていることとそれは全くの別問題に御座います」
「それくらい融通聞かせろよ!? 俺、ここのご主人様!」
「駄目です許可できません」
「くっ……ならお前こそこの『罠製作費』ってのはなんだよ!? これこそ許可できねえよ!!」
「そちらは大丈夫です。旦那様を除くこの館の皆様方全員からの許可は頂いておりますので問題ありません。予算の方も――旦那様に比べれば可愛いモノですし」
「いや! つかここじゃ俺が絶対的権力者のはずなんですが!?」
「はず、などと言う言葉を使用している時点で絶対的ではないのでは? と笑言させていただきます」
「笑言って言うなよ!?」
「分かりました、ではその言葉は撤回させて頂きます、が、こちらの『植物園製作費』の件に致しましては断固として、阻止いたしますのでそのおつもりで」
「だから何で――」
「旦那様など、あの大きさの花壇で満足されていればよいのです」
「いや、確かにあの花壇は大事だけど、最近それだけじゃ物足りないっつーか、やっぱりそろそろ増園してもいいころかなーとか思ったり?」
「思いません」
「だからっ、何でお前はそこまでこの件に関して頑固な訳!?」
「旦那様の方こそ、この提案書は一体何度目になりますか? 旦那様のハーレム化計画とは事なり、こちらは叶う事はない夢とお諦め下さいませ」
「嫌だよ!? 大体お前が其処まで頑固な理由を話せ、理由を!!」
「旦那様が花々に時間を取られますと、私にかまって下さる時間が減ってしまうではありませんか。それは――嫌です」
「い、嫌って……それはお前の個人的感情で」
「ちなみにこちらは館の皆様方全員の署名入り反対書となっておりますが、ご覧になられます?」
「……見ようじゃないか」
「では、どうぞ」
「……」
「……」
「……なあ?」
「はい、如何でしたか?」
「つか、何でこんなことでお前ら全員一致団結してるわけ? そんなに俺に嫌がらせして、お前ら楽しいわけ?」
「まあ……そこそこ」
「そこそこでも楽しいのかっ!?」
「はい」
「ああっ、もうっ」
「……それで旦那様、一つ、伺ってもよろしいですか?」
「あんっ、何だよ!?」
「そう、やさぐれないで下さいませ」
「俺やさぐれてねえよ!」
「左様でございますか」
「ああ!」
「では、旦那様。――宴会の方はいつごろ開催なさいますか?」
「……は?」
「旦那様が仰られたのでしょう? 宴会を開きたい、と。それで、いつ頃になさるおつもりで?」
「いや、お前、だってさっき……」
「飴と鞭は使いようと言います」
「――それは本人の目の前で言う言葉じゃないと思いますがっ!?」
「旦那様の前だからこそ、申し上げるのでは御座いませんか」
「それは一体どんな悪趣味だっ!!!」
いつもこんなです?