ど-478. 機嫌は沈んで持ち上げて
いじけてるひまもなければ機嫌悪くしている暇もない。
「――」
「旦那様、如何なさいましたか? 何やら機嫌が悪そうに見えるのですが?」
「そんな事はない」
「左様でございますか」
「ああ。断じて、俺は別に機嫌が悪いとかじゃない」
「二度も仰って下さらずとも、私は理解しておりますが?」
「……念のため、だ」
「左様でございますか」
「ああ」
「……」
「……」
「所で旦那様、何をその様に機嫌を悪くされておられるのですか?」
「……別に」
「別に何でもない、と言う訳ではないでしょう? 旦那様がその様に機嫌が悪いなど、草々あるモノでは御座いません」
「そんな事はない」
「御座いますとも。その様に、まるでいじけるように機嫌を損ねて実際ウザくて気持ち悪いので出来れば余所でしけっていて下さいませ、と言いたくなるようなお姿は非常に珍しいです」
「別に。本当にとくに理由なんてないんだよ」
「左様でございますか」
「……何だよ、疑うのか?」
「いいえ。私が旦那様の言を疑うなど、その様な事がかつて一度たりとも御座いましたでしょうか? 少なくとも私は――表面上はどうであれ、旦那様を疑った事など一度たりともないと自負しておりますが」
「……ちっ、回りくどい言い方しやがって」
「気に障ったのでしたら申し訳ございません」
「あ……いや、いい。何でもない」
「はい」
「……」
「……」
「……で、俺に何か用かよ?」
「膨れておられる旦那様のお姿が余りに滑稽なので眺めております。どうかお気になさらぬ様」
「――そう言われて気にしない奴はいない」
「私の目の前に旦那様がおります」
「いや、俺も気にするから」
「どうか私の事は愛しい愛妻とでもお思いになり、気になさらないで下さいませ」
「それは無理」
「即答ですか」
「無理なモノは無理だからな」
「……しょんぼりですね」
「ま、まあそう気を落とす事もないと思うけどなっ」
「旦那様ご本人からその様に言われても説得力が御座いません」
「……まあ、それは確かに」
「なので私も機嫌を悪くしたので軽く旦那様に呪いをかけに行こうと思います」
「いや待て待て待て」
「如何致しましたか? ああ、どうかご心配なく。呪詛返しをされる程私の腕は悪くありませんので」
「いや、お前の腕ぐぁるくないってのはつまり俺が呪いを受けると言う訳であって、全然よくないだろ」
「旦那様ならば呪いの一つや二つ……」
「跳ね返すとでも? いや、普通に無理だから。特にお前のとかは――」
「いえ、そうではなく既に身に受けている身ですので、今更気にされる必要もないのでは? と申し上げたかったのですが」
「って、え、マジでか!?」
「はい。ふふっ、あと幾つ重ね掛けすれば術式が崩壊してモノ凄い事になるのか、楽しみですね?」
「いや全然! 全然楽しみじゃないから、ソレ!!」
「では旦那様、私はこれで失礼させて頂きます」
「や、だから待て、ちょい待て、今すぐ待てって――」
「お断り致します。……これで旦那様の機嫌が少しでも晴れていてくれれば宜しいのですが。まあそれはそれとして、呪いは本当に掛けますが」
うっとり