ど-54. 国取り
…奴は今でも狙っている!!
「俺は俺だけの国を作るっ!!」
「ご立派でございます、旦那様」
「……」
「……」
「いや、そこで素直に認められると俺としては後に続けようがないんですが?」
「やはり旦那様の造言でしたか。そうでしょうとも、旦那様に限りましてそのような覇気などあろうはずもございません」
「事実って哀しいなぁ。つか、分かってたなら乗ってくれてもいいじゃないか」
「そんなっ、ついに世界に進出されるおつもりですか、旦那様!?」
「…すまん。いつもながらタイミングが違うんだ、タイミングが。ここでいきなりむぜ返されて俺にどうしろと?」
「では早速ですがこちらのルートでいかがでしょうか?」
「は?つか何だ、このノートは?」
「はい、これは旦那様のお心を私が独自に察しました上で日々入念な探査と検討を行いつつ常に流れる世情に沿うようにと拵えました旦那様の世界征服計画ナンバーD-15843でございます」
「無駄に多いな、てかお前は日ごろからどんな事をしている、そしてどんな目で俺を見てるんだよ?」
「…お恥ずかし限りでございます」
「いや待て何だその反応はっ!?つか恥ずかしいって何よ?いったい今の俺の言葉のどこに恥ずかしがる要素があったんですかねぇ!?」
「まず攻め入るのはカツィル公国でしょうか。あそこは近年内乱が生じているようで非常に攻め落としやすくなっております。お得ですね?」
「お得ですね、と言われても。だからどう反応しろと?」
「ここは一気買いで行きましょう!」
「…何でか俺には今のお前が非常にやる気に満ち溢れているように感じられるのだが。てかこれはあくまで冗談だよね?俺の振ったネタに対するネタ振りだよね?……このノートに書かれている内容が非常に細かくて、なんかこの通りにやってれば世界征服ってのも楽じゃね?とか思えちゃうのは俺の勘違いですよね?」
「遂にこの日が来てしまいましたか。私といたしましても何度この日を夢見ました事か。旦那様が世界の覇権を握られるこの日をっ!!」
「次第に怖くなってくるからもう止めぃ。あと俺はあくまで俺独自の国を作ると言ったまでで世界征服するなんて一言も言ってないぞ」
「…旦那様は悲しいお方です」
「いきなりテンション下がったな、おい。それでも俺に対する暴言がデフォルトってのはどうにかしてほしいけどな」
「この館内はとある意味合いでは既に旦那様のお国と言っても差支えないでしょうに。それを今更自らの国を立てると造言なされるなど」
「…あ」
「忘れておいででしたね、旦那様?」
「いや、別に忘れてないけどね。てかね、常日頃から俺が一番偉い人って言う実感が湧かないのがいけないんじゃないのかな、と今更ながらに進言してみたいのですが?」
「その弱気な姿勢がいけないのです、旦那様」
「お前に命令する!この俺が館内で一番偉いのだと、全奴隷たちに震撼させてこい!!」
「……ぷっ」
「ひどっ!?今のは冷笑されるより嘲笑されるよりもある意味で効くのですがっ。なに、その『子供が悪戯しました。もう仕方ないですね』てな感じの微笑ましくも漏れ出た笑いは!?」
「いえ、旦那様がこの館内で一番の大御所であられる事は皆方既にご存じの通りかと。つまりは今更行うようなことではないのかと、そう思った次第にございます」
「いや絶対違うだろ。今のは確実にそんな事を思っての笑いじゃなかったぞ。そうだ、本音を言え本音を!」
「旦那様が強気であろうとするお姿は実に微笑ましものでございますね」
「……聞いた俺が馬鹿だった」
「如何なさいましたか、旦那様?」
「俺に、どうしろと…?」
「旦那様は旦那様で在られればそれだけで宜しいかと。――そうでございましょう、私の旦那様?」
「うぐっ。…まあ、そうなんだけどさ。ほら、俺にもね、偶には威厳と言うものが欲しいのですよ」
「そのようなもの、旦那様は十分にお持ちでございます」
「……」
「旦那様?」
「そこまで真顔で…いや、表情は一貫して変わってないけどよ、本音としてそれを真剣に言われるとどう反応すればいいのか、困る」
「恥ずかしがっておられますね、旦那様」
「…悪いかよ?」
「いえ。私としましてはそのような旦那様のお姿を見られる事を嬉しく思うのみでございます」
「もういい。…もういいもういいもういい!あーくそっ、もう止めだ!!」
「……、自棄になって行ってしまわれましたか。あそこまでお恥ずかしがられる旦那様も中々おかわいらしでものです。しかし、惜しい。日頃から温めておいた計画が遂に日の目を見るときが、とも思ったのですが。…やはり旦那様は旦那様である、と言う事なのでしょうね」
本日の一口メモ〜
恥ずかしがる旦那様……実はレアもの?」
旦那様の今日の格言
「平和って言うのはいいものだ」
メイドさんの今日の戯言
「世の愚民共、思い知るがよい…?」