ど-472. 変化は前進であり、後進でもある
前か後ろかは関係ない。此処から進めとヒトは言う。
「知力、財力、そして男気に溢れた俺に足りないモノは何か、」
「最後の一つに異論を挟みたいと思います」
「却下だ」
「では私の中の男気と旦那様の中の男気では意味が異なっていると言う事実を以て納得しておきます」
「誰が何と言おうと、俺は男気あるけどな」
「では足りないのは決断力ですね」
「決断力? ……いや、それもあるだろ」
「蔑称、へたれとも言います」
「……」
「へたれ・おぶ・へたれーずとも言います」
「俺は、断じて、ヘタレと、違う」
「それを証明できますか?」
「証明、だと?」
「はい。証明できると仰るのでしたら、それをもって旦那様をヘタレではないと判断致しましょう」
「証明と言っても……んー、たとえばどんな事をすれば証明になるんだ?」
「この館に住まう“隷属の刻印”が刻まれた方々のほぼ全てを手篭にするなどと言うのは如何でしょう?」
「ふむ……、……、や、それは単なる鬼畜だろ」
「コレで旦那様も晴れてハーレムの主ですねっ」
「いや、だからそれじゃあ単なる鬼畜だと」
「私にはただ今の二つの、ハーレムの主であると言う事と鬼畜畜生外道との違いが分からないのですが?」
「鬼畜は鬼畜、クソで畜生だ。無理矢理とも言う。そしてハーレムってのは皆に等しく愛を注ぎ込むんだ。その違いは大きい」
「……やはりどちらも同じでは?」
「いや全然違うだろ!?」
「……――あぁ、成程。認識の違いですか」
「認識の違い?」
「はい。ですが旦那様はお気になさらず、皆様方を手籠めにでも何でもすればよろしいかと」
「いや、だからそれじゃ単なる鬼畜だと」
「嫌よ嫌よも好きの内?」
「それは間違いなく、犯罪者の理論だと思う」
「何を今更」
「……いや、確かにそりゃ俺は世界中で指名手配なんてされてる犯罪者ですよー? でも別に心まで犯罪者に身を落としたわけじゃないって言うか、自分では這い上がって来れたつもりというか……兎に角、無理矢理と言うのは無しだ」
「そうですか、このへたれ」
「……今の話の流れでへたれ扱いを受けるのはかなり不満だぞ?」
「旦那様は彼女らが“隷属の刻印”を刻まれている――奴隷と言われる存在であると言う事を正しく認識せねばなりません」
「は? いや、十分理解してるが?」
「――ええ、そうでしょうとも。旦那様はだからこそ、彼女らと認識のずれがあると言う事をやはり自覚していただかねばなりません」
「……」
「彼女らは旦那様が仰るように“奴隷“と言う存在であり――私や旦那様が思っているように、“隷属の刻印”を刻まれた方々では決してない。少なくとも、彼女らの認識でそこまで正しく辿り着いているモノはそう多くは御座いません」
「……ああ、それは一応、理解してる」
「なればこそ、例え旦那様がどのように扱われていたとして、例え彼女たちが普段どのように振る舞っていたとして……決定的な一歩を決して踏み出さないと言う事実を旦那様は本当に理解していると言えますか?」
「……」
「そう言う意味では、私はどちらかと言えば彼女らの側と言う事になりますね」
「お前の方は遠慮とか線引きとか、そう言うのないけどな」
「だから旦那様は分かっておられないと言うのです」
「……それはつまり? お前も線引きとかそういうのを、……アレでしてると?」
「……さて? それはご自分でお考え下さいませ」
「……む」
「さて旦那様。私としても、この件に関しましては今一度、旦那様にはよくよく考えていただきたいと思います」
「……」
「――では旦那様に一考して頂くためにも、私はこれで失礼させて頂きます」
「ああ」
「それでは――」
「……、……、……ふぅ、分かっては、いるつもりなんだけどな。自分でした事も、実際にどうなってるのかって事も。でもそれでもあいつが“足りない”って言うのなら――……そうだな、俺も、」
「……理解っては、いるのでしょうね、間違いなく。あの方は旦那様なのですから。でもやはり――……もう一歩、貴方に踏み込んでほしいと望むのは私たちの我儘なのでしょうか?」
最近、別の作品を書きたいなーとか思ったり思わなかったりする気持ちが湧き上がってきたりしています?
まあ、一応終わり(?)には向かっている……はずです、はず? ですからその内、無事に終われるといいな~。