ど-468. 恋の味
甘酸っぱ……?
「……甘っ」
「まさしく恋の味ですね、旦那様」
「……」
「……」
「……しかし、想像以上に甘かったな、この菓子」
「恋の味! ですねっ」
「――お前、いきなり何言ってるの? つか頭は大丈夫か?」
「旦那様に私が正常であるか否かを判断出来る程の正常さは皆無であると存じておりますが、問題御座いません、至っていつも通りの私で御座いますとお応えしておきましょう」
「そうか? なら良いけど」
「しかしまさか旦那様に頭の方面で心配されてしまう日が来ようなど思いもよりませんでした」
「お前が急に変な事を言い出すからだ」
「変な事、ですか?」
「自覚がないのか、それとも自覚込での発言か。……急に『恋の味ですね♪』とかほざいた事だ」
「甘くて苦い恋の味、少ししょっぱく辛い恋の味――と例えられるではありませんか」
「それは分かる、聞いた事はあるが普段のお前の発言とかけ離れ過ぎていると言わざるを得ない」
「では旦那様は私が恋をするのはおかしいと?」
「そこまでは、…………と言うか、お前らが“恋”?」
「何か問題が?」
「いや、問題と言うか……やっぱりどうにも似合わない言葉だなぁ、と」
「……それは些かならず、大いに失礼では御座いませんでしょうか」
「あ、いや、別にバカにしてるとかそういう訳ではなくてだな、」
「それは存じております。今の発言を旦那様が心底本気でなされていると言う事も。だからこそ言わせていただくのです、失礼ではありませんか、と」
「ん~? でもなぁ、俺のイメージとしてはお前ってどちらかと言えば『一生ついていきますっ』的な感じのド直球で、恋するより先に愛してる気がするんだが?」
「……先の言葉を撤回させて頂きます。旦那様は、私の事を良く理解しておいでかと」
「だろう?」
「はい、失言をいたしました」
「と、言うか。急に『甘酸っぱい恋の味♪』とか言い出してどうしたんだよ?」
「いえ、そろそろそのような季節が参りましたか、とふと思い出しまして」
「や、そういう季節ってどういう季節だよ?」
「恋の季節?」
「だからそれがどんな季節かと俺は聞いている」
「さて、それは存じ上げません。旦那様曰く、私は旦那様に恋した覚えはなくとも既にどのような悪逆非道な命令でも従順に聞いてしまう程の愛の奴隷と化している様ですので」
「誰もそこまで言った覚えはない、と言うか今のお前の発言には色々と突っ込みたいのだが?」
「何ですか、ぷち悪逆ぷち非道の旦那様」
「……“ぷち”にはどんな意味があるんだよ?」
「悪逆にも非道にもなりきれない旦那様の半端さ加減を言い表してみました」
「……バカにしてる?」
「いえ、むしろ私には珍しく旦那様を褒め称えておりますとも」
「……えー」
「一目瞭然では御座いませんか」
「それは違うと主張したい」
「そうでしょうか? こんなにも旦那様を小馬鹿にしていると言うのに?」
「小馬鹿言った!? いま小馬鹿って言った!! 俺を褒めてるんじゃなかったの、お前!?」
「おっと、つい嘘がポロリとこぼれてしまいました。申し訳ございません、旦那様」
「嘘? 嘘なのか? 本音じゃなくて?」
「どちらでもあり、正しくはどちらでも御座いません」
「何だ、その謎かけ? つか、そんなでけむに巻こうとしても無駄だからな」
「はて、何の事でしょう?」
「いや、話を元に戻して。恋の季節云々の話」
「……ああ」
「んで、恋の季節って?」
「いえ、先日通過した街で流行っていた唄の歌詞にそのようなフレーズが御座いまして。そう言えば今頃の、実りの季節が恋の季節なのだな、と思い出したまでの事に御座います」
「ん? 前の街でそんな歌、流行ってたか?」
「はい。女性を追いかける事に夢中の旦那様はお気づきになられずとも仕方ありませんが。女性の服装が他の街に比べて少々扇情的であった事は覚えておられますか?」
「あ、ああ。そう言えばそんな感じだったかなーとは覚えてる」
「どうやらそのような風習が残っている地であった、と言う事ですね。今の季節に小石結婚される方々が多く……私も不要な程に声を掛けられてしまいました」
「いや、お前の場合はいつものコト……」
「なのであの街の女性の方々は珍しく旦那様に対しても寛容で御座いましたでしょう?」
「そ、そう言えば……! くっ、そうと分かれば今すぐ引きかえさ――」
「さて、では参りましょうか、旦那様」
「いや、ま、俺ちょっと前の街に忘れものをっ、」
「さて、参りましょうか、――旦那様?」
「……うぅ、はい」
構い過ぎるとウサギは死ぬそうです?
でも寂しくても死ぬって、どれだけ我儘なんですかっ、全くもうっ!!
……いや、戯言に意味はないですが。