ど-462. だがそれ以上に計画性はもっと大事だ
何があっても道に迷う!
「……おかしいね?」
「旦那様の表情以外におかしなところは見受けられませんが?」
「まあお前の戯言は置いておくとして……ここ、何処だ? てか、海は?」
「単純に磯の香りから推測すれば、海はここより東へ十日……いえ十一日程向かった所にあるかと」
「で、ここは?」
「存じません。私は旦那様についてきただけですので、例え旦那様が海とは違う方向へ独走なされようとも口を挟む事は御座いません」
「いや、そこは挟めよ指摘しろよ」
「旦那様、道が間違っております」
「既に遅いよ!?」
「いえ、かつて乃旦那様の行動のほとんどもそうですが、今私が指摘したのは旦那様が向かわれている方向も絶賛間違っていると言う事に御座います」
「ん? でもお前、ここから東に行けば海につけるって言ってたよな?」
「はい、申し上げました」
「で、俺は東に向かおうとしているわけだが?」
「そちらは北で御座います」
「嘘……はお前が言う必要もないし、え、マジで?」
「はい」
「……いや、やっぱりこっちが東だろ」
「いえ、そちらは西で御座います」
「さっきと言ってること違うしっ!!」
「では旦那様は只今と先ほどと、ご自身で指した方向が違っていることを自覚されておりますか?」
「は?」
「どうやらこの近辺には周囲の方向性を狂わせる類の魔法が施されているようですね。迷いの森とはまた別種の、――迷いの草原、とでも言い表すべきでしょうか」
「迷いの草原? 聞いたことないぞ」
「はい。私もこのような場所がある事には驚きました。ですがそれ以上に旦那様が同じ場所をかれこれ三日ほどぐるぐる回っておられる滑稽なお姿には同情憐憫と同時に愉悦を感じざるをえませんでした」
「感じるなよ、んなモノ!! ……え、て言うより、三日前から?」
「はい」
「三日も? 同じ場所をぐるぐると?」
「はい、理解の足りない旦那様の頭でも分かるでしょうが、そう申し上げました」
「……うわぁ、何やってるんだ、俺」
「旦那様の事ですからお気づきかと思っていたのですが……?」
「いや、気付いてなかったし」
「それは、珍しい事もあるのですね?」
「つか、別にここにそんな魔法は掛かってない。断言しても良い」
「そうなのですか?」
「ああ。“法則性のある魔力の動き”はここには皆無だ」
「無規則性の法則も、ですか?」
「当然、そっちも。だからここに道を違わせる魔法がかかってるって事はないわけだが――と、なると“聖遺物”辺りか?」
「――聖遺物が、近辺に?」
「可能性の話だけどな」
「なければ単に旦那様が愉快痛快な行動を取られていただけと言う事になりますね」
「それはない!! ――はず」
「だとよろしいのですが……それで旦那様、如何なさいますか? どうやら私の方向感覚は狂っていないようなので、このまま“聖遺物”を素通りしていくことも可能ですが?」
「……いや、止めておこう。先ずは“聖遺物”の回収ないし破壊が先だな」
「了解いたしました、旦那様」
「しかし……自棄に海が遠いなぁ、とかとは思ってたけど、まさか道に迷ってたとは」
「コレで旦那様もラライ様の事をどうこう言えませんね?」
「いや、ラライはあれが天然で、俺は単に“聖遺物”の所為で迷ってるってだけだから」
「“聖遺物”と言えば旦那様、三日と半日ほど前よりウサギのような生物がずっとこちらを付けてきていたのですが、もしやあれが“聖遺物”なのでしょうか?」
「ウサギ……のような?」
「はい。額からドリルが生えており、それ以外は普通のウサギに見えます」
「……まあ、そんな生物を発見した事は今までないな」
「はい。それで――捕えてまいりましょうか?」
「ああ、そうしてくれ。……と言うか気付いてたのならもっと早くにそうして置いてくれと言う話な訳だが」
「それでは旦那様のお姿を笑えないではないですか」
「笑うな」
「うふふー」
「いや……うん、それ全然笑えてないってのはどうでもいいとして。じゃ、頼む」
「はい。となると朝食はウサギの肉ですか、腕が鳴ります」
「止めて。つか“聖遺物”を食う気はねえよ」
「左様で。――では、行って参ります、旦那様。少々お待ちの程を」
「ああ――……って、はぁぁぁぁ。。自棄に遠いなぁとか思ってたら、単に道に迷ってただけかよ。いや単にってわけでもないかもしれないけど」
とある護衛の独り言
「……恋人かぁ、いいな、私もある――っっ、…………、ふぅ、主様の見張りに集中しないと」
でも見張りと言ってもレム君には気付かれています。