ど-461. 閃きは大事だ
……ん/\
「――む?」
「えい♪」
「ぶふっ!?」
「急に立ち止まらないで下さいませ、旦那様。危ないではありませんか」
「ぐ、お、ぉ……――って、危ないのはお前の方だよ!?」
「その様な事は御座いません」
「いや、あるから! つか、いきなり殴りかかってくるのはどうかと思う!!」
「旦那様が急に立ち止まるので、つい……」
「いやな? つい……じゃねえよ! 急に立ち止まって危ないとか言ってるように聞こえるけど、全然危なくないから! そもそもお前は俺の“横”を歩いてやがりましたから!!」
「いえ、旦那様が私に何らかのアクションを期待したのではないかと邪推いたしました」
「それは思いっきり邪推だな! そしてそんなモノは要らん!!」
「それでは旦那様、急に立ち止まられて如何なさいました。何か発見したのですか?」
「あ、ああ。いや、そう言う訳じゃないんだけど、」
「ならば私が旦那様を殴り飛ばしたのは正当ですね。良かったです」
「良くねえよ!? つか正当でもねえよ!!」
「それで旦那様? 何かを発見したと言う訳でないのでしたら、如何なされたのですか?」
「む? そうだな、強いて言うなら無意味な事に価値を見出したと言うか、」
「余計な説明は良いので結論だけ仰ってくださいませ」
「……今日の昼食は何にしようかな、と考えてたら不意にツィートルを食いたくなった、なら、って事で特に目的地もなかったし、今から海に向かえば良いんじゃね? とか考えたわけだ」
「成程。心底どうでもよい事ですね、旦那様」
「や、俺はふと思いついただけであって。大事にしようとしたのはいきなり殴り飛ばしてきたお前だから」
「それではまるで私が悪い様ではありませんか」
「どう考えてもお前が悪いからな? てか単純に考えればお前がいきなり殴りかかってきただけだからな?」
「そのような……まるで私が旦那様に暴力を揮っているようではありませんか」
「あれが暴力じゃなかったら何だと!?」
「スキンシップです」
「言い切りやがったー!!」
「では愛のじゃれあいでお願いします」
「あんな暴力的な愛、俺はノーサンキューだ」
「私も、旦那様に暴力を訴えるのは好きではないのです……」
「その割には『えい♪』とか言う掛け声は楽しそうだったけどな?」
「旦那様の気のせいかと」
「いや、お前は絶対に俺を殴って楽しんでる」
「私が旦那様をいたぶって楽しんでいるなど……心が痛いです」
「いや、いたぶるってまで言った覚えはないんだが?」
「おっと、つい願望が漏れてしまいましたか。これは失礼を」
「……ほほぅ」
「何でしょうか、旦那様。まるで我が意を得たり、と言うようなその表情は。何処はかとなくときめいてしまうので、余り熱い視線で見つめないで下さいませ」
「……じー」
「何でしょうか、旦那様。眼つぶしをリクエストされるのであればお応え致しますが」
「しなくて良いからっ!!」
「左様でございますか。ええ、はい。私としても幾ら旦那様の瞳に曇りがあるからと言って眼つぶしまではやり過ぎではないかと思うのです」
「……何でお前を見つめてただけで眼つぶしとかされなきゃいけないんだよ」
「旦那様の熱視線に絆されて、つい……」
「『つい……』で何でも済むと思うなよ!?」
「えー」
「兎に角、だ。これから海に向かおうと思う訳だが、何か異論は?」
「御座いません。しいて言うならば今は未だ寒いので、運よく女性が泳いでいる――などと言う事はまだありませんよ?」
「いや、それ目的じゃないし。つかどうでもいいし」
「では私には何の異論も御座いません。元より旦那様がお決めになられた事に口を挟む事をしようと言う気も御座いません」
「そか。んじゃ、海に向かうって事で良いな?」
「はい、旦那様」
「よしっ、一足先に夏を先取りだぜー!」
「……ふふっ。防水仕様の服を一着、用意しておく必要がありますね」
とある護衛の独り言
「何で主様は……って、何か私、いつも主様の事を考えているような――……うぅ、いや、別にそう言う訳じゃ、ないこともないじゃなくて、その、……、……」
レム君への敵意が1上がった。