ど-458. お前を倒して俺は、
何か色々と、暴走したいお年頃。
「お前を倒すっ!!」
「わー、やーらーれーたー」
「……」
「……」
「いくらなんでも今のはないと思う」
「むしろ私としては突如として奇声を上げられた旦那様に反応した事を評価していただきたいのですが?」
「あ、うん。それは確かに……って、奇声って何だよ」
「『お前を倒す?』」
「いや疑問形じゃなかったから」
「では『お前を押し倒すっ!』でしたか」
「増えてる増えてる。『押し』は要らないからな?」
「果たして本当にそうでしたでしょうか?」
「お前は何が何でも俺が『押し倒す』発言をしたとしたいのかっ」
「いえ、そのような事は……ですが旦那様、何の前触れもなく突如としてそのような事を仰られても対処に困ります。まあ旦那様の発言には常に突拍子および現実味ないし真実性がないのがもはや当たり前では御座いますが」
「当り前じゃない、当り前じゃないからっ」
「では旦那様、あの時、『お前を、お前だけを愛している』と仰られたのは嘘だったのですねっ!」
「嘘も何もんな事を言った覚え自体がねえ」
「私も誠に残念なら聞いたことが御座いません」
「いや、なら初めから言うなよ」
「いつか旦那様が仰って下さるのではないかと期待しております」
「……あ、そ」
「はい」
「ま、それはそれで遠い彼方においておくとして、だ」
「そう言えば旦那様、突如としてあのような奇行に走られたのはどのような心境の変化が御座いましたか?」
「奇行言うな、奇行」
「ああ、つまり旦那様はあれが普段通りの行動であると主張したい訳ですね」
「違うわっ!!」
「確かに、思い返してみれば旦那様の仰る通り、別段普段の旦那様と変わりある個所が認められませんでしたので、そう言う意味ではあの程度既に旦那様の中では奇行でも何でもなくなっている事は確かです。世間一般的に、とはとても申せませんが」
「いや、そんな事は……、……あるかも?」
「はい、旦那様」
「いやでもしかし、それじゃあまるで俺が変人みたいじゃないか!」
「……ぇ?」
「何だよ、その『今更気付きやがったのか、このペドフェリア』って雰囲気は」
「今更それを仰られるのですか、ロリコン紳士の旦那様」
「俺は断じてロリコンじゃねえよっ!!!!」
「ムキになるところが怪しいと言わざるを得ませんが……そうですね、旦那様は私の豊満な肉体の虜ですからね。ロリコンではありませんでしたか」
「……これは。否定すればいいのか? それとも否定しちゃダメなのか? どっちだ??」
「否定すれば旦那様はロリコンであると認められ、肯定すれば旦那様は私の虜であると認められた事になりますね?」
「何ですか、その選択肢のない選択肢はっ!?」
「さあ旦那様、どちらですか」
「――」
「さあ、旦那様っ」
「……ゃ、と言うかそもそもそう言う話じゃないし」
「ではどのような話でしたでしょうか?」
「お前を倒すぞっ、ってコトだな、うん」
「私を? 旦那様が?」
「うん、そう」
「……、それは無理ではないかと。私は既に旦那様に倒され、ないしは倒すという行為をする必要がない程に旦那様の虜、つまりは味方で御座いますから」
「ふっ、味方だからと言って倒してはいけない法はない。むしろ敵なら何も考えずに妥当すればいいだけだから、味方の方が色々と厄介なことだってある」
「そのようなモノですか?」
「ああ。そのようなモノだ、と言う事に日頃お前と接しててその結論に辿り着いた」
「左様でございますか」
「と言う訳でさっきの言葉に戻るわけだ」
「ああ、それで旦那様のあの奇声奇行で御座いましたか」
「――と、言う訳だ。俺はおまえを倒すっ、そしてまた一つ、俺は真人間に成長するんだっ!!」
「それは既に今現在真人間ではないと宣言されているのですね?」
「あ、いや、訂正。俺はお前を倒すことで今よりも更にっ、聖人君子の様な真人間になるんだっ!!」
「うわあ、やられた」
「……だから、その演技はあんまりだと思う」
「折角好意で旦那様の下らぬ無価値を通りこして有害ですらある妄言にお付き合いしていると言うのに酷い物言いです」
「いや、お前の言い方の方が酷いから」
「それで旦那様、真人間になったとして如何なさるおつもりで?」
「それはもう、真人間になれば俺は絶対に女の子にもてもてうはうはの――」
「その発想自体が既に真人間ではないと指摘させて頂きます」
「あ、いや、今のはただのちょっとした例えであってだな、別にそれだけが全てではないと言うか、むしろ日頃のお前を返り討ちにしてどちらが上の立場かをこの際はっきりさせておこうと言うか、」
「今、本音が漏れました。成程、そう言う事でしたか」
「あ」
「では旦那様、この際です。どちらが“下”であるかと言う事をはっきり、白黒つけておく事に致しましょうか。当然私の方が旦那様よりも“下”である方向で」
「……言ってる内容の割に、お前が何処となく喜々として間合いを詰めようとしてるのは何でだろうな?」
「取り敢えず全ては旦那様にお仕置きと言う名の日頃よりの私刑嫉妬八つ当たりをしてから話し合いたいと思います。久方振りに全力で身体を動かしたい、と言うのもありますし」
「ぼ、暴力反対!!」
「何を――私を倒すと宣言したお方が仰られますか」
「……」
「さて、では旦那様」
「ふ、ふふふっ、ふふふふふっ、俺を――甘く見るんじゃねえぞぉぉぉぉ!!!!」
「当然、承知しておりますとも?」
「っしゃ! こうなりゃ全てが自棄だっ、やってやる、やってやろうじゃないかよおぉぉぉぉぉ!?!?」
「では旦那様――参りますっ」
とある護衛の独り言
「……そう言えば、主様ってどんな服が好みなのでしょうか? やっぱりメイド服、でも館の皆様は統一性がないし、そうすると男のヒトって事で露出の多い……? ……、……、いけないいけない。余計な事は考えずに、主様を見張らなければ」
独り言、独り言。……本音?