ど-456. お薬の時間です?
むい
「あの、旦那様」
「ん? どうかしたか」
「一体どのような心境の変化なのですか?」
「は? どういう意味だ」
「いえ、御自分からギルドの依頼を引き受けられるなどと言う暴挙をされて、一体旦那様の身に何が起きたのですか、とお尋ねしております」
「や、俺だって普通にギルドの依頼くらい受けるから」
「しかし旦那様はその不真面目さの余りに番外ランクFを賜ると言う偉業を――」
「いや、それ違うし。つか別に不真面目とかでランクFに落とされてるわけじゃないぞ? それに、だ。見様によってはランクFなんて俺一人だし、むしろランクSよりも貴重? なんてな」
「旦那様はその辺りに落ちているゴミ塵芥がこの世にまたとない形をしているからと言って貴重だと仰られるのですか?」
「そう言う訳じゃないけど。……つか、俺がランクFとか言うのはお前の所為って部分もあるんだぞ?」
「そう言えば以前そのような事を仰っておられましたね?」
「仰って、というか……まあなんだ。俺、あそこの会長様には嫌われてるからなー」
「むしろ旦那様が嫌われていないお方を探す方が難しいかと」
「……言うな。その事実は無性に悲しくなってくるから」
「はい、承知いたしました。たとえどのような事実であろうとも旦那様が現実逃避されると言うのであれば無駄と理解していたとしても私もそれにご助力いたしましょう」
「いや、……うん、まあ……お前、フォローとかする気ないだろ?」
「はい、全く御座いません」
「そこまできっぱりと言い切られるとむしろ清々しいな」
「私は常に清廉潔白ですので」
「……はっ」
「旦那様、その痛快極まりない笑みは私に対する嘲りと受け取りますがよろしいでしょうか?」
「お前は自分の発言を振り返ってからもう一度その言葉を吐いてみろ」
「……」
「お、何だ? もしかして怒ってる? と言うより俺とやる気か?」
「……旦那様なんてっ、旦那様なんて嫌いですっっ!!」
「……」
「……」
「……で?」
「今のは全くのウソです」
「ああ、そう」
「旦那様は相も変わらず意地が悪いですね。少しくらいは私の話題に乗って下さっても宜しいですのに」
「お前の流れに乗ると俺が酷い目に遭うのは目に見えてるから」
「それでも敢えて付き合って下さるのが旦那様の優しさであると信じております」
「俺は虐められて喜ぶとか、そう言うのはないって何度言えば理解するつもりだ?」
「え、そうなのですか?」
「……や、今初めて聞いた、みたいにされても」
「冗談です。ですが旦那様、ご心配には及びません。そのうち慣れます。そしてそこに喜びが生まれ――」
「ないからな? つか慣れるとかもないから」
「左様で御座いますか」
「ああ。ついでに……と言うか、今回この依頼受けたのは別に心境の変化とかじゃないし」
「ではどのような?」
「いや、丁度薬の手持ちが尽きてな。資金稼ぎと材料調達、同時にやろうかなーって思って」
「成程。旦那様の唯一と言っても良い実益を兼ねたご趣味でしたか。それならば納得です」
「唯一とか言うな。それじゃあ俺が他に何のとりえもないように聞こえるじゃないか」
「他には……そうですね、女性を誑かすのが上手いですか?」
「……それは何の嫌味だ」
「旦那様は女性が大好きですからね? その口説き文句と容姿、歯の浮き身が悶えるような台詞と登場タイミングには私もびっくりです」
「……だから、それは一体何の嫌味だと言いたい? むしろ俺がモテない事をバカにしてるのか、テメェは」
「いえ、そのようなことは御座いませんが。バカにしている部分はあると言っておきましょう」
「この、や……」
「まあ、旦那様は今の程度が宜しいのではないか、と私は思っておりますが。そうでなければ世界征服、などされてしまわれるかもしれませんしね?」
「世界征服? いや、お前また何物騒な事を」
「旦那様には元よりその才があると言う事ですよ? 良いことか、腹が立つことかはさて置いてですが」
「はぁ? どういう意味だ、つか別に俺は世界征服の才能とかないと思うのだが……」
「知らぬは何とやら……では旦那様、依頼の方を早急に終わらせてしまいましょう?」
「……何となく不満が残るところだが、まあそうだな。依頼の薬草採取の方はさっさと終わらせて、早く自分の分を取らないと日が暮れるしな」
「旦那様はこの件に関しては時間と我を忘れてしまいがちになりますから」
「だな。んじゃ、ちゃちゃっと終わらせちまうか」
「はい」
とある護衛の独り言
「……また、見失ってしまった。……主様~どーこーでーすーかぁぁ~」
その背後でほくそ笑む旦那様が一人。