ど-455.例えばこんな、平和な一日
何事もない平和な一日と言うのは、かけがえのない宝物です。
「……」
「……旦那様?」
「……ん? 何だ?」
「いえ。お寛ぎの所申し訳ございませんが、」
「いや、別に寛いでるってわけじゃないけど……」
「左様でございましたか。ですが旦那様、何をなさっておられるのかとお尋ねしてもよろしいですか?」
「んん? 何って言われても……まあぼーっとして風景を眺めてる?」
「風景と言うのは過ぎゆく人々、特に女性の方々の事ですか?」
「い~や? そう限った話じゃなくて……まあなんとなく見てるだけ?」
「左様でございますか」
「ああ」
「……」
「……」
「旦那様?」
「……ん~?」
「本日はこのまま過ごされるおつもりで?」
「ん~……まあ何事もなければ?」
「はい、了承いたしました」
「……」
「……なぁ?」
「何でしょう、旦那様」
「みんな、幸せ……ってわけでもないだろうけど、生き生きしてていいよな、この街は」
「……そうですね」
「俺さ」
「はい」
「偶にはこう言うのをただ眺めてるってのも、案外悪くないと思うんだ。お前はどう思う?」
「私は……個人的な意見を申し上げるのでしたら、彼のような有象無象を眺めているよりもそれを何処か楽しそうに眺めておられる旦那様の横顔を日がな一日見詰めている方が有意義に御座います」
「そっか」
「はい。……申し訳ございません、旦那様」
「ん? どうして謝る?」
「いえ、この件ばかりは……私どもにとってはやはり他の誰の幸せよりも旦那様ただ一人の無事と幸せが何よりも大事なのです」
「ああ、知ってるし、分かってるよ、ちゃんと。でもそれって謝るようなことか?」
「……世界と旦那様、どちらかを取れと言われれば私は迷わず旦那様を取ります。――例えそこにアルーシアがいたとしても。例え旦那様が嘆き悲しまれる結果になったとしても」
「…………あ、そ。それで?」
「この件ばかりは……私は絶対に旦那様のご意志通りに動く事は出来ません」
「だから謝るって?」
「はい」
「……別に構いやしないさ。お前が何かをしたいと望む。そこに俺の意思が介入する必要はあるのか?」
「……旦那様なればこそ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどな。いつも言ってるけど、お前はお前のしたいようにすればいいさ。俺をからかって遊ぶなり、周りの誰かに嫉妬して見せるなり、他の誰かを好きにな――」
「それはありえません」
「――、……そ。まあそう言う訳だから? お前がお前のしたい事をしたからって言ってそれで態々俺に詫びる必要なんてないさ」
「……はい」
「それに、さ。――お前じゃ俺を止められないよ?」
「――」
「……ま、小難しい話はこのくらいって事にして。俺は取り敢えずこのままこの様子を眺めてるつもりだけど、お前はどうする? 別にずっと俺の傍にいなくても良いぞ?」
「では、私は私の望む事を」
「ああ、そうしろ」
「……旦那様のお姿を、ずっと眺めさせていただく事にします」
「相変わらずモノ好きだなぁ、お前も」
「旦那様程では御座いません」
「そか」
「はい」
「んじゃ、今日はこのままずっとのんびりと過ごすとするか~」
「はい、旦那様」
とある護衛の独り言
「……はぁ、主様も黙ってれば恰好良い――っ!? いえ何でもありません何でもないですから!! ……だ、誰にも聞かれてませんでした、よね?」
何処かでメイドさんが優しく微笑みました。