ど-453. おはようと愛の囁きと
おはようございます?
「旦那様には本日よりこちらのメニューをこなして頂きます」
「え~と、何々……『朝、起床。お早うと愛のささやきを……却下!」
「何故ですか!?」
「何故も何も出だしから不穏当すぎるからだ」
「不穏当で良いではありませんか」
「いやよくないだろ」
「……えー」
「『えー』とか言うな、『えー』とか。無表情すぎて逆に怖いよ」
「……え~」
「いや、だからと言って演技バリバリでやられても困るわけだが」
「甚だどうしようもない旦那様に御座います」
「どうしようもないのはどちらかと言えば間違いなくテメェの方だ」
「確かに、それはあるかもしれませんね」
「お、なんだ。認めるって言うのか?」
「はい。私は旦那様が思わず愚痴をこぼしてしまわれる程に優秀で御座いますし、それは致し方のない事であると理解する狭量な心も持ち合わせておりますので」
「いや自分で優秀……とか言うのはまぎれもない事実だから仕方ないとして。それでも自分で狭量とか言うか、普通?」
「私どもは嫉妬深いですので」
「……それもそうか」
「そこは否定して頂けるとありがたいのですが、旦那様?」
「否定する要因がない」
「そんな事はないのではないかと提言致します」
「ないな! 第一日頃の俺に対する仕打ちの数々だって、実は俺が他の子と仲良くしているのが気に食わないからだってのは百も承知だ!」
「他の子と? 仲良く?」
「……」
「ちなみに旦那様に対する日ごろの行いは私の趣味をかねた実益ですのでどうかお間違えのない様、同時にご了承いただきたくお願い致します」
「……」
「旦那様様にかみ砕いて申し上げるならば、愛情表現の一つです? きゃっ、恥ずかしいっ♪」
「その小バカにした態度はどこまで俺をバカにするつもりだぁぁ!?」
「少々恥ずかしかったのは本当の事です」
「知るか、んな事! つかどうでもいいわっ!!」
「いえ、旦那様にそう言われたとしてもやはり恥じらいと言うのは重要であると心得ますので」
「どの顔で恥じらいとか抜かすかっ!!」
「……その発言は幾ら旦那様と言えども、いえ旦那様であるからこそ些か失礼かと」
「な、なんだ。やるか? やるって言うのか? お、俺だったら相手になって……や、やるぞ?」
「後ろに下がりながらそのような事を仰られても説得力に欠けると思いますが?」
「……そう言う事を言いつつも抜け目なく死角に回り込もうとしてるお前の方もどうかと思うぞ」
「……旦那様の方こそ、中々隙が御座いませんね?」
「……何処かの誰かさんに鍛えられてるからなっ」
「……それはそれは、大変良い方と巡り合いに慣れましたね、旦那様?」
「……そうだな、俺もそう思ってるよ」
「……」
「――ゃ、そこでマジで照れられても困るんだ、っ!?」
「油断大敵に御座います、旦那様」
「くそっ、今のはブラフかよ!?」
「いえ、本当に照れておりましたのでブラフでは御座いません。そもそも旦那様にあのような心よりの謝辞を何の前触れもなく言い渡されて照れずにおられる道理は御座いません」
「あーくそっ、演技じゃなかったから見抜けなかったのかっ」
「そうなりますね?」
「……それで、見事俺の死角をとったお前は一体どうするつもりだ?」
「……」
「……」
「いえ、どうも致しません。そもそも勝負を持ちかけて来られたのは旦那様でありますが、私は受けるとは申し上げておりませんでしたので」
「いや、俺の方も別に勝負を持ちかけたつもりは微塵もないのだが?」
「一切、承知しております」
「……ならさっさとそこからどいてくれ。心臓に悪くて仕方がない」
「……」
「……? おい、聞いてるのか?」
「そう言えば旦那様、折角の良い機会ですのでご提案したい事が一つ御座いました」
「俺としては悪い予感しかしないわけだが……」
「相も変わらず被害妄想だけは激しいお方ですね?」
「それが本当に被害“妄想”かどうか、俺としては妄想で終わってほしいところだけどなっ」
「旦那様も本当に仕方のない方ですね。私はただこちらのものをご提案しようとしただけで御座います。拒否なされると……分かっておりますね?」
「いや、ヒトはそれを脅迫と言う」
「脅迫などとんでもない。単なるご提案であると申し上げさせていただきます」
「提案とか言う気なら、せめて俺の死角から出てきてほしいものだけどな?」
「……」
「……おい」
「折角の機会ですので」
「何の機会だよ!? 何のっ!!」
「力づくで旦那様に言う事を利かせる機会?」
「ですよねっ!?」
「と言う訳で旦那様、こちらをどうかよろしくお願い致します」
「こちらって言われても。えっと、何々……『朝一番の愛の囁き――って未だ諦めてなかったのかお前は!? つか却下だ、却下!!」
「……えー」
とある護衛の独り言
「……また女性に声を。主様、あなたと言う方は本当に……、あ、また殴られましたか。……何でしょう。胸がすっとすると同時にホッとしている私がいます」
……ぷー