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harem!〜カオス煮、いっちょ上がり!〜  作者: nyao
o メイドさんとご主人様
755/1098

まつり(後)

……ぽつり

◇◆◇




と、『龍神』から少し離れた場所。抱き付こう(組み伏そう?)とする女とそれを必死に抵抗する男の姿があった。




「――旦那様っ!!」


「って、テメェはいきなり俺を殺す気か!?」


「今の旦那様のセリフ、この私甚くっ、深く感銘いたしました!」


「感銘したらてめえは俺を殺しに来るのかっ!?」


「いえ、まさかっ。それに元より私が仕える方は、私の旦那様は旦那様以外には御座いませんっ」


「いや、んな事は良いからさっきの必殺タックルは一体何のつもりかと――」


「私は私が私である限り、旦那様以外の旦那様など望むべくも御座いませんともっ!!」


「ゃ、だからな? さっきのタックルは一体何のつもりかと、」


「愛情表現です」


「言い切りやがった!? 光の壁も越えてたあのタックルを愛情表現とかって言い切りやがった!?」


「当然です。むしろそれ以外に何が御座いましょう?」


「八つ当たり、嫌がらせ、むしろ暗殺?」


「御座いません!」


「いや、でも……ほら、何かお前の事を泣かせちまったし」


「アレは……いきなり旦那様が私の事など要らない、と仰られるから……」


「いや、アレはお前にも分かりやすいように仮にの話であって、別にマジな話ってわけじゃ……」


「本当の本気で旦那様にあのような台詞を言い渡されでもすれば、今頃私は生きておりません」


「それは流石に言い過ぎ、」


「――だと思いなら、旦那様は私の事を些か見誤っていると言わざるを得ませんが?」


「……だと思いたい――って、言いたいところなんだけど。お前も相変わらずと言うかなんというか」


「それだけ旦那様が愛されていると言う事です」


「自分で言うことか、それ?」


「自身の事であるからこそ、はっきりと申し上げる事が出来るのです。――旦那様は愛されている、と」


「よせやい、照れるじゃねえか」


「……その様にはぐらかすのは些か男気に欠けるといつも思うのですが。旦那様はその辺りいかがお考えでしょう?」


「時と場合によっては戦略的撤退も止むなしだと思う」


「そうですね。確かに旦那様の仰られる通りかと。時と、場合により……ですが」


「今はその時と場合だった」


「そうでしょうか? 私はそうは思いませんが?」


「いや、そういう場合じゃないだろ。今はホラ――」


「? ――あぁ」




男に倣ってそれだけで人を殺せそうなほどの殺気を向けてくる『龍神』へと視線を向けて。


――一瞬で女の瞳に浮かんでいた僅かな感情、悪戯心とか好きな子をつい虐めちゃうみたいな何かとか溢れんばかりの愛情(?)などが消える。そして残ったのは視線の先のモノに何の価値も見出していない絶対零度の視線だけ。




「だからそう言うのは止めっ!」


「ぁぅ」




ごつん、と思い切り頭を殴りつけられて――それでも痛がっていたのは殴ったはずの男の側だったりするのだが、女は改めて涙を溜めた瞳を男に向けた。




「旦那様、酷いではありませんか」


「酷いじゃねえよ!? つか何で殴った方の俺の方が痛がっててお前の方が平然としてるんだよ!?」


「……きっと私は良い子を産めるはずです。良かったですね、旦那様♪」


「はぁ? いきなり何言いだすんだ、お前は」


「まるで理解しておられない旦那様にも分かりやすく、表現を砕きに砕いて粉塵にまでして申し上げると、私は頑丈な身体をしていますので生まれてくる子供もきっと元気な良いやや子である事でしょう、と言う事です」


「? まあお前の子供ならそりゃ元気っつーか頑丈なのが生まれるだろうな……と言うかそんな予定があるのか?」


「それは旦那様次第かと」


「……」


「旦那様次第です」


「……ふぅ、夢って、儚いよな」


「――それはどういう意味でしょうか、旦那様?」


「どういう意味も何もそのままの意味だ。ヒトの夢と書いて儚いと読む。うん、誰が考えたか知らないけどまさにその通りだよな」


「……旦那様は逃げてばかりおられるのでヘタレです、卑怯です、鬼畜です」


「ふっ、どうとでも言うが良いさっ。俺は俺の道を往く!!」


「……」


「……」


「しかし旦那様、急に張り倒そうとするなど酷いでは御座いませんか。せめて押し倒す方にして下さいませ」


「いや、あの。無視されるとそれはそれで寂しいのだが?」


「この際このような街中で……と言う旦那様の変態的な性癖には目を瞑りますので。優しくお願い致します、旦那様。乱暴が良いと言うのであればそちらでも構いませんが」


「いやぁ! さっきから何言ってるのかな、お前は!! 俺には全然、意味が分からないなぁ~!!!!」


「……旦那様、甚だわざとらし過ぎると苦言申し上げます」


「そんな事よりも、だ! 折角のモノ珍しい龍種の生き残りなんだからお前は消そうとするの止めろっ!!」


「ですが――」


「ですがも何もないっ。お前は俺の事になるとちょっと過敏っつーか過激すぎるんだよ、いつもいつもっ。お前はあれかっ、俺の保護者か何かかっ!」


「どちらかと言えば夫婦の関係を所望し」


「自分じゃもっと遥かに俺に酷いことしてるくせに他の奴らが俺に危害加えようとすると問答無用で殲滅しようとする癖はいい加減直せよな!?」


「夫婦の」


「一つの、つーか俺が絡むと俺の事しか見えなくなるのはお前の一番悪いところだぞっ。日頃から言ってるけど、お前はもう少し俺に対する依存てか過保護てか、そう言うモノをなくせ!!」


「……旦那様の方こそ私の保護者か何かですか」


「――似たようなものではあると思うのだが?」


「……」


「兎に角、先の事とかお前の悪癖を治す事とかは今はどうでもいいから、『龍神』サマを殺そうとするのは禁止だ。良いな!」


「了承いたし」


「ついでに死なない程度に痛めつけるとか半殺しにするとか精神的にプッチにするとかそう言うのも一切なしだからな、良いな!?」


「……」


「返事は!!」


「……旦那様の仰せのままに」


「――宜しい」


「……」


「……まあ、お前の不満も分からないではないけどさ。取り敢えず抑えとけ。街の様子から見てもあの『龍神』サマが悪い奴じゃないってことはお前だって分かってるだろ?」


「はい。旦那様に手を出そうとしたと言う許しがたい事実を除けば、旦那様の仰る通りに御座います」


「大体な、俺があの程度の奴に負けると思うか?」


「……ですが万が一という可能性が」


「ない」


「……」


「お前が心配ってのなら今ここで言いきってやるよ。俺が、あの龍種如きに後れを取る事はない。だから心配は一切無用だ。良いな?」


「……はい、旦那様」


「よし。……つーわけで、そろそろあいつの誤解つーか、勘違いでも解いておくか。これ以上あんなのと戯れる気も更々ねえし」


「旦那様は殿方相手には非常に冷たいお方ですからね?」


「そんな事はない……とは言い切れないか。まあ女性に優しくてのは確かだな。母親の教えなものでな」


「存じております」


「だったな」


「はい」


「……と、言う訳でさ。あいつの説得をしてきてくれよ」


「旦那様がされれば宜しいのでは御座いませんか?」


「いや、あいつ俺の言う事絶対聞かないだろうし。その点お前なら、あの野郎の勘違いも含めて絶対に言う事聞くはずだからさ」


「そうですね。不本意ではありますが、私の言う事ならば聞き入れて下さるでしょうね、あのお方は」


「ああ、と言う訳なんで説得宜しく」


「……了解いたしました」




◇◆◇




「――と言う訳ですのでそちらの龍神サマ? 聞き及んでおられたでしょうか?」


「――はっ。“姫”、“姫”はその小人に騙されているのです! オレがソレを排除して、時間が経てば“姫”もその事に気がつくはず……」


「仮にそのような事が出来たとして、その時あなたの命はありませんが?」


「この命が“姫”の為となるならばそれも本望です!!」


「……第一、あなたは勘違いされておられます。私はあなた方が崇めるべき、奉るべき“姫”などではない。……あのような愚物と一緒にされても迷惑だし」


「そのような事はありません! あなた様の魔力、それにその立派な銀糸の如き御髪はまさに皇族の証とでも言うべきもの――」


「くすんでおりますが?」


「それは……」


「龍種の皇族――直系とでも言うべきならば髪は銀色、確かにそうでしょう。ですが、私のこのくすんだ髪の色よりもはるかに澄んだ――先程あなたが仰られたように銀糸の様な髪のはずですが?」


「……」


「まあ、【厄災】にでも身を堕としたと言う線が考えとしては妥当なとこもありますが――」


「そのような事っ、“姫”が【厄災】に身を堕とすなどありえない事です!!」


「――、そうですね。つまりあなたの言っている“姫”と私とは別人と言う事になります。お分かりでしょうか?」


「そ、それは……」


「それに――あなたが私を“姫”と勘違いされるのでしたら、それは良いでしょう。所詮、私には関係のない事ですし」


「で、ですが“姫”」


「それよりも、私を“姫”とするのならばあなたに一つお願いがあるのですが、宜しいでしょうか?」


「はっ、“姫”の仰る事でしたら何なりと――」


「旦那様に危害を加えないで下さい」


「それは聞けま」


「いえ、理解しておられないようですのでこの際はっきりと申し上げましょうか。これはお願いと言うよりもどちらかと言えば命令です。私の旦那様に手を出すようならば――あなたをあなたの存在ごと過去現在未来永劫消し去ります」


「――」


「宜しいですね?」


「――は、いえ、ですが、しかし、」


「二度は申しませんよ」


「……、? ――い、いやまさか」




不意に、何かに気がついたように『龍神』の表情が驚愕に、それから混乱、或いは焦燥と思案に揺れた。


何故かちらりちらりと、男の方を見ては首を振って『いや、そんな事は……』などと呟きだす。それは一歩間違えれば妄想に取りつかれた異常者の様な振る舞いだった。




その突然の急変は、流石に気になった。何より急速に、『龍神』の男に対する敵意が薄まっているのが不可解だった。




「? 如何なさいましたか?」


「し、失礼ながら――大変の無礼、承知の上お尋ねいたしますが、」


「私などにそこまで畏まらずともよろしいですよ? それで、一体どのような事をお尋ねしたいと仰られるのでしょうか?」


「はっ、“姫”はまさかあの男――いえ、あの御方と【しんの契り】を結ばれた……のですか?」


「【しんの契り】?」




不思議そうに、心の底から不思議そうな、誰がどう見ても『理解していない』と言う表情を浮かべた女の姿に、『龍神』は安堵とも畏れともとれる溜息を重く吐き出して、




「はっ、いえ、オレの勘違いであるならばそれで――」




次の瞬間、動きを止めた。





「さあ? 私にはよく分からないのですが、一体何の事ですか、それは?」





にこにこと笑った――先程までも終始、『龍神』に向ける顔には表情と言うモノがなかったのだがここに来て初めて、満面の笑みを浮かべて微笑みかけてくる女の姿に見惚れて――。


同時に悟った瞬間、『龍神』の頭から血の気が引いた。




鬼気迫る表情で男の元に駆けつけた『龍神』はその勢いのまま、地面に両手両足身を投げ出して。





「――申し訳ありませんでした!!!!」



土下座した。




「数々のご無礼、非礼、お許しくださいませ、“王”よ――!!」





◇◆◇





「……ゃ、王って」


「旦那様、説得に成功いたしました」


「成功っつーか……お前、どんな説得の仕方した訳? と言うよりも何で俺が“王”?」


「さて? 私にはよく分かりませんが……」


「本当に?」


「……、――何でも龍種の皇族には【しんの契り】という、まあ簡単に言えば命の共有、魂の契りとでも言うべき神聖な儀式があるそうですよ?」


「あ? ああ、まぁそれは俺も知って――」


「そしてこの方は私を“姫”と勘違いされておられまして」


「ああ、そうだな。その所為で俺が酷い目に――、いや待て。もしかしてそう言う事?」


「はい、恐らくは」


「……つまりあれか。お前が“お姫様”で、それと“契り”を交わした俺が“王様”ってこと?」


「はい♪」


「……――なんつー傍迷惑な勘違いを」


「――勘違い?」


「いや怖いから、お前。その無表情で睨んでくるの止め」


「……失礼いたしました、旦那様」


「ゃ。……と言うか、まあなるほどね。それなら納得。そんで今は打って変わって俺にひれ伏してるわけだ、この龍神サマは」


「はい、旦那様。これでこの方が旦那様に手を出す事は、未来永劫ないかと」


「そうだろうなぁ。龍種ってのは随分と忠義に厚いみたいだし……というか、何だかなぁ~」


「如何なさいました? いつものようにこき使えばよろしいではありませんか」


「いや、別にこき使ってないし。てかどちらかと言えば俺がこき使われる方だったり?」


「旦那様も苦労されているのですね……」


「俺を扱き使ってるのはテメェだよ!?」


「……ぽ」






「――仲好き事で、素晴らしい事です、“姫”そして“王”よ。これであと“子”を作っていただければ次代も安泰か……」






「いやテメェも何ほざいてやがるんだよ!?」


「まぁ旦那様、この方も改めて見ると大変良いお方ですね」


「お前はお前で何態度をころりと変えてやがりますかっ!?」


「旦那様、子供はどうしましょうか?」


「どうもしない」


「旦那様、子供はどうしましょうか?」


「や、だからどうもしないからな? なに、その期待がこもってそうな視線」


「分かってらっしゃる癖に」


「分かってはいるけど、いや分かりたくないと言うか、いやそもそも!!」


「おっと、これ以上弄れば旦那様が逆切れしてしまいます」


「逆切れって意味ならもう十分してるよ!? つか弄るとか堂々と言うな!?」


「それで旦那様、そもそも……の続きは何でしょうか? 推測は出来ておりますが一応尋ねておきます」


「って、そういう風にコロコロ態度変えるのは止めてくれ。俺の方がついていけなくなるから」


「旦那様、ふぁいとっ」


「全然、嬉しくない励まされ方だな、おい」


「よし!」


「何の何処のどのあたりが『よし!』なんだよっ!?」


「いえ、余りに期待通りの効果が、ああこの場合は旦那様を励まさないように励ますと言う一見矛盾した試みですが、それが上手くいったのでその喜びを表してみました」


「……兎に角、原点に返るべきだと俺は思うんだ」


「――旦那様!? まさかこの街を平伏して『ぐはははっ、この街の女は全て俺様のモノだー。ひゃっほーい、ハーレム、ゲットだぜぃ』などと仰られるつもりで!?」


「いやそれ誰だよ!! つかその原点違うから」


「旦那様、少しは祭りを楽しんだ方が健全であり、良いかと思うのですが? この際ハーレムなどと言う旦那様の儚いと言葉に表すことすら必要にも及ばない夢など消して置きましょうね?」


「そうそれ! それの事だよ!!」


「……旦那様、ハーレムを諦められるので?」


「違う! そっちじゃなくて!!」


「ではやはり街を占拠――」


「いい加減話を進めさせろー!!!」


「――つまり旦那様はこの龍神サマとの諍いも解決したので、当初の予定通りに祭りを楽しみたいと仰られているのですね?」


「……分かってるんなら、初めから察してほしいと俺は思う」


「初めから察してはおりましたとも」


「……あぁ、成程。察してた“だけ”か」


「はい」


「……つ、疲れる」


「旦那様、折角の祭りを楽しむ前に疲れてしまわれるなど、祭りを楽しみにして眠れなかった子供のようではありませんか。ふふっ、少しは可愛いところもあるのですね。旦那様の新たな一面の発見とはいつでも嬉しいものです」


「いや……ゃ、もう良いか。余計なこと言ってもどうせまた疲れるだけだし」


「そうですね」


「……お前はそこは否定した方がいいと思う」


「事実ですので。否定する要因が御座いません」


「……はぁぁ、もういいや。さっさと祭りを楽しませてもらいたいんで――さっさとこんな結界の中からでるかー」


「はい」


「――んじゃ、龍神サマよ、これ以上ちょっかいとか出して、余計なことしてくるんじゃないぞー?」






「――心得ております、“王”。お二人の逢引の邪魔など不粋な真似は致しませんので、どうかご安心を」






「安心ですね、旦那様♪」


「だれが逢引か、誰が」




◇◆◇




メイドさんは今日もご機嫌です♪

……何か突発ですなぁ。

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