6. どれいとお宿屋
忘れてました。
「…ついたー」
「たかが街一つ渡るのに何そんなに喜んでるのよ?」
「いや、喜ぶ事は大切だぞ。具体的に言うとだな…」
「はいはい、分かりました。だから黙ってていいわよ」
「……なぁ、アル。レアリアの態度ってちょーと俺に冷たくない?」
「……」
「…やっぱり反応なし、か。まあ分かり切っていた事だけどな。な、アル―?」
「……」
「ひとりで何してるのよ、気味悪いわね」
「一人じゃないっ。ちゃんとアルと…あ、あのアルさーん、俺を無視してレアリアのところに行くの、止めてくれますかー!?」
「あんたの独り芝居はもういいから。それよりも宿捜すわよ、宿」
「ああ、それなら南の町はずれに格安のいい宿屋があるぞ」
「…へ?」
「だから宿屋だろ。『山のキリコ』っていう飲み屋の二階、あそこ寝所も価格もいいからお得だぞ」
「何であんたがそんな事知ってるのよ?…ここに来た事あるの?」
「ああ、ちょっと前にな。俺はこう見えても実に博識で交友も豊かだから」
「……」
「本当か、ってアルが疑ってるわね。ちなみに私もとうぜん疑ってるわ。あなた博識って意味取り間違えてない?」
「ちょっとは俺の事信用してくれたらどうですかー?」
「……」
「ちょ、アル。何故に俺から離れる!?レアリアのところにいく!?」
「……」
「ふふんっ、当然の結果ね。まあ、ちゃんとあなたの言ったとおりの宿屋があったら少しくらいは信用してあげなくもないわ」
「ちょ、そこから疑ってかかりますか…てか俺の信用ってどれだけないんだ?」
「ふんっ、あんな出会い方して、しかも私を傷モノにしておいて信用しろって方が無理な話よっ!!」
「……」
「ゃ、待てレアリア。…いや、ね。街の皆さんもそんな冷たい目で俺を見ないで、てか完璧な誤解だからきっとさー。俺は何も悪いことしてないよ、って、あぁその冷やかな視線は止めてー!!」
「…こうして傍で見てるとレムの行動って凄い茶番よね。アルもそう思わない?」
「……(こくん)」
「よねぇ。なんて言うか、自分から騒ぎ大きくしてるものね。……まぁ、だからこそそんなに悪い人じゃないって分かるんだけど。言動と行動はちょっとおかしいけど」
「いいさいいさ。俺は所詮誰にも理解されないロンリーウルフだよ」
「ウルフて、…ユーキ(サルのような生物)が精々じゃない?」
「…や、それは単に群れから逸れただけだからっ!!俺は別にそんな寂しい人じゃないからっ!?」
「……」
「ふふ、こんな俺を慰めてくれるのか?アルは優しいなぁ……で、俺の心を弄んで楽しいですか?」
「……(こくん)」
「ごふっ!?」
「…はぁ。漫才はもういいから。さっさとその山のキコリ…だっけ?に行くわよ」
「ああ、そうだな。…ちなみにキコリじゃなくてキリコだ」
◇◇◇
「あ、本当にあった」
「…レアリア、お前なぁ、俺を何だと思ってるだよ?」
「……、ヘタレ?」
「考えた末の答えがそれですか」
「もう一言?えっと、変人?」
「……」
「いや、もう何も言わなくていいから。後アルも何もしなくていいから。頼むから俺の繊細な心をこれ以上傷つけるような行為は止めてくれ」
「繊細って…誰が?」
「聞こえない聞こえない。……ちわー失礼しまーす」
「すみませーん。まだ準備中で……レ、レム兄?」
「おう、久しぶりだなーていうか大きくなったな、サリア」
「あ、うん、久しぶり。レム兄は全然……変わってないね。と、いうより本当に本物のレム兄なの?」
「まあな。こんないい男が他にいるか?」
「……間違いなくレム兄だね。こんなセリフを真顔で吐けるヘタレ顔の人なんてレム兄以外じゃ私見たことないものね」
「はっはっはっ、よせよ照れるな」
「…確実に貶されてるでしょ、それ。…あとちゃんと前に来た事もあったのね」
「俺は嘘は言わないぞ。あ、サリア。この二人、俺の連れでこっちのスタイルいい姉ちゃんがレアリアでこっちのちっちゃい方がアルな」
「ス、スタイルって関係ないでしょ、そんな事は。……はじめまして、レアリアです。えっと、サリア、でいいのかな?」
「あ、はい。サリアでいいです、レアリアさん。それとアルちゃんもよろしくね」
「……」
「えっと」
「ああ、悪い。アルは喋れないんだ。別に無視してるとかそう言うのじゃないから、気にしないでくれ、サリア」
「あ、うん。分かったよ。でも、………はぁぁぁぁぁぁ」
「な、なんだ。そんな大きなため息吐いて。どうかしたのか?」
「レム兄ってさ、いつも女の人連れてるよね、しかも毎回違う人。こういう人ってどういうんだったっけ?確か……誑し?」
「…サリア、そんな言葉どこで覚えたんだ。いいか、俺は別に誑しなんかじゃない。決してポイ捨てはしてないからな」
「それ、威張って言う事じゃないわよ」
「……(こくん、こくん)」
「うるせ。それよりサリア、宿取りたいんだが、空いてるか?」
「うん。えと……何部屋?」
「ひと――」
「二つお願い。――それでいいわよね、レム?」
「――レム兄?」
「…ナニカ、二人とも目が怖いんですけど、ナゼデスカ?」
「「さあ?」」
「……では、二部屋でお願いします」
「うん、二部屋ね。分かった、大丈夫だよ」
「そ、そか。じゃあ頼む。あと何か軽く食べれる物でも作ってくれるか?」
「…本当はまだ準備中なんだけどなぁ。まぁ、レム兄の頼みだし、久しぶりに会ったって事で、うん。分かったよ。オーダーはお任せでいい?」
「ああ…て、サリアが作るのか?」
「うん。て、レム兄は私じゃ不満?」
「いや、そんな事は……まあ、成長に期待しよう」
「うんっ、期待してていよ。私も張り切っちゃうからっ♪」
「ああ、頼むぞ……て、もう行ったか、早いな」
「ね、レム。少し聞いていい?」
「お、なんだ、レアリア。なんでもいいぞ、どーんと来い」
「随分と仲が良さそうだったけど、あの子とはどういう関係なの?」
「んー敢えて言うなら近所のお兄さん、かなぁ?しばらくこの街に滞在した事があってな、小さい頃にちょっと遊んでやった事があったんだ。その頃から何故か懐かれてるんだよ」
「小さいって……それほど年も変わらない気がするんですけど?」
「まあ昔の事だ。気にするような事じゃないさ」
「…分かったわ」
「そうだ、アルー。楽しみにしてろよ。久しぶりにあったかい御飯が食べられるからなー」
「……(ふるふる)」
「ど、どういう意味でしょうか?」
登場人物紹介
サリア
宿屋の娘さん。その昔レムくん拐した!?女の子。
ちょっと背伸びしたいくらいのお年頃?実年齢の程は想像にお任せいたします。
…ちなみにレムくんに女の子をかどわかせるはずもない。冗談ですぜぃ?




