ど-446. 明日からがんばれる事もきっとある
……ふぅ
「俺、今のままじゃ駄目だと思うだ」
「今更で御座いますね」
「今更なのか!?」
「はい。ご自身を見つめ直す必要もないくらいに旦那様がダメダメダメなお方であると言う事は相違御座いません。アレですね、不出来な子ほどかわいいとは申しますが、流石にモノには限度があると申し上げさせていただきましょう」
「い、いや。流石にそこまでダメなやつじゃないと思うんだ、俺って」
「そうですね、旦那様。旦那様が仰られるのでしたらそう言う事にしておきましょうか?」
「やめてー!? その生温かそうな視線は止めてー!?」
「私、そのような視線は向けておりませんが? 旦那様に向ける眼差しは常に慈愛精神に満ち溢れたモノであると自負しております」
「ないだろ、それは」
「いいえ。こればかりは旦那様に如何様に言われようと譲るわけには参りません」
「……まあ、そんな事はどうでもいいけど」
「よくありません」
「いや、うん、そうだな。きっと俺とお前で慈愛に対する概念が違ってるんだろうな」
「そのような事実は御座いません。何故旦那様はこんなにも慈愛に満ち溢れている私を御疑いになるのですか? 人間不信ですか、それとも対人恐怖症ですか、はたまた愚図にも劣る低能無能不能な旦那様ですか」
「今、最後に関係ないのがあったぞ?」
「ちなみに最有力候補は最後の色々とダメな旦那様なのではないかと考えております」
「だから俺は駄目じゃないと……いや、この際だ。話を元に戻そう」
「それもそうですね、ダメダメダメダメな旦那様」
「……何でさっきよりも駄目が一つ増えてるんだ?」
「旦那様が私の慈愛精神を認めて下さらない照れ屋だからで御座います」
「いや、照れ屋とかじゃなくて本気でお前のどこに慈愛が? とか思ってるからな?」
「またまた、そのような御冗談を」
「いや、冗談じゃなくて」
「またまた、そのような御冗談を」
「や、だから冗談じゃ――」
「またまた、そのような御冗談を」
「……」
「またまた、そのような御冗談を」
「……」
「またまた、そのような御冗談を――、と、旦那様は何度この台詞を私に言わせるおつもりで?」
「いや、黙ってたら何回くらい続けるかな、と」
「本当に旦那様が御冗談がお好きなのですね」
「とか言いつついそいそと出してるそれは何!?」
「旦那様撲滅☆調教♪愛の鞭ですが、見て分かりませんでしたか?」
「鞭ってのは分かるが……そもそも鞭の前に“愛の”とかをつければ何でもいいってわけじゃないと俺は思うんだ」
「では短くまとめて旦那様専用お仕置きようの鞭と言う事に致します」
「そのままっ!? つか、俺はお前にお仕置きされるような事は何もしてねぇ!!」
「……」
「……」
「いえ、旦那様のお好きな軽い冗談ではありませんか。何を本気にしておられるのですか?」
「直前の沈黙は何だ」
「器の小さな殿方は嫌われますよ、旦那様っ♪」
「いや器云々の問題じゃないと思うんだ、と言うか何故に嬉しそう?」
「旦那様がモテない様子を想像しておりました……あ、今まさにその通りですか」
「俺、泣いていいか?」
「存分にどうぞ。さあ旦那様、私の腕の中に飛び込んできて下さいませ」
「……」
「……」
「さあ旦那様――」
「いや、跳び込まないからな?」
「……」
「何でまた鞭取り出そうとしてるのお前!?」
「冗談です」
「全然冗談に見えなかったんだが……つか冗談とか言い張る気ならせめてその鞭をしまおうぜ? って、何素振りとかしてるんだ、お前」
「いえ、腕が鈍っていないかと予行演習を少々」
「少々……とかじゃないだろ!? 冗談だよな、今のも冗談――そうだと言ってくれ!?」
「……」
「……」
「いつもの軽い冗談では御座いませんか、旦那様。何をそのように慌てておられるのですか?」
「だから今の間はどういうつもりだー!!??」
「言ってよろしいので?」
「いやごめん。やっぱり言わなくて良い」
「左様で」
「ああ」
「所で旦那様、先程ようやくご自身のダメさ加減に気がついて、『俺、このままじゃ駄目だと思うんだ。そろそろ、お前の気持ちにも答えてやらないといけないし……』などと仰っておられましたが、どのような心境の変化ですか?」
「言ってない言ってない」
「それで旦那様、どのような心境の変化なのですか?」
「スルーする気か!?」
「はい」
「……、まあ、別にそんな特別な心変わりとかじゃなくてな、前々から思ってたんだよ、俺は――」
「このままじゃ駄目だ、いやもう俺の存在自体が駄目なんだ、……もう死ぬしかないのか」
「そうそう、そんな感じ――って違うわっ!!」
「旦那様、その様に仰らないで下さいませっ、旦那様に先立たれると私は生きていけませんっ!!」
「……」
「旦那様は私にも死ねと仰るのですかっ!!」
「……」
「……何か仰って下さらないと寂しくて旦那様を殴り飛ばしてしまいそうです」
「いや、自分だけで盛り上がっておいてその言い方はどうかなーとか思ってただけだ」
「旦那様もノリノリでツッコミを入れておられたではありませんか」
「思いっきり無視したけどな、お前」
「それだけの価値が旦那様に御座いませんでしたので」
「え、ないのって俺の価値なの?」
「はい。当然では御座いませんか」
「当然なのか!?」
「何度も申し上げているとは思いますが、旦那様には私の旦那様であるという以外にどのような価値があるとお考えなのですか? 今一度お聞かせ願いたいのですが?」
「色々とあるだろ、色々と」
「例えばどのような?」
「館の奴隷たちのご主人様とか、実は影の権力者とか、俺ってこう見えてめちゃくちゃ強いんです? とか、俺が死ねば全世界の女の子たちが哀しみの涙で枕を濡らすのは間違いないっ! とかさ。ほら、色々とある」
「そーでございますねー、旦那様のおっしゃるとおりかと私もおもいますー?」
「滅茶苦茶やる気のない返事で認められてもそれはそれで逆にムカつくんだが!?」
「では旦那様は私にどのような事を期待されておられるのですか? 存じ上げてはおりますが形式美として一応尋ねておきたいと思います」
「俺はこれを機に生まれ変わろうと思うっ!! そしてお前はそんな俺の雄姿を見て改めて俺に惚れ直すが良い!!」
「……ぽっ」
「いやいやいや、まだ俺何もしてないから」
「おや、少し早すぎましたか」
「少しもなにも全然早いわっ!! ……つか、今から惚れ直す気満々ってのも思いっきり演技じみててそれはそれどうかなーとか思うんだが」
「ご心配なく。今更惚れ直す必要もないくらいに、私は旦那様に心酔敬愛惚れきっておりますので」
「……――あぁそう」
「はい」
「……、兎に角、俺は今後駄目な自分を徹底的に鍛え上げていくつもりなのでそこのところヨロシクッ!」
「はい、今のところ、ダメ出し一つ入りまーす」
「何処が!?」
「もう、本当に旦那様はダメダメで御座いますね♪」
「だから何でそんなに嬉しそうに言ってるんだよ、お前は」
「まあ旦那様がご自身を見直したいと仰られるのでしたら私に否などあろうはずもないですし、お止めする気も毛頭御座いませんが、」
「止める気はないけど?」
「私も微力ならがお手伝いさせて頂きま――」
「謹んで遠慮します」
「……即答で切り捨てられてしまいました」
「よっしゃ、頑張るぞ、俺ー!! ……まあ明日から」
「やはり旦那様は旦那様らしく、これは駄目そうですね」
【シャトゥちゃんの冒険-with Blue Sky-】
「潰しても潰しても出てくるのは通称黒い侵略者とレムだけで十分なのです」
「そうだね。俺もそう思うよ、シャトゥルヌーメ。あいつらは本当に潰しても潰しても出てくるからね。本当、困ったものだ」
「と言う訳で今すぐ私の視界から消えて下さい、見知らぬ何方か」
「はっはっはっ、嫌だなぁ、シャトゥルヌーメも冗談が好きなんだから」
「いえ、今すぐ消えて下さい、青いマザコン」
「マザコン? 俺が? ふっ、俺が愛して止まないのはシャトゥルヌーメ、君だけさっ」
「……うむ?」
「? どうかしたのかい、可愛い可愛い、俺のシャトゥルヌーメ」
「……今にも何かに覚醒めそうな感じなの」
「病気か何か? それはいけない、早く何とかしないと――」
「今こそっ! 必堕のっ!! ――『おーる・ふぃんがぁぁぁ』」
「んむっ!?」
「ブ――レイク、アンド……ですとろい」
「――」
「……ふぅぅ、何だか少しすっきりしました。良い気分なの」
きゅ?
「うむ、ルル。ゴミは放っておいて、行きましょうか」
きゅ~!
「れっつ、ごー」
成長していく赤い子?
『おーる・ふぃんがぁぁぁ』
シャトゥ、108の必堕技の一つ。必ずオチる技、と書いて必堕技。
停止時間の中で相手に忍び寄って、気付かれないうちに黄金に輝く五指で相手の顔面を鷲掴みにして『ブレイク&ですとろい』の掛け声とともにそのまま握り潰す、もはや反則と言うかチート技。当然回避不可。
ちなみに握りつぶすとか言ってもダメージは相変わらず精神的なモノオンリーな安全(?)超絶技。