ど-437. 終止符
色々な意味での……
人生諦めが大切な時もある。
「なあ、俺、思うんだ」
「何をでしょうか、旦那様」
「ヒトって、……どうして生きてるんだろうな?」
「……」
「なあ、お前はどう思う?」
「私にそのような事を尋ねられても困るのですが、少なくとも私は旦那様の為にのみ生きております」
「……そうか」
「はい」
「なら、そう言うお前に一つ提案なんだが、」
「見逃してくれ、と言う懇願でしたら地に両手両足両膝をついて額も擦りつけながら哀願すると言うのであれば考慮だけして差し上げます」
「……そこまでしてするのは考慮だけなのか」
「はい、当然では御座いませんか旦那様」
「そして当然なのか……」
「では旦那様、私の方からも一つ提案があるのですがよろしいでしょうか?」
「諦めろ、とか言うのだったら却下」
「ならば仕方ありません。力づくでも旦那様を捕えねばなりませんね♪」
「……心無し、仕方ないとか言ってる口が笑ってるように思えるのって俺の気のせいか?」
「いえ。抵抗はされた方が狩る側としても楽しいですし、旦那様の視力・知能の著しい低下、ないし見間違いでは御座いません」
「……そもそもさ、どうして俺たちって追って追われてな感じになってるんだ?」
「旦那様が逃げるからかと」
「なら俺が逃げなかったら?」
「捕えて拷問、」
「それは逃げるだろ、普通」
「と言うのは冗談で、精々が堅牢な牢屋に放り込み、お勤めをなさって来られるという程度でしょうか」
「それ、十分“程度“とか言うレベルじゃない気がする、つか牢にぶち込まれるような事をした覚えは……まあ最近はないし、普通に逃げるだろ」
「では旦那様を捕まえた暁には記憶喪失にしてその体験談を聞いてみると言う事で一つ、ご納得いただければと思います」
「……そう言えば初めはそんな事が理由で逃げ出してた気がする。何か途中から『捕まってはなるものかっ』的な感じになってたから忘れてたが」
「旦那様との追いかけっこも非常に楽しいもので御座いました。ですが、そろそろそれにも終止符を打ちましょうか」
「……そうだな、俺としてもいい加減、逃げ続けるってのには飽きてきたし、そもそも性に合ってないしな」
「いえ、旦那様の性には合っておられるかと思います」
「いいや、合ってないね。俺はどちらかと言えば逃げるよりも責める方だ」
「……それもそうですか。旦那様は意地が悪いですから」
「ふっ、まあな」
「褒めてはおりませんが?」
「まあまあ。――で、そろそろ決着をつけようと思う訳だが、ここで俺が逃げ切ったら俺の勝ち、お前が俺を捕まえられたらお前の勝ちって事でどうだ?」
「随分と私に有利な条件ですね?」
「いいや、そんな事はないさ。この前の事とか、俺はお前から逃げ続けてるってのを忘れたか?」
「あのような偶然、三度も続くと思いで?」
「二度あれば三度目の奇跡だって十分に起こせるさっ」
「そもそも、独力で何とかしようという気概はないのでしょうか、この旦那様には」
「いや、だって普通に身体能力オンリーでお前から逃げ切るとか無理だろ」
「確かにその通りでは御座いますが、私としては旦那様には気概と言うモノを見せていただきたいと思います」
「気概とか気力でどうにかなれば世の中はもっと平和になってるっての」
「もしくは、より混沌に、でしょうか……?」
「ま、その可能性も……って、今はんな事はどうでもいいんだよ、ってかいつの間にか詰め寄ってきてるし、油断も隙もない奴だな、おい」
「――それに気づかれるのは旦那様くらいのモノですよ?」
「だろうな。凡人だと気がついた時には捕まってるっていうパターンか。伊達にお前の事を知りつくしちゃいないぜっ」
「そのようなお言葉……照れます」
「照れるならもっと思う存分に照れてろよ。そうすればその隙に逃げられるかもしれないし?」
「それはお断りを。私の打算にかけても旦那様を捕まえて見せましょう」
「や、打算て……」
「――そこですっ」
「なん、のぉぉぉ!!!!」
「と、威勢良く叫んでおられる旦那様では御座いますが、あっさり捕まりましたね?」
「……うん、捕まったな」
「今回は何の助けもなく」
「ああ、何の救いもなかった」
「と言う訳で私の勝ちですね、旦那様?」
「ああ、そうだな。お前の勝ちだな」
「――さて、旦那様の扱いはどのようにいたしましょうか。ふ、ふ、ふ」
「……お手柔らかにお願いします」
「ご心配なさらぬよう、旦那様。私が旦那様の事を手ひどく扱った事など今まで御座いましたでしょうか?」
「くそっ、何とでも逃げないと俺の命がっ――!!」
「まあ、酷い旦那様。くすくすっ」
「だーかーらー、その無表情で笑い声上げてる時点でもう怖いんだってばー!!!」
「では旦那様、お覚悟を?」
「何かもう……まな板の魚の気分だ」
【ラライとムェの修行一幕】
「はぁぁ、疲れがとれるなぁぁぁ。良いなぁ、温泉」
「……くー」
「――って、師匠寝ないで下さい、と言うか何普通に男湯に入ってきてるんですかぁぁ!?」
「……くー?」
「ああもうっ、そんな恰好、視線の向けどこ――」
「……、――っっ!?!?」
その後は、記憶に御座いません?