ど-435. 追いかけっこ
残留思念、もとい残念思念のルーロンさん。
「――ふっ、俺も舐められたものだぜ」
「何がでしょうか? それと追いかけっこを始めてこれで十日目、そろそろ旦那様の体力も限界であると推測しておりますが?」
「だから――それが舐めてると言っている!! 俺の限界はまだまだこんなものじゃ、」
「おお、旦那様が、……」
「ないのだが、今日の所はこの程度で許してやろう」
「……」
「……」
「……」
「ふ、ふんっ、まだまだ限界なんかじゃないんだからなっ!」
「いえ、私はまだ何も指摘しておりませんが」
「と、……兎に角だ。俺としてはまだまだ楽勝なんだが、お前の気持ちも汲んでだな、」
「私としては旦那様を追いかけ追いつめ、精神的体力的に疲労させた後にねぶる様になぶる様に仕留めていく過程にしだいに楽しさを覚えてきたところなのですが?」
「そんなモノに楽しさ覚えなくて良いからっ!!」
「左様で」
「左様だ!」
「では仕方ありませんので、一気に旦那様を捕える事に致しましょう」
「何でそうなるっ!?」
「旦那様との追いかけっこ、久方振りに心躍る時間に御座いました」
「俺もお前とは違う意味でどきどきだったけどなっ!」
「旦那様を捕えた暁には、是非とも旦那様に記憶喪失の体験談を語っていただきたく、」
「未だその気でいたのかっ!?」
「それは勿論。今の私は一度気になったら、それを解決しなければ気が済まない性分らしいですから」
「らしいとか言うなっ、自分で自分の性分をらしいとか言うなっ!!」
「では参ります、旦那様」
「――だからっ、俺を舐めるなと言っている!!」
「……いえ、旦那様に対して舐めて掛かるなどとんでもない。当然、私も全力で向かわせて頂きます」
「あ、いやごめん。やっぱり舐めて掛かってくれると嬉しい、かな~?」
「では旦那様の希望で舐めて掛かる事に致します」
「是非そうしてくれ」
「しかしどちらにせよ、舐めて掛かろうとかかるまいと手を抜く気は御座いませんが」
「何故に!?」
「獲物がなんであろうと常に全力を尽くすのは当り前で御座います」
「……そう言えばお前ってそう言う奴だったっけ」
「はい、旦那様」
「……そうすると、だ。俺がする事は一つだけってわけだ」
「そうなりますね?」
「――逃げるっ!!」
「のは承知しておりますので無駄で御座います、旦那様」
「くっ、やっぱり機動力はそっちの方が上かっ」
「はい。ですのでどれだけ逃げようとも、こうして回り込むのは不可能では御座いません」
「なら――」
「旦那様に残されたのは搦め手のみと言う事です」
「だな。こんな風に、――なっ!」
「……それで旦那様、こんな風にとはどのような?」
「いやごめんなさい。何も思いつかなかったけど、取り敢えず何かありそうにしてみただけです。ほんと、ごめんなさい」
「つまりはこれでチェックメイトということですね。では旦那様、大人しく、そしてお覚悟を――」
「あ、あんなところにシャトゥが!!」
「そのような陽動に私が乗るとでもお思いでしょうか?」
「ちっ、なら――……あ、ルーロン」
「ですからその様な陽動――」
『るん♪ るん♪ るんらら~♪ 第二の人生、ハッピー、カムヒァ♪ あぁもうしつこいっ、食い逃げ食い逃げって何なのよ一体っ!!』
「……」
「……」
「嘘じゃないぞ?」
「……頭痛がします。――あの残念思念っっ」
「そして後に続くは大量の追手の方々、もとい食べ物屋さんとかその他色々。さあ、お前はどうする――?」
「相変わらずの悪運で御座いますね、旦那様は?」
「そう褒めるなって」
「今回は旦那様に勝ちを譲りますが、次もこういくとは思わない事で御座います。どうかお覚悟を」
「ふっ、そう軽口を言ってられるのも今のうちだけだがなっ、と言う訳で俺は逃げる!!」
「……旦那様には逃げられてしまいましたが、仕方ありませんか。旦那様の方はまた追いつめれば良いだけのことであり……先ずはお店の方々に、あの残念思念に代わり支払いをしなければ…………どうして私がこのような事をっっ」
【ラライとムェの修行一幕】
「師匠! 今日こそは一本取らせてもらいますからっ」
「良い心意気。それでこそ男の子、うん」
「そんな軽口を言ってられるのも今のうち――」
「……でもやっぱり遅い」
「くっそぉぉぉ」
「……がんばれ、男の子っ」
比較的、平和な一日。何処かのメイドと旦那様の二人とは違って。