ど-433. にゅあんす
うたたねで、気がついた時、日が暮れて
「旦那様はいやしすぎであると思うのです」
「随分と唐突だな、おい」
「そうでしょうか? 私は常々思っていた事なのですが」
「お前が常々思っていたとしてもそれを口に出すのと出さないのとじゃ大きな違いがあるってことだ」
「その程度は察して下さると嬉しいです」
「いや、無理だろ」
「私に出来る事ですので旦那様にも可能と考えます」
「お前に出来るからと言って俺にも出来るとは限らない、つかむしろお前に出来て俺に出来ない事の方が多いと思う」
「旦那様は少々ご自身を過小評価し過ぎでいらっしゃいますね」
「そうかぁ……? って、俺の分析とかはどうでもいいんだよ。それよりもさっき、なんて言ってたっけ?」
「旦那様はいやしすぎると思うのです、の事でしょうか?」
「ああ、それ。それだ」
「常々思っておりましたが、やはり旦那様はいやしすぎであると思います」
「そ、そうでもないけどなぁ」
「……何を照れておいでで?」
「いや、まさか俺がそこまで癒し系の男だったとは思いもよらなくてな、つい」
「……卑し系?」
「まあ、それ程でもあるけどなっ!」
「確かに旦那様の仰る通りかと」
「だよな、だよなっ」
「常に私と言う、自分で言うのもなんですが絶世の美女が傍に侍っていると言うのに何の不満があると言うのですか」
「……今の言葉のどこに俺は突っ込めばいいんだ? あと、急に何を言い出す?」
「この卑し系めっ」
「そう褒めるなって」
「……」
「まあ? 俺ほどの男にもなればそこにいるだけで周りを癒してしまう程の実力を備えてるんだけどなっ」
「いるだけで周りを卑し……――あぁ、成程」
「? 何が成程なんだ?」
「いえ、何でも御座いません。それよりも旦那様」
「あ? 何だよ」
「確かに旦那様はいるだけで、色々な意味合いで周囲の女性を引きつけてしまう程のお方……卑し系ですねっ」
「ふふんっ」
「……憐憫すら覚えます」
「は? 何が何だって?」
「いいえ、何でも御座いませんよ。卑しい卑しい旦那様」
「……んんっ?」
「如何なさいましたか?」
「いや、何か、お前が言ってることと……何か食い違いがある気が」
「ご心配なさらぬよう。私と旦那様の心は常に通い合っているでは御座いませんか」
「……どちらかと言えばお前の一方通行の気もする。しかも俺にとっては理不尽極まりない感じの」
「そのような事は御座いませんとも」
「……何か心無し、お前が心の中でほくそ笑んでいる気がする」
「ええ、やはり旦那様と私の心は通じ合っているかと」
「そうかなぁ? ――って、それってつまり今お前が俺の事を内心バカにしてたって認めるわけか」
「バカになどしておりません。内心旦那様を微笑ましく思っていた事は否定しませんが」
「それとバカにしてるのと何が違う」
「……ふふふ」
「その笑いの意味を簡潔に述べよ」
「例えるならば童が悪戯を仕掛ける様を見守っているような気分、でしょうか」
「ああ、成程。ああいう……って、そりゃ益々どういう意味だよっ!?」
「ふふっ、やはり旦那様のお傍におりますと、大変癒されます」
「くっ、また俺をバカにしやがって」
「……いえ? そうとも限らないですよ、旦那様?」
【ラライとムェの修行一幕】
「……がんばれ、ムェ」
「しししし師匠っ!?」
「私は、寝る」
「無理です無茶です助けて下さいよぉぉぉ!?」
「大丈夫、地竜一匹程度、何とかなる」
「なりません出来ません、ってかヒト相手に竜相手はむりですよっっっ」
「なせねばならせる、レム様を、と――」
「それは前にも聞きましたっ! それでも言いますよ、これ相手は無理だって――」
「……よし、釣れた。カモン、地竜」
「うそぉぉぉぉ!? ししょ、だから助け」
「……くー」
「ってもう寝てるしっ!?」
「……くー」
「こ、こうなったら師匠を盾にしてでも――秘儀、師匠バリアー!!!!」
「……くー、んんっ?」
「……、……、……って、いくらなんでも寝ぼけて竜を倒すとかって、ありですか、師匠」
「……くー」
くー