ど-432. 前へ
てくてく歩く、そして歩く。
「後退? いやそんな事はありえないな」
「……」
「俺が進むべき道は前のみ、見るべき先も前のみ。倒れるならば前のめりにでも倒れてやるさ」
「……」
「さあ行くぞっ、俺たちの未来はこの先にあるっ!!」
「……で? ご丁寧に俺の声色まで作って、結局のところお前は何をしたいんだ?」
「いえ、旦那様もこの程度の事を仰って下されば宜しいのに、と言う軽い願望を表現してみました」
「つか、そもそもこの先とか進むべき道と勝手何処よ、って話な訳だが」
「それはまだ見ぬ未来か何かではないですか? 旦那様の御心など、私は存じ上げませんが」
「や、それ元々お前が言ったことだし!?」
「私は旦那様のお気持ちを代弁したに過ぎません」
「お前が俺の気持ちを代弁とかする場合、間違っている可能性が500%くらいはある」
「五倍増しでお得ですね?」
「ああ、つかここは本来の情報に対して五倍増しに間違った方向へ軌道修正しようとしている驚愕過ぎる事実に気づけ」
「故意ですので存じ上げております」
「……うん、相変わらず悪意に満ちた間違いだな、それは」
「それは異なります、旦那様。悪意ではなく愛情と呼んでいただければ幸いかと」
「無理」
「左様で」
「ああ。……まあ、今のお前の言葉に賛同してる事が一つだけあるけどな」
「そうなのですか?」
「ああ。てか、俺は一つ物申したいんだが」
「如何なさいましたか、旦那様? 愚痴ならば私がいくらでもなんなりと、聞き流して差し上げますが?」
「聞き流すのかよ」
「話せば楽になる事も世の中には御座います」
「でもそれを誰も聞いてないんじゃ、ただのバカみたいな独り言と何ら変わりがない気がするのは俺だけか?」
「ご心配なく。旦那様はそのような事をせずとも十二分におバカであると断言いたします」
「それはそもそも、心配するしないの問題と違う気がする」
「つまり旦那様は無用な心配などする必要がないと言う事です」
「まっ、それもそうか。でもな、第一俺は無用な心配はしてないつもりだぞ? お前がいるしな」
「……、はい旦那様」
「――ん? もしかして少し、照れてる?」
「はい。旦那様の只今のお言葉に胸を貫かれてしまい、惚れ直している最中に御座います」
「そうか、そうか」
「はい」
「……で、話を戻すんだが俺は一つ言いたい訳だ」
「先ほどもそう仰られておりましたね。如何なさったのでしょうか?」
「――後ろのあれは一体いつまで付いてくるんだよ!?」
「後ろの……ああ、青色ゼリー聖遺物、通称KSの事ですか」
「そうだよ!? 一体どんなつもりだか、必ず一定以上離れて俺たちの後をついてくるし、あの大きな眼に見つめられてるような気がして落ち着かないしっ!? もうヤダよ、俺!!」
「しかし破壊してもすぐに再生ししてしまいますが?」
「なら氷漬けとか封印とか、色々と方法があるだろう!?」
「それは一通り試したでは御座いませんか。旦那様も承知のはずでは?」
「……うぅ、何でそう言うところだけ聖遺物っぽく強敵なんだよ、あの青色ゼリー」
「ぷるるんボディとくるりんアイ、見様によっては愛らしいでは御座いませんか」
「でもなぁ、お前は愛らしいとか思えるかもしれないけど、俺は」
「いえ、KSの事は私も不気味なだけで愛らしいとは微塵も思いませんが?」
「ならさっきの発言は何だよ!?」
「旦那様ならばもしや、とも思ったのですが――やはり無理でしたか」
「無理だよ、そしてこれ以上はやっぱり無茶だよ。……何とかしてあいつをどうにかする方法を考えなければ」
「――いっその事、全力で殲滅しては如何で?」
「いや、いくらなんでもそれは可哀想だろ。アレだって一応俺たちの後をついてきてるだけで、取り敢えずはなんの害もないんだから。問答無用で殲滅とかはダメだ」
「……そのようなところは、旦那様は旦那様であると思います」
「なんだよ、今更甘い、とかでも言う気か?」
「いえ、そのような事は微塵も。私はただ旦那様らしいお言葉である、と申し上げただけに御座います」
「……――あ、そ」
「はい」
「しかし本気でこれ、どうにかしたいんだが……」
「一応、余り気は進みませんが最終手段が御座います、旦那様」
「最終? どんなだ?」
「シャトゥに贈りつけると言うモノですが――」
「よしやろう、今やろうっ、すぐやろうっ!!」
「……一切躊躇いが御座いませんでしたね、旦那様」
「偶にはあいつも、苦労とかいう単語を知ればいいと思う。そして世の中の奴らは偶には俺の苦労を知ればいいともっと思う」
「おっと、ここで旦那様の本音が漏れました」
「……いや、どちらかと言うとお前に対する愚痴なんだが?」
「ではKSをシャトゥに贈りつけるとしましょうか」
「……俺の言葉はスルーなわけね。つか、そう言うお前だってシャトゥに厄介事をすりつける気満々じゃねえか」
「若い頃の苦労は買ってでもするものであると私は思うのです」
「まあ、それは確かに?」
「と、言う事ですので、KSはシャトゥへと贈ります」
「ってか、シャトゥの現在位置とか分かるのか、お前?」
「はい、最近は割合頻繁に連絡を取り合っておりますので――あちらの方でしょうか。では――」
「つかどうやって贈りつけ……いやいや、放り投げるとかは流石に無理があるだろ」
「投擲、開始」
「――」
「……若干、方向が狂ったかもしれません」
「……星になっても、達者で暮らせよ、青色ゼリー」
「では、私たちは前へと参りましょうか、旦那様」
「ああ、そうだな。……行くか」
「はい」
【ラライとムェの修行一幕】
「きょえぇぇぇぇ」
「……くー」
「ちょほぉぉぉぉぉぉ」
「……くー」
「ひょわぁぁぁぁぁぁぁ」
「……ムェ、うるさい」
「ぜっ、ぜっ、ぜっ……だ、だからどうして全然当らないんだっ!?」
「それはムェが未熟だから」
「……うわぁ、それをずっと眠ってた師匠にだけは言われたくないけど、でも実際当たらないし」
「……くー」
「凄く、悔しいなぁ、これ。くそっ、絶対師匠に一発、当ててやるっ!!」
「……頑張れ、ムェ。……くー」