ど-49. いたい……遺体ではない
本作品に猟奇的な描写は含まれておりません。
主人公はどつきまわされたりしますが…恐らく気のせいです。
「…頭痛ぇ。流石に昨日は久しぶりに飲みすぎたか。薬、薬…と」
「どうぞ、旦那様」
「お、ありがとな……て、お前の方は昨日俺の五倍ほどは飲んでた癖にぴんぴんしてるのな」
「旦那様とは身体のつくりが根本から異なりますので」
「…あぁ、いや、そうだったね。…くそっ、絶対いつか酔わせてこの苦しみを味わわせてやる。いや、いっその事そういう効果のある薬でも調合してみるか?…ふむ」
「そんなっ、旦那様は私を酔わせて如何なされるおつもりですか…?」
「いや、別に何も考えてないけど」
「酔わせてその隙に女性に襲いかかるなどヘタレで鬼畜極まりない旦那様の行いとしては至極まっとうな事でございますね。ですがそのように記憶の覚束無いような不確かな状況での行いは謹んで辞退させていただきたいと、申し上げさせていただきます」
「そんな事考えてなかったけどな。くっ、そこまで言うなら俺も男だ、敢えて乗ってやろうじゃないかっ」
「…おとこ?」
「いや、お願いですからそこに突っ込むのはやめていただけますか?何か、こう、根本から否定されてる気分なので」
「いえ、ですが旦那様。僭越とは存じ上げますが進言させていただきます」
「…な、なんだ?」
「旦那様がお望みであられるのでしたら私としてはいついかなる時いかなる場合を持ちましてもその類い稀なる貧欲かつ低俗な妄想もとい欲望を解消させていただいて結構でございます。なんでしたら今すぐにでも…ちらり?」
「とかいいつつ服を脱がない、肩を見せない……て、どうしてそこで悲しそうな表情を浮かべる、いや逆に冷笑を浮かべられても俺としては反応に困るわけだが」
「まあ先ほどのはあくまで本気ではございますが戯れには違いありません。それよりも旦那様、お水をどうぞ」
「お、悪いな。……ん、これで、まあしばらくすればこの気分の悪さはマシになるか」
「ちなみに旦那様、おひとつ伺ってもよろしいでしょうか?」
「なんだぁ〜?」
「特に意味は御座いませんが、あちらの棚の中にありました薬物はどのような効果があるのでしょうか?」
「あっち……、頭痛薬だな。頭の痛みが和らぐ奴じゃなくって逆に頭痛を起こせる方の。あと微妙にテンションが高くなる効果があったかな?」
「…そうですか。それと旦那様、遅ればせながら一つご報告させていただきたいのですが、今よろしいでしょうか?」
「あ〜あ、いいぞー」
「あちらの棚から薬品が数点、紛失いたしておりました」
「……、マテ」
「はい、なんでございましょうか、旦那様」
「今までの話を総括すると、だな。……お前、いま俺に何を飲ませた?」
「異な事を仰られます」
「異な事、はいいから、何を飲ませたか言えよ」
「旦那様が二日酔いの際によくお飲みになられている薬でございますが。…しかし旦那様、旦那様は私を御疑いになられたのですか?」
「あの話の流れで疑わない方がどうかしてるだろ…?」
「で、それが言い訳、もとい旦那様の言い分でございましょうか?」
「……ごめんなさい」
「いえ、旦那様に謝罪していただく必要は全くございません。そのように勘違いを生じさせてしまうよう仕向けた私にも若干ながらの責任は御座いますし。…いえ、どちらにしても全てが旦那様の責任問題に帰結するので変りはありませんか。失礼いたしました」
「だよなぁ。だから俺が、お前に一服もられたか?って疑っても仕方ないよな?な??」
「はい…と言うよりも真実ですので旦那様のご着眼には感服いたしておりました。もっともそれは本日の事ではなく昨日の事でございますが。ですのでその頭痛は二日酔いの類ではないと、進言させていただきましょう」
「て、おいっ!?」
「では、私は昨日の片づけが残っておりますのでこれで失礼させていただきます」
「待てって…て、言っても待つはずもない、か。………いや、若干思い出してきたなぁ。道理で昨夜は何か途中から気分がよくなってきたわけだ。酔ってるからだと思って気にしなかったが……、よし、じゃあマジで奴の薬を調合してみるか」
「もっともその薬の類を管理しておりますのがこの私でございますがね」
本日の一口メモ〜
予め言って置きます。
実はこの話は次の話の落ちの部分に当たります。そして、
最悪です。
読めば分かる。
旦那様の今日の格言
「良薬が口に苦いとは限らないのさ」
メイドさんの今日の戯言
「所詮、酔っ払いの戯言です」